合計特殊出生率は過去最低~令和5年人口動態統計月報年計(概数)より

 

先日、「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)」が公表されました。

合計特殊出生率が過去最低の「1.20」となったことが大きな話題となっていますので、

今回は、この結果の概要をお知らせします。

 

1、人口動態調査について

 

人口動態調査は、統計法に基づく基幹統計の一つである「人口動態統計」を作成するための統計調査として、

行われているものです。

その目的は、出生、死亡、婚姻、離婚及び死産の人口動態事象を把握し、

人口及び厚生労働行政施策の基礎資料を得ることにあります。

今回の結果では、令和5年1年間に日本において発生した日本人の事象を集計しています。

 

2、令和5年の結果のポイント

 

①出生数:727,277人で過去最少(8年連続減少)(対前年43,482人減少)

②合計特殊出生率:1.20で過去最低(8年連続低下)(同0.06ポイント低下)

③死亡数:1,575,936人で過去最多(3年連続増加)(同6,886人増加)

④自然増減数:△848,659人で過去最大の減少(17年連続減少)(同50,368人減少)

⑤死産数:15,532胎で増加(同353胎増加)

⑥婚姻件数:474,717組で減少(同30,213組減少)

⑦離婚件数:183,808組で増加(同4,709組増加)

 

3、令和5年の結果の概要

 

(1)出生数について

・出生数は727,277人で、前年より43,482人減少し、出生率(人口千対)は6.0で、前年より低下しています。

・出生数の年次推移をみると、昭和24年をピークに、昭和50年以降は減少と増加を繰り返しながら

減少傾向が続いており、平成27年は5年ぶりに増加しましたが、平成28年から再び減少しています。

・第1子出生時の母の平均年齢は平成27年から横ばいとなっていましたが、令和3年は6年ぶりに上昇し、

令和5年は31.0歳で、2年ぶりに上昇しました。

 

(2)合計特殊出生率について

合計特殊出生率とは、ここでは、その年次の15歳~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、

1人の女性がその年次の年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子ども数に相当します。

・令和5年の合計特殊出生率は1.20で、前年の1.26より低下し、過去最低となりました。

・年次推移をみると、平成18年から上昇傾向が続いていましたが、平成26年に低下し、

平成27年の再上昇の後、平成28年からは再び低下しています。

・合計特殊出生率の内訳を母の年齢(5歳階級)別にみると、最も出生率が高いのは、30~34歳となっています。

出生順位別では、全ての順位で低下しています。

・都道府県別にみると、沖縄県(1.60)、宮崎県(1.49)、長崎県(1.49)が高く、東京都(0.99)、

北海道(1.06)、宮城県(1.07)が低くなっています。

 

(3)死亡数・死亡率について

・令和5年の死亡数は1,575,936人で、前年より増加しています。

・死亡数の年次推移をみると、昭和50年代後半から増加傾向となり、平成15年に100万人を超え、

増加傾向が続きました。令和2年は11年ぶりに減少しましたが、再び増加に転じ令和4年に続き、

令和5年も150万人台となっています。

・死亡率(人口10万対)を年齢(5歳階級)別にみると、50~54歳及び70~74歳を除く40歳以上の各階級で

前年より低下しています。

 

(4)婚姻について

・令和5年の婚姻件数は474,717組で、前年より減少し、婚姻率(人口千対)は3.9で、前年より低下しています。

・婚姻件数の年次推移をみると、昭和47年をピークに、昭和50年代以降は増加と減少を繰り返しながら

推移しています。平成25年からは、令和元年に7年ぶり、令和4年に3年ぶりの増加がありましたが、

減少傾向が続いています。

・初婚の妻の年齢(各歳)の構成割合を10年ごとに比較すると、ピークの年齢は、20年前は27歳で、

令和5年は26歳となっていますが、年齢の低い者の割合が低下し、年齢の高い者の割合が上昇する傾向にあります。

・令和5年の平均初婚年齢は、夫31.1歳、妻29.7歳で、夫妻ともに前年と同年齢となっています。

これを都道府県別にみると、平均初婚年齢が最も低いのは、夫が島根県及び宮崎県の30.0歳、妻は島根県の28.9歳、

最も高いのは夫妻とも東京都で、夫32.3歳、妻30.7歳となっています。

 

(5)離婚について

・令和5年の離婚件数は183,808組で、前年より増加し、離婚率(人口千対)は1.52で、前年より上昇しています。

・離婚件数の年次推移をみると、昭和39年以降毎年増加を続けましたが、昭和59年からは減少しました。

平成に入り再び増加傾向にありましたが、平成14年をピークに減少傾向が続いています。

2024年7月1日

割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて

 

在宅勤務をする労働者に使用者から支給されるいわゆる在宅勤務手当について、

割増賃金の算定基礎から除外することができる場合を明確化するため、

在宅勤務手当が実費弁償と整理される場合について、先般、厚生労働省労働基準局長から、

改めて通知が発出されました。

 

1、割増賃金の基礎となる賃金について(労働基準法第37条第5項、同則第21条)

 

労働基準法においては、割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金として、

①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金及び

⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つが規定されています。

 

この点に関し、在宅勤務手当については、労働基準関係法令上の定めはなく、

企業において様々な実態がみられますが、一般的には、この7つには該当しないと考えられます。

したがって、当該手当が労働基準法第11条に規定する賃金に該当する場合には

、割増賃金の基礎となる賃金に算入されることになります。

これに対して、在宅勤務手当が、事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると

整理される場合には、当該手当は同法第11条に規定する賃金に該当せず、

割増賃金の基礎となる賃金にも算入されないこととなります。

 

2、実費弁償の考え方

 

通知によれば、在宅勤務手当が、事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると

整理されるためには、次のことが必要であるとされています。

①労働者が実際に負担した費用のうち業務のために使用した金額を特定し、

当該金額を精算するものであることが外形上明らかであること。

②上記①のため、就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示されており、かつ、当該計算方法は、

在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法であること。

 

したがって、例えば、企業が従業員に対して毎月一定額を支給し、従業員が在宅勤務に通常必要な費用として

使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの等は、実費弁償に該当せず、賃金に該当し、

割増賃金の基礎に算入すべきものとなります。

 

3、実費弁償の計算方法

 

在宅勤務手当のうち実費弁償に当たり得るものには、事務用品等の購入費用、

通信費(電話料金、インターネット接続に係る通信料)、電気料金などがありますが、

これらが「事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されている」と整理されるために必要な

「在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法」としては、

次の方法などが考えられることとされています。

(1)国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」

(国税庁FAQ)で示されている計算方法

(2)前記(1)の一部を簡略化した計算方法

(3)実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法

 

4、実費弁償の具体的な計算方法~通信費、電気料金等~

 

(1)国税庁FAQで示されている計算方法〔前記3(1)〕による場合

業務のために使用した部分の計算方法として、次のような算式が示されています。

・インターネット接続に係る基本使用料や通信料等

=従業員が負担した1か月の基本使用料や通信料等×(その従業員の1か月の在宅勤務日数÷当該月の日数)

×2分の1

・電気料金に係る基本料金や使用料

=従業員が負担した1か月の基本料金や電気使用料×(業務のために使用した部屋の床面積÷自宅の床面積)

×(その従業員の1か月の在宅勤務日数÷当該月の日数)×2分の1

 

(2)前記(1)の一部を簡略化した計算方法〔前記3(2)〕による場合

手当の支給対象となる労働者ごとに、手当の支給月からみて直近の過去複数月(3か月程度)の「各料金の金額」

及び「当該複数月の暦日数」並びに「在宅勤務をした日数」を用いて、業務のために使用した1か月当たりの

各料金の額を前記(1)の例により計算します。

この計算方法による場合には、在宅勤務手当の金額を毎月改定する必要はなく、

当該金額を実費弁償として一定期間(最大で1年程度)、継続して支給することができますが、

常態として当該手当の額が実費の額を上回っているような場合には、当該上回った額は、

賃金として割増賃金の基礎に算入すべきものとなります。

 

(3)実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法〔前記3(3)〕による場合

この方法は、実費の額を上回らないよう1日当たりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定めたうえで、

当該単価に在宅勤務をした日数を乗じた額を支給するものです。

合理的・客観的に単価を定める方法としては、次の手順が例示されています。

①企業内の一定数の労働者について、国税庁FAQの例により、1か月当たりの額を計算する。

②前記①の計算により得られた額を、当該労働者が当該1か月間に在宅勤務をした日数で除し、

1日当たりの単価を計算する。

③一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日当たりの単価のうち、最も額が低いものを、

当該企業における在宅勤務手当の1日当たりの単価として定める。

2024年6月4日

育児休業給付金の受給期間延長手続きの厳格化

 

育児休業給付金の受給期間について、子供を保育所に入所する意思がないにもかかわらず、

これを延長する目的で自治体に入所を申し込む者があり、これが自治体の負担となっているとの指摘などを受けて、

令和7年4月1日以降、その延長の可否の判断が厳格化されることとなりました。

 

1、育児休業給付金の受給期間

 

育児休業給付金については、原則として、子が1歳に達する日までの休業について支給することとされています。

ただし、「子が1歳に達した日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と

認められる場合」には、1歳6か月又は2歳に達する日まで支給することができます。

 

この「子が1歳に達した日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められる場合」の

1つとして、「育児休業の申出に係る子について、保育所等における保育の利用を希望し、申込みを行っているが、

当該子が1歳に達する日後の期間について、当面その実施が行われない場合」が規定されています。

 

なお、この場合の「保育所等」とは、児童福祉法に規定する保育所、認定こども園法に規定する

認定こども園又は児童福祉法に規定する家庭的保育事業等をいい、「保育所」には、

いわゆる無認可保育施設は含まれません。

 

2、現行の手続き

 

「保育所等における保育の利用を希望し申込みを行っているが、当面保育が実施されない場合」として、

育児休業給付金の受給期間の延長に当たっては、育児休業の申出に係る子について、

次のいずれにも該当することが必要です。

(1)あらかじめ市町村に対して保育利用の申込みを行っていること

この要件を満たすためには、次の2つが要件となります。

・市区町村で保育所等の入所申込みを1歳に達する日または1歳6か月に達する日までに行うこと

入所可能か市町村に問い合わせをするだけでは受給期間は延長されません。入所の申込みが必要です。

・入所希望日を子が1歳に達する日の翌日(子の1歳の誕生日)または1歳6か月に達する日の翌日以前とすること

入所申込みの際に、入所希望日を1歳に達する日の翌日または1歳6か月に達する日の翌日後とした場合は、

原則として受給期間は延長されません。

 

(2)原則、子が1歳に達する日の翌日または1歳6か月に達する日の翌日の時点で、

市町村から次のいずれかの通知がなされていること

・市町村が発行する教育・保育給付を受ける資格を有すると認められない旨の通知

・保育所等の利用ができない旨の通知

 

また、第1次申込みで内定を得た保育所等の内定を辞退した場合(内定の辞退について第1次申込みを行ったときから

内定を辞退したときまでの間に住所や勤務場所等に変更があり内定した保育所等に子を入所させることが

困難であったこと等のやむを得ない理由がある場合は除かれます。)には、当該1歳に達する日後の期間については、

育児休業給付金の対象外となります。

 

3、改正の概要

 

子供を保育所に入所させる意思がないにかかわらず、労働者が育児休業給付金の受給期間を延長する目的で、

自治体へ入所を申し込む行為を防止するため、「保育の利用を希望し、申込みを行っているが、

当該子が1歳に達する日後の期間について、当面その実施が行われない場合」について、

「速やかな職場復帰を図るために保育所等における保育の利用を希望しているものであると

公共職業安定所長が認める場合に限る」旨が追加されました。

 

この「速やかな職場復帰のために保育所等における保育の利用を希望しているものであると

公共職業安定所長が認める場合」については、ハローワークにおいて、入所保留通知に加え、

本人が記載する申告書と、市町村への利用申込書の写しを提出させることにより、

次の点を確認することとなる予定です。

・利用を申し込んだ保育所等が、合理的な理由なく、自宅又は勤務先からの移動に相当の時間を要する施設のみと

なっていないこと

・市区町村に対する保育利用の申込みに当たり、入所保留となることを希望する旨の意思表示を行っていないこと

 

4、改正後の規定の適用

 

この改正は、施行日である令和7年4月1日以後に育児休業に係る子が1歳に達する場合

(「パパママ育休プラス」により育児休業が1歳2か月に達するまでの範囲で延長されている場合は、

当該育児休業の終了予定日とされた日に達する場合)又は1歳6か月に達する場合に適用されます。

つまり、すでに育児休業給付金を受給中であっても、令和6年4月1日以降に出生した子について

延長を申請する場合などや、令和5年10月1日以降に出生した子について再延長を申請する場合にも、

今回の改正が適用されることになります。

2024年5月1日

労働基準法等の届出等の電子申請と本社一括届出

 

各種の行政手続きについては順次、電子申請が可能となり、利便性の向上が図られています。

労働基準法関係、最低賃金法関係、雇用保険関係、労働保険関係、社会保険関係などの手続きについても

例外ではなく、政府が運営する行政情報のポータルサイト「e-Gov(イーガブ「電子政府の総合窓口」)」から、

電子申請を利用して行うことができるようになっています。

 

1、電子申請により手続きが可能な労働基準法関係の届出

 

電子申請とは、現在紙によって行われている申請や届出などの行政手続を、インターネットを利用して

自宅や会社のパソコンを使って行えるようにするものです。

労働基準法に定められた各種の届出については、次のものを含め、50種類の以上の届出が電子申請により

手続きが可能となっています。

・時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)

・就業規則の届出

・1年単位の変形労働時間制に関する協定届 等

 

2、労働基準法関係の電子申請に関する近年の変更点

 

労働基準法関係の電子申請による手続きについては近年、次のような変更が行われています。

【令和3年4月1日】

電子署名・電子証明書が不要になりました。

【令和5年2月27日】

1年単位の変形労働時間制に関する協定届の本社一括届出が開始されました。

受付印が付いた控えをダウンロードできる手続きが27の届出・申請等に拡充されました。

36協定届のエラーチェック機能が拡充されました。

【令和6年1月4日】

36協定届の新様式が追加されました。

【令和6年2月23日】

1か月単位の変形労働時間制に関する協定届等の本社一括届出が開始されました。

 

3、本社一括届出手続について

 

次の届出については、事業場単位でそれぞれの所管労働基準監督署に届け出る必要がありますが、

次の条件に該当する場合には、本社において各事業場の届出を一括して本社の所轄労働基準監督署に届け出ることが

できます。

また、これらのうち、次の(3)から(6)についての本社一括届出は、電子申請の場合にのみ可能となっています。

 

(1)36協定届

「労働者保険番号」「労働保険番号」「事業の種類」「事業の名称」「事業の所在地(電話番号)」

「労働者数(満18歳以上の者)」及び「協定成立年月日」以外の協定内容が同一であること。

ただし、電子申請の場合に限り、「(労働者側)協定当事者」が事業場ごとに異なっていても本社一括届出が

可能です。

 

(2)就業規則届

①本社で作成された就業規則と各事業場の就業規則の内容が同一であり、かつ、②各事業場分の労働者代表の意見書が

添付されていること。

 

(3)1年単位の変形労働時間制に関する協定届(令和5年2月27日~)、

1箇月単位の変形労働時間制に関する協定届(令和6年2月23日~)、1週間単位の変形労働時間制に関する協定届

「事業の種類」「事業の名称」「事業の所在地(電話番号)」「常時使用する労働者数」

「該当労働者数(満18歳未満の者)」「協定成立年月日」及び「(労働者側)協定当事者」以外の協定内容が

同一であること。

 

(4)事業場外労働に関する協定届

「事業の種類」「事業の名称」「事業の所在地(電話番号)」「該当労働者数」「36協定の届出年月日」

「協定成立年月日」及び「(労働者側)協定当事者」以外の協定内容が同一であること。

 

(5)専門業務型裁量労働制に関する協定届

「労働保険番号」「事業の種類」「事業の名称」「事業の所在地(電話番号)」「該当労働者数」

「時間外労働に関する協定の届出年月日」「協定成立年月日」及び「(労働者側)協定当事者」以外の協定内容が

同一であること。

 

(6)企画業務型裁量労働制に関する決議届

「労働保険番号」「事業の種類」「事業の名称」「事業の所在地(電話番号)」「常時使用する労働者数」

「労働者数」「決議の成立年月日」「時間外労働に関する協定の届出年月日」「委員会の委員数」

「任期を定めて指名された労働者側委員の氏名、任期」「その他委員の氏名」

及び「委員会の委員の半数について任期を定めて指名した労働組合の名称又は過半数代表者の職名及び氏名」

以外の決議内容が同一であること。

なお、これらの届出のほか、企画業務型裁量労働制に関する報告についても、電子申請の場合であって、

所定の条件を満たすときは、本社一括届出(報告)が可能です。

2024年4月2日

「自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」

 

能登半島地震を受け、被災時の対応について、厚生労働省から、令和6年2月2日付で

「令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A」(以下「Q&A」とします。)が

公表されました。

 

1、「Q&A」の概要

 

自然災害が発生すると、被災地に所在する事業場においては、事業の継続が困難になったり、

事業活動が著しく制限されたりします。

また、被災地以外に所在する事業場においても、道路の途絶等から原材料、製品等の流通に支障が生じるなど、

事業活動に影響が出ることも少なくありません。

この「Q&A」においては、そのような中にあって、労働者に対して使用者が守らなければならない事項等

について、一般的な考え方が取りまとめられています。

 

取り上げられている項目は、次のとおりです(〔 〕内はQの数)。

・地震、洪水等の自然災害の影響に伴う休業に関する取扱いについて〔5〕

・派遣労働者の雇用管理について〔2〕

・地震、洪水等の自然災害の影響に伴う解雇等について〔7〕

・労働基準法第24条(賃金の支払)について〔3〕

・労働基準法第25条(非常時払)について〔2〕

・労働基準法第32条の4(1年単位の変形労働時間制)について〔1〕

・労働基準法第33条(災害時の事業外労働等)について〔1〕

・労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)について〔1〕

・労働基準法第39条(年次有給休暇)について〔2〕

・労災補償について〔2〕

・安全衛生関係について〔4〕

・その他〔2〕

 

2、「Q&A」の具体的な内容

 

被災した場合においても、基本的には、使用者には労働基準法などの遵守が求められます。

以下においては、「Q&A」から、回答を抜粋・要約してご紹介します。

 

(1)地震、洪水等の自然災害の影響に伴う休業に関する取扱いについて

・被災により、事業の休止などを余儀なくされた場合において、労働者を休業させるときには、

労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力することが大切です。

また、休業を余儀なくされた場合の支援策(災害時における雇用保険制度の特別措置や雇用調整助成金など)を

活用し、労働者の保護を図ることが望まれています。

・災害により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、

休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても

なお避けることのできない事故に該当すると考えられます。したがって、このような場合には、原則として、

使用者の責めに帰すべき事由による休業には該当せず、休業手当の支払義務はないものと考えられます。

 

(2)地震、洪水等の自然災害の影響に伴う解雇等について

・災害を理由とすれば 無条件に解雇や雇止めが認められるものではありません。

・災害により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受けたために事業の全部又は大部分の継続が不可能

となった場合は、原則として、労働基準法第19条(解雇制限)及び同法第20条(解雇の予告)の除外に係る

「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に当たるものと考えられます。

したがって、このような場合には、所轄労働基準監督署長の除外認定の対象になり得ます。

 

(3)労働基準法第24条(賃金の支払)について

・賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないと

されています。

天災事変などの理由により、この賃金支払義務を免除する規定はありません。

・会社が災害により倒壊したことにより、事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金の支払いの

見込みがないなど、一定の要件を満たす場合には、国が事業主に代わって未払賃金を立替払いする

「未払賃金立替払制度」を利用することができます。

 

(4)労働基準法第33条(災害時の時間外労働等)について

・労働基準法第33条第1項の適用については、被災状況、被災地域の事業者の対応状況、

当該労働の緊急性・必要性等を勘案して個別具体的に判断することになります。

・災害により、被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインの早期復旧のため、被災地域外の他の事業者が

協力要請に基づき作業を行う場合であって、労働者に時間外・休日労働を行わせる必要があるとき等についても、

被害が相当程度のものであり、一般に早期のライフラインの復旧が人命・公益の保護の観点から急務と

考えられる場合は、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。

 

(5)労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)について

・事業活動再開後の業務量の増加に伴い、36協定で定める範囲を超える時間外労働が必要となった場合において、

これを可能とするためには、新たに36協定を締結し直し、届け出ることが必要です。

ただし、36協定の再締結を行う場合であっても、対象期間の起算日を変更することは

原則として認められないこととされています。

2024年3月1日

産前産後期間における国民健康保険料(税)の免除

 

厚生年金保険及び健康保険のほか、国民年金については、産前産後期間の保険料を免除する措置がありましたが、

国民健康保険保険料(税)については、これまで、そのような措置がありませんでした。

こども・子育て支援の拡充を図る観点から、国民健康保険法等が改正され、

2024(令和6)年1月から、都道府県等が行う国民健康保険についても、届出により、

産前産後期間における国民健康保険料(税)を免除(減額)する措置が導入されました。

 

1、制度の概要

 

・世帯に出産する予定の国民健康保険の被保険者又は出産した被保険者(出産被保険者)がある場合には、

当該世帯の世帯主に対して賦課する国民健康保険料の所得割額及び被保険者均等割額が減額されます。

・減額される額は、出産被保険者の出産予定月の前月(多胎妊娠の場合には、3か月前)から

出産予定月の翌々月までの期間に係る所得割額及び被保険者均等割額です。

・減額分については、国が2分の1、県と市町村で4分の1ずつを負担します。

・出産被保険者に係る国民健康保険税についても、同様の措置が講じられます。

 

2、免除(減額)措置の対象者及び内容など

 

産前産後期間の国民健康保険料(税)の免除(減額)の措置は、各市町村の定める条例に基づき行われますが、

おおむね次のとおり、国民年金保険料の産前産後期間の免除措置に準じた内容となっています。

 

(1)免除の対象者

国民健康保険料(税)の納付が免除されるのは、2023(令和5)年11月1日以降に出産する予定の

又は出産した被保険者の分です。

出産する予定の、又は出産した被保険者以外で、同一世帯に属する被保険者の分は、免除の対象となりません。

 

(2)免除(減額)の内容

対象となる被保険者につき、出産予定日又は出産日が属する月の前月から起算して4か月間

(多胎妊娠(双子以上)の場合は、出産予定日又は出産日が属する月の3か月前から起算して6か月間)の

所得割額及び均等割額が免除されます。所得制限はありません。

免除の対象となるのは、2024(令和6)年1月分以降の国民健康保険料(税)です。

したがって、例えば、2023(令和5)年11月1日の出産(予定)であった場合は、

該当期間は2023(令和5)年10月~2024(令和6)年1月の4か月ですが、

実際に免除の対象となるのは、2024(令和6)年1月の1か月分となります。

③国民健康保険料(税)については、次のような軽減制度がありますが、

このような他の事由で保険料の軽減を受けている場合であっても、この免除措置が併用されます。

・所定の所得基準を下回る世帯について、被保険者応益割(均等割・平等割)額の7割、

5割又は2割を減額する制度

・未就学児の均等割保険料を軽減する制度(2022(令和4)年4月導入)

 

(3)届出

産前産後期間の国民健康保険料(税)の免除(減額)措置は、出産予定、

または出産した被保険者が属する世帯の世帯主等からの届出に基づき、行われます。

この届出は、出産予定日の6か月前から行うことができます。

ただし、届出がない場合でも出産の事実等が確認できた場合は、職権でこの措置が行われる場合があります。

 

なお、国民健康保険組合が行う国民健康保険の多くでも、同じような産前産後期間の保険料の免除措置が

講じられているようです。

 

3、産前産後期間における国民年金保険料の免除(参考)

 

国民年金法においても、国民年金第1号被保険者が出産した際に、出産前後の一定期間の国民年金保険料が

免除される制度が2019(平成31)年4月から導入されています。

 

(1)免除の対象

出産予定日又は出産日が属する月の前月から4か月間(多胎妊娠の場合は、出産予定日または出産日が属する月の

3か月前から6か月間)の国民年金保険料が免除されます。

なお、任意加入被保険者は、免除の対象となりません。

 

(2)届出

国民年金第1号被保険者は、産前産後期間の保険料の免除の適用を受けようとするときは、

所定の事項を記載した届書を市町村長に提出する必要があります。

この届出は、出産予定日の6か月前から行うことができます。

 

(3)手続きをするメリット

産前産後期間の保険料の免除制度では、「保険料が免除された期間」も保険料を納付したものとして

老齢基礎年金の受給額に反映されます。

届出を行う期間について、すでに国民年金保険料免除・納付猶予、学生納付特例が承認されている場合でも、

届出が可能です。

産前産後期間の保険料が免除される期間であっても、付加保険料を納付することができます。

また、国民年金基金の加入員の資格も喪失しません。

2024年2月2日

労働条件の明示事項が追加されます!

 

「労働基準法施行規則」「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」が改正され、

2024(令和6)年4月1日から、労働条件の明示事項等が追加されます。

今回は、概要をお知らせしますので、早めに確認して、必要な準備を進めてくださいね。

 

1、追加される明示事項

 

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。

この明示事項には、①労働契約の期間、②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準、

③就業の場所及び従事すべき業務、④始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等、

⑤賃金、昇給、⑥退職その他の14事項が定められています。

今回の改正により、これに次の事項が追加されます。

・就業場所・業務の変更の範囲

・更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容

・無期転換申込機会

・無期転換後の労働条件

 

2、「就業場所・業務の変更の範囲」の明示について

 

すべての労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに、「雇入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、

これらの「変更の範囲」についても明示が必要になります。

・明示の対象となる労働者は、すべての労働者です。

無期契約労働者だけでなく、パート・アルバイトや契約社員、派遣労働者、定年後に再雇用された労働者などの

有期契約労働者も含みます。

・変更の範囲の明示が必要となるのは、2024(令和6)年4月1日以降に契約締結・契約更新をする労働者です。

・「就業場所と業務」とは、労働者が通常就業することが想定されている就業の場所と、

労働者が通常従事することが想定されている業務のことを指します。

ただし、臨時的な他部門への応援業務や出張、研修等、就業の場所や従事すべき業務が

一時的に変更される際の一時的な変更先の場所や業務は含まれません。

・「変更の範囲」とは、今後の見込みも含め、その労働契約の期間中における就業場所や

従事する業務の変更の範囲のことをいいます。

・いわゆるテレワークを雇入れ直後から行うことが通常想定されている場合は、「雇入れ直後」の就業場所として、

また、その労働契約期間中にテレワークを行うことが通常想定される場合は、「変更の範囲」として明示します。

 

3、「更新上限の有無と内容」の明示について

 

(1)有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、

更新上限(有期労働契約の通算契約期間又は更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要になります。

・明示の対象となる労働者は、パート・アルバイトや契約社員、派遣労働者、

定年後に再雇用された労働者などの有期契約労働者です。

・更新上限がない場合にその旨を明示することは求められていませんが、

有期労働契約の更新上限の有無を書面等で明示することは労働契約関係の明確化に資するため、

モデル労働条件通知書では更新上限がない場合にその旨を明示する様式とされています。

 

(2)最初の労働契約の締結後に、更新上限を新設し、又は、短縮しようとする場合は、

あらかじめ(更新上限の新設又は短縮をする前のタイミングで)、更新上限を設定する、

又は、短縮する理由を労働者に説明することが必要になります。

 

4、「無期転換申込機会」の明示について

 

無期転換ルールに基づく「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、

無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)の明示が必要になります。

・「無期転換ルール」は、同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えるときに、

労働者の申込みにより、無期労働契約に転換する制度です。

・明示の対象となる労働者は、無理転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する有期契約労働者です。

無転換申込権を行使しない旨を表明している有期契約労働者も含まれます。

・初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も有期労働契約を更新する場合は、

更新のたびに、無期転換申込機会の明示が必要になります。

 

5、「無期転換後の労働条件」の明示について

 

(1)「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要になります。

・明示の対象となる労働者は、無期転換申込権が発生する有期契約労働者です。

・明示する労働条件は、労働契約締結の際の明示事項と同じものです。

・初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も有期労働契約を更新する場合は、

更新のたびに、無期転換後の労働条件の明示が必要になります。

 

(2)「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たって、

他の通常の労働者(正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)とのバランスを考慮した事項

(例:業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲など)について、有期契約労働者に説明するよう

努めなければならないこととなります。

2024年1月9日

いわゆる年収の壁~支援強化パッケージについて

 

人手不足への対応が急務となる中で、短時間労働者がいわゆる「年収の壁」を意識せずに働くことができるよう、

その環境づくりが進められています。

社会保険分野における環境づくりを支援するため、厚生労働省から、当面の対応として

支援強化パッケージが示され、これが実施されています。

 

1、「年収の壁」とは?

 

年収が一定の金額を超えると、税金や社会保険(厚生年金保険料及び健康保険)の保険料がかかり始めたり、

給料から控除される金額が増えたりする場合があります。

この税金や社会保険の保険料がかかり始めたり、給料から控除される金額が増えたりする基準として

意識される収入の金額が、「年収の壁」といわれるものです。

「年収の壁」には、税制上の壁(103万円、150万円など)と、

社会保険上の年収の壁(106万円、130万円)があります。

例えば、年収が103万円を超えると所得税が課税され始めます。

また、一定規模以上の企業にお勤めの場合に年収が106万円を超えると社会保険の保険料の負担が発生します。

これらが給料から控除されることで手取り収入が減少することがあるわけです。

 

2、「年収の壁」による課題

 

社会保険においては、会社員の配偶者等で一定の収入がない方は、被扶養者(20歳以上60歳未満の配偶者は、

併せて国民年金第3号被保険者となります。)として、保険料の負担が発生しません。

そのため、現状では、被扶養者として社会保険料の負担がないまま働くために、

就業調整をしている方々が一定程度存在します。

 

一方で、昨今、高い水準で行われている賃上げの流れをパートやアルバイトで働く短時間労働者の方々にも

波及させていくためには、この「年収の壁」を意識することなく、本人の希望に応じて可能な限り

労働参加ができる環境をつくることが重要です。

また、深刻化する人手不足への対応が急務となっていますが、

本人の希望に応じて可能な限り労働参加できる環境をつくることは、人手不足への対応にもつながります。

 

このようなことから、だれもが「年収の壁」を意識することなく働くことができるような環境づくりが

求められているわけです。

 

3、年収の壁・支援強化パッケージ(厚生労働省・令和5年10月から)

 

短時間労働者への被用者保険の適用が拡大されている中、パートやアルバイトで働く方々が、

社会保険上の「年収の壁」を意識せずに働くことができる環境づくりを後押しするため、

令和5年10月から、次のような施策(支援強化パッケージ)が実施されています。

 

(1)「106万円の壁」への対応

厚生年金保険の被保険者数101人以上(令和6年10月以降:51人以上)の企業等においては、

短時間労働者であっても、年収が106万円以上となり、所定の要件を満たすと、社会保険に加入することとなります。

①キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の新設

このような方々の被用者保険の加入に併せて、手取り収入を減らさせない取り組みを実施する企業を対象として、

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)が新設されました。

10月1日以降、事業主が新たに社会保険の適用を行った場合に、労働者1人あたり最大50万円が助成されます。

②社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外

事業主が、被用者保険の適用に併せて、手取り収入を減らさないよう手当を支給した場合は、当面の措置として、

本人負担分の保険料相当額を上限として、社会保険料の算定対象としないこととされています。

 

(2)「130万円の壁」への対応

短時間労働者であっても、年収が130万円以上となると、被扶養者の範囲を超えるため、

ご自身で国民年金・国民健康保険に加入することとなります。

短時間労働者が、繁忙期に労働時間を延ばしたことなどにより、収入が一時的に上がったとしても、

事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となる仕組みが、

当面の措置として、設けられました。

この措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)は、被扶養者の収入確認に当たって、

通常提出が求められる書類と併せて、一時的な収入変動である旨の事業主の証明を提出することで、

保険者による円滑な被扶養者認定を図るものです。

 

(3)配偶者手当への対応

配偶者の勤務先から配偶者手当をもらうために就業調整をしている短時間労働者もいることから、

企業の配偶者手当の見直しを促すリーフレット等が作成・公表されています。

具体的には、配偶者手当の見直しの手順が、

「①賃金制度・人事制度の見直し検討に着手」

→「②従業員のニーズを踏まえた案の策定」

→「③見直し案の決定」

→「④決定後の新制度の丁寧な説明」

といった4ステップのフローチャートで示されています。

また、手当の見直し内容の具体例としては、

「配偶者手当の廃止(縮小)+基本給の増額」

「配偶者手当の廃止(縮小)+子ども手当の増額」

「配偶者手当の廃止(縮小) + 資格手当の創設」

「配偶者手当の収入制限の撤廃」

などが挙げられています。

2023年12月5日

労働者協同組合を知っていますか?

 

令和4年10月1日に労働者協同組合法が施行され、「労働者協同組合」に関する法人制度がスタートして、

1年ほどが経過しました。

厚生労働省が把握している限りでも、令和5年10月23日時点で、1都1道1府21県で計60法人が

労働者協同組合として設立されているとのことです。

厚生労働省も、労働者協同組合を通じ、多様な働き方を実現しつつ、地域の課題の解決のために活動される方々の

選択肢が広がるよう、さまざまな周知広報に取り組んでいます。

そこで、今回は、労働者協同組合について、概要をご紹介します。

 

1、「労働者協同組合法」について

 

(1)目的

労働者協同組合法は、労働者協同組合の設立や運営、管理などについて定めた法律です。

その目的は、多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における

多様な需要に応じた事業が行われることを促進することにより、持続可能で活力ある地域社会の実現に

資することにあります。

 

(2)労働者協同組合法ができた背景

我が国では、少子高齢化が進む中、人口の減少する地域において、介護、障害福祉、子育て支援、

地域づくりなど幅広い分野で、多様なニーズが生じており、その担い手が必要とされています。

これまでは、これらの多様なニーズに応え、担い手となろうとする人々は、それぞれのさまざまな生活スタイルや

多様な働き方が実現されるよう、状況に応じてNPOや企業組合といった法人格を利用し、

あるいは任意団体として法人格を持たずに活動していました。

しかし、これらの枠組みのもとでは、出資ができないこと、営利法人であること、財産が個人名義となることなど

、いずれも一長一短があります。

そこで、多様な働き方を実現しつつ地域の課題に取り組むための新たな組織として、

労働者協同組合という新たな組合が創設されることとなったわけです。

 

2、「労働者協同組合」の要件

 

労働者協同組合は、次の①~③の基本原理に従い事業が行われることを通じて、

持続可能で活力ある地域社会に資する事業を行うことを目的とするものである必要があります。

①出資原則:組合員が出資すること

②意見反映原則:その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること

③従事原則:組合員が組合の行う事業に従事すること

 

この基本原理のほかに、労働者協同組合は、次の要件を備えなければなりません。

・組合員が任意に加入し、又は脱退することができること

・組合員との間で労働契約を締結すること

・組合員の議決権及び選挙権は、出資口数にかかわらず、平等であること

・組合との間で労働契約を締結する組合員が総組合員の議決権の過半数を保有すること

・剰余金の配当は、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行うこと

 

3、労働者協同組合の主な特色

 

(1)労働者協同組合が行う事業

基本原理に従って行われる、持続可能で活力ある地域社会の実現に資する事業であれば、

労働者派遣事業を除くあらゆる事業が可能です。

介護・福祉関連(訪問介護等)、子育て関連(学童保育等)、地域づくり関連(農産物加工品販売所等の拠点整備等)

など、地域における多様な需要に応じた事業を実施できます。

ただし、介護保険事業など、許認可等が必要な事業についてはその規制を受けます。

 

(2)設立手続き

労働者協同組合は、NPO法人(認証主義)や企業組合(認可主義)と異なり、行政庁による許認可等を必要とせず、

法律に定めた要件を満たし、登記をすれば法人格が付与されます。

また、これらの法人よりも少ない人数である、3人以上の発起人がいれば、労働者協同組合を設立することができます。

 

(3)事業の運営等

労働者共同組合は法人格を持ちます。そのため、労働者協同組合の名義で契約などをすることができます。

株式会社の株主と異なり、出資額にかかわらず、組合員は平等に1人1個の議決権と選挙権を保有しています。

組合員が平等の立場で、話し合い、合意形成をはかりながら事業を実施します。

また、組合は定款にどのように意見反映を行うかを明記し、理事は意見反映状況とその結果を総会で報告します。

労働者協同組合は組合員との間で労働契約を締結します。

これにより、組合員は労働基準法、最低賃金法、労働組合法などの法令による労働者として保護されます。

 

(4)その他

剰余金の配当は、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて(従事分量配当)行うことができます。

都道府県知事に決算関係書類などを提出する必要があるなど、都道府県知事による監督を受けます。

2023年11月1日

心理的負荷による精神障害の労災認定基準が新しくなりました!

 

心理的負荷による精神障害の労災請求事案については、「心理的負荷による精神障害の認定基準」

(以下「認定基準」とします。)により、当該精神障害が業務上の疾病に該当するか否かの認定が行われます。

この認定基準について、近年の社会情勢の変化等や最新の医学的知見を踏まえた検討が行われた結果、改正が行われ、

令和5年9月1日より適用されています。

 

1、認定基準の概要

 

(1)対象疾病

この認定基準で対象とする疾病(対象疾病)は、疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10回改訂版(ICD-10)

第Ⅴ章「精神及び行動の障害」に分類される精神障害であって、器質性のもの及び有害物質に起因するものを

除くこととされています。

対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、主としてICD-10のF2からF4に分類される

精神障害です。

たとえば、統合失調症はF2、気分障害はF3、神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害はF4に

分類されています。

また、気分障害のなかに躁病エピソード、双極性感情障害、うつ病エピソード、反復性うつ病性障害、

持続性気分障害、他の気分障害、特定不能の気分障害と分類されています。

 

(2)認定要件

次の①~③のいずれの要件も満たす対象疾病は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する

業務上の疾病として取り扱われます。

①対象疾病を発病していること。

②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。

③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

また、要件を満たす対象疾病に併発した疾病については、対象疾病に付随する疾病として認められるか

否かを個別に判断し、これが認められる場合には当該対象疾病と一体のものとして取り扱われます。

 

(3)業務による強い心理的負荷の有無の判断

前記(2)の認定要件のうち②に関し、心理的負荷の評価に当たっては、発病前おおむね6か月の間に、

対象疾病の発病に関与したと

考えられるどのような出来事があり、また、その後の状況がどのようなものであったのかが具体的に把握され、

その心理的負荷の強度が判断されます。

この判断に際しては、精神障害を発病した労働者が、その出来事及び出来事後の状況を主観的に

どう受け止めたかではなく、同じ事態に遭遇した場合に、同種の労働者が一般的にその出来事及び出来事後の状況を

どう受け止めるかという観点から評価されます。

そのうえで、「業務による心理的負荷評価表」などにより、心理的負荷の全体を総合的に評価して

「強」と判断される場合には、認定要件の②を満たすものとされます。

 

(4)業務による心理的負荷の強度の判断

業務による心理的負荷の強度の判断は、実際に発生した業務による出来事を、「業務による心理的負荷評価表」に示す

「具体的出来事」に当てはめることにより行われます。

 

2、認定基準の改正のポイント

 

認定基準については、次の「心理的負荷評価表」の明確化等により、より適切な認定、審査の迅速化、

請求の容易化が図られました。

(1)業務による心理的負荷評価表の見直し

新たな認定基準においては、「業務による心理的負荷評価表」について、次のような見直しが行われました。

①具体的出来事の追加、類似性の高い具体的出来事の統合等

具体的出来事に追加されたものは、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた

(いわゆるカスタマーハラスメント)」、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」の二つです。

②心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充

・パワーハラスメントの6類型すべての具体例、性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含むことが

明記されました。

・一部の心理的負荷の強度しか具体例が示されていなかった具体的出来事について、他の強度の具体例が

明記されました。

 

(2)精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し

従前の認定基準では、悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ

業務起因性が認められませんでした。

新たな認定基準では、悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」

により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性が認められることとなりました。

 

(3)医学意見の収集方法を効率化

従前の認定基準では、例えば、自殺事案や、心理的負荷の強度が「強」かどうかが不明な事案などについては、

専門医3名の合議による意見収集が必須とされていました。

新たな認定基準では、これらの専門医3名の合議により決定していた事案について、特に困難なものを除き、

1名の意見で決定できるよう変更されました。

2023年10月2日