能登半島地震を受け、被災時の対応について、厚生労働省から、令和6年2月2日付で
「令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A」(以下「Q&A」とします。)が
公表されました。
1、「Q&A」の概要
自然災害が発生すると、被災地に所在する事業場においては、事業の継続が困難になったり、
事業活動が著しく制限されたりします。
また、被災地以外に所在する事業場においても、道路の途絶等から原材料、製品等の流通に支障が生じるなど、
事業活動に影響が出ることも少なくありません。
この「Q&A」においては、そのような中にあって、労働者に対して使用者が守らなければならない事項等
について、一般的な考え方が取りまとめられています。
取り上げられている項目は、次のとおりです(〔 〕内はQの数)。
・地震、洪水等の自然災害の影響に伴う休業に関する取扱いについて〔5〕
・派遣労働者の雇用管理について〔2〕
・地震、洪水等の自然災害の影響に伴う解雇等について〔7〕
・労働基準法第24条(賃金の支払)について〔3〕
・労働基準法第25条(非常時払)について〔2〕
・労働基準法第32条の4(1年単位の変形労働時間制)について〔1〕
・労働基準法第33条(災害時の事業外労働等)について〔1〕
・労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)について〔1〕
・労働基準法第39条(年次有給休暇)について〔2〕
・労災補償について〔2〕
・安全衛生関係について〔4〕
・その他〔2〕
2、「Q&A」の具体的な内容
被災した場合においても、基本的には、使用者には労働基準法などの遵守が求められます。
以下においては、「Q&A」から、回答を抜粋・要約してご紹介します。
(1)地震、洪水等の自然災害の影響に伴う休業に関する取扱いについて
・被災により、事業の休止などを余儀なくされた場合において、労働者を休業させるときには、
労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力することが大切です。
また、休業を余儀なくされた場合の支援策(災害時における雇用保険制度の特別措置や雇用調整助成金など)を
活用し、労働者の保護を図ることが望まれています。
・災害により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、
休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても
なお避けることのできない事故に該当すると考えられます。したがって、このような場合には、原則として、
使用者の責めに帰すべき事由による休業には該当せず、休業手当の支払義務はないものと考えられます。
(2)地震、洪水等の自然災害の影響に伴う解雇等について
・災害を理由とすれば 無条件に解雇や雇止めが認められるものではありません。
・災害により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受けたために事業の全部又は大部分の継続が不可能
となった場合は、原則として、労働基準法第19条(解雇制限)及び同法第20条(解雇の予告)の除外に係る
「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に当たるものと考えられます。
したがって、このような場合には、所轄労働基準監督署長の除外認定の対象になり得ます。
(3)労働基準法第24条(賃金の支払)について
・賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないと
されています。
天災事変などの理由により、この賃金支払義務を免除する規定はありません。
・会社が災害により倒壊したことにより、事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金の支払いの
見込みがないなど、一定の要件を満たす場合には、国が事業主に代わって未払賃金を立替払いする
「未払賃金立替払制度」を利用することができます。
(4)労働基準法第33条(災害時の時間外労働等)について
・労働基準法第33条第1項の適用については、被災状況、被災地域の事業者の対応状況、
当該労働の緊急性・必要性等を勘案して個別具体的に判断することになります。
・災害により、被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインの早期復旧のため、被災地域外の他の事業者が
協力要請に基づき作業を行う場合であって、労働者に時間外・休日労働を行わせる必要があるとき等についても、
被害が相当程度のものであり、一般に早期のライフラインの復旧が人命・公益の保護の観点から急務と
考えられる場合は、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。
(5)労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)について
・事業活動再開後の業務量の増加に伴い、36協定で定める範囲を超える時間外労働が必要となった場合において、
これを可能とするためには、新たに36協定を締結し直し、届け出ることが必要です。
ただし、36協定の再締結を行う場合であっても、対象期間の起算日を変更することは
原則として認められないこととされています。