法律トピックス

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健康保険・厚生年金保険の加入対象が広がりました!

 

平成28年10月1日施行の改正により、所定の要件に該当する短時間労働者に対しても、健康保険・厚生年金保険が適用されることとなりました。

 

1、新たに加入することになる対象者とは?

(1)被保険者資格取得の基準(4分の3基準)の明確化

これまでも、①1日又は1週間の所定労働時間及び②1か月の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者のおおむね4分の3以上である短時間労働者の方は、被保険者として取り扱われていましたが、今回の改正により、このうちの①を1週間の所定労働時間のみで判断することが明確化されました。

これにより、①1週間の所定労働時間及び②1か月の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の労働者の4分の3以上である短時間労働者の方が被保険者となります。

 

(2)特定適用事業所に勤める短時間労働者への適用拡大

前記(1)に該当しない方であっても、次のすべてに該当する方は、被保険者となります。

①1週間の所定労働時間が20時間以上であること

②雇用期間が1年以上見込まれること

③賃金の月額が8万8,000円以上であること

④学生でないこと

⑤常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること

特定適用事業所とは、同一事業主(法人番号が同一)の適用事業所の短時間労働者を除いた被保険者数の合計が、1年で6か月以上、501人以上であると見込まれる事業所をいいます。

 

なお、これらに該当しない方であっても、従来の基準で被保険者に該当していた方は、引き続き同じ事業所に雇用されている間は、被保険者として取り扱われます。

 

2、健康保険・厚生年金保険に加入するメリットは?

メリットとしては、次のようなことが挙げられています。

(1)将来、老齢厚生年金がもらえるようになったり、もらえる額が増えたりする。

(2)所定の場合には障害厚生年金・遺族厚生年金などを受けることが可能となる。

(3)医療保険の給付(傷病手当金・出産手当金)が充実する。

(4)保険料の労使での折半負担により保険料が安くなることがある。

 

3、適用拡大に伴って必要となる手続きは?

(1)特定適用事業所に該当する場合

平成28年10月1日時点で特定適用事業所に該当する適用事業所については、「特定適用事業所該当通知書」が送付されますので、「特定適用事業所該当届」の提出は不要です。

一方、特定適用事業所に該当すると見込まれる事業所については、「特定適用事業所に関する重要なお知らせ」が送付されますので、特定適用事業所の要件を満たす場合には、本店または主たる事業所の事業主から「特定適用事業所該当届」を提出しなければなりません。

 

(2)健康保険・厚生年金保険の被保険者となる労働者がいる場合

新たに被保険者となる方々がいる適用事業所の事業主は、その方々について「被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。

なお、対象となる方が国民健康保険に加入されていた場合には、その方が自身で、お住まいの市区町村に対して国民健康保険の資格喪失の届出を行う必要があります。

 

(3)健康保険の被扶養者が特定適用事業所に勤務している場合

特定適用事業所に該当しない500人以下の適用事業所でも、健康保険の被扶養者になっている方が特定適用事業所に勤務している場合には、確認が必要です。

その被扶養者となっている方が、新たに被保険者となる場合には、被扶養者でなくなるため「健康保険被扶養者(異動)届」の提出が必要となるためです。

 

(4)特定適用事業所において被保険者の雇用条件が変更なった場合

健康保険・厚生年金保険では、1週間の所定労働時間又は1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満の被保険者の方を短時間労働者、それ以外の被保険者の方を一般被保険者として取り扱います。

特定適用事業所に勤務する被保険者の雇用条件が変更となり、被保険者の区分(一般被保険者または短時間労働者)が変更となった場合には、「被保険者区分変更届」を提出します。

 

4、今回の改正にあたって

今回の改正は、事業主の方々からみれば、手続きが煩雑になったり、保険料の負担が多くなったりすることはありますが、被保険者の方々にとっては一定のメリットもあるわけです。

労働者の所定労働時間を5時間以上延長し、厚生年金保険などの適用対象とした事業主に対するキャリアアップ助成金なども用意されています。

人材確保の観点からも、これを、前向きに労働条件を見直す機会として捉えてもよいのかもしれません。

 

ちなみに、今回の改正により、老齢厚生年金を受給している方が短時間労働者として被保険者(または70歳以上の被用者)になった場合には、在職老齢年金制度により、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止となることがありますので、最後に補足までに。

2016年10月6日

「介護休業給付金」の給付率が引き上げられましたが?!

 

政府の掲げる「1億総活躍社会」の実現に向けた取り組みの一つとして、「介護離職ゼロ」を推進していくこととされています。

その一環として、平成28年8月1日施行の雇用保険法の改正により、介護休業給付金の給付率が引き上げられました。

 

1、そもそも介護休業給付金を知っていますか?

介護休業給付金は、雇用保険の雇用継続給付の一つで、所定の要件を満たす雇用保険の被保険者が対象家族を介護するための休業をした場合に、支給されます。

具体的には、原則として、介護休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上ある被保険者が、次の要件をいずれも満たす場合に、支給されます。

(1)介護休業期間中の各1ヵ月(支給単位期間)について、休業開始前の1か月当たりの賃金の8割以上の賃金が支払われていないこと。

(2)就業している日数が支給単位期間ごとに10日以下(休業終了日が含まれる支給単位期間は、就業している日数が10日以下であり、かつ、休業日が1日以上)あること。

 

2、介護休業給付金の額

介護休業給付の支給対象期間(1か月)ごとの支給額は、原則として、「休業開始時賃金日額×支給日数×給付率」で計算します。

(1)賃金日額

賃金日額は、介護休業開始前6か月の賃金を180で除した額です。

 

また、賃金日額には、上限額と下限額(平成28年8月1日以降は2,290 円)があります。

上限額については、平成28年8月1日以降に開始した介護休業には、年齢にかかわらず、45歳から59歳までの者に適用されるもの(同日以降は15,550円)が適用されます。

従来は、30歳から44歳までの賃金日額の上限額(同日は14,150 円)が適用されていましたので、上限額が引き上げられたことになります。

 

(2)支給日数

支給日額は、1支給対象期間につき30日(休業終了日の属する支給対象期間にあっては、当該支給対象期間の日数)です。

 

(3)給付率

平成28年8月1日以降に開始した介護休業に係る給付率は、これまでの100分の40から100分の67に引き上げられました。

 

したがって、休業終了日が属する支給対象期間以外における介護休業給付金の額は、例えば、休業開始時賃金日額が10,000円であれば、1支給対象期間(1か月)につき20万1,000円(=10,000円×30日×100分の67)となります。

なお、介護休業給付金の支給に当たっては、事業主から支払われた賃金の額に応じて、調整が行われることがあります。

 

3、申請手続き

介護休業給付金の支給を受けるためには、次の手続きが必要です。

(1)休業開始時賃金月額証明書の提出

被保険者が対象家族の介護のため休業を開始したときは、事業主は、休業開始時賃金月額証明書を、支給申請書を提出する日までに、事業所の所在地を管轄するハローワークに提出します(次の申請書の提出と同時でもかません。)。

(2)申請書の提出

介護休業給付金の支給を受けようとする者は、介護休業終了日の翌日から起算して2か月を経過する日の属する月の末日までに、事業主を経由して申請書を提出します。

 

4、介護休業給付金の受給も選択肢の一つに!

総務省「就業構造基本調査」で、家族の介護や看護による離職者数の推移を見ると、離職者数は増減を繰り返しているものの、平成23年10月から平成24年9月の1年間では、約9万5,000人となっています。

これに対して、厚生労働省の資料によれば、介護休業給付金の平成26年の受給者数は9,600人にとどまっています。

 

その理由の一つとして、この制度自体が利用しづらいものであることが挙げられます。

この点については、平成29年1月1日施行の育児・介護休業法の改正に伴い、介護休業給付金においても、①介護休業の分割取得を可能にし、②対象家族の範囲を拡大することが予定されています。

 

ただ、いくら制度が使いやすくなったとしても、必要な方々にその制度自体を知ってもらえなければ、いつまでたってもこれが有効に活用されることはありません。

介護休業給付金に限らず、「介護に係る両立支援制度が分からない」という理由で離職している方も少なくないようです。

どのような制度があるのかについては、また順次ご紹介しますが、介護休業をした場合に受けられるこのような給付があることも、知っておいていただければと思います。

2016年9月5日

有期労働契約の「無期転換ルール」~準備を始めていますか?

労働契約法には、労働者の申込みにより、有期労働契約(期間の定めのある労働契約)を無期労働契約(期間の定めのない労働契約)に転換することができる「無期転換ルール」が定められています。

 

1.無期転換ルールが適用されると?

(1)無期転換の申込みができる場合

同一の使用者との間で締結された有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合に、無期転換申込権が発生し、労働者は無期転換の申込みができるようになります。

この申込みは、通算契約期間が5年を超えることとなる契約期間の初日から末日までの間に、することができます。

 

通算契約期間とは、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除きます。)の契約期間を通算した期間をいいます。

通算契約期間の計算の対象となる有期労働契約は、平成25年4月1日以後に開始したものです。平成25年3月31日までに開始したものは対象となりません。

また、通算契約期間の計算にあたって、有期労働契約とその次の有期労働契約の間に、契約がない期間が6か月以上(通算対象の契約期間が1年未満の場合は、その2分の1以上)あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含めません(クーリング)。

 

(2)無期転換の申込みがなされた場合

労働者から無期転換の申込みがなされた場合には、使用者がその申込みを承諾したものとみなされ、その時点で、無期労働契約が成立します。

これにより、申込時の有期労働契約が終了する日の翌日から、無期労働契約に転換されます。

 

成立した無期労働契約の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、契約期間に関する部分を除き、原則として、直前の有期労働契約と同一となりますが、労働協約、就業規則、個々の労働契約(無期転換に当たり労働条件を変更することについての労働者と使用者との個別の合意)で別段の定めをすることにより、労働条件を変更することもできます。

ただし、無期転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後の労働条件を低下させることは、望ましいことではありません。

 

もちろん無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄させることはできません。

 

2.労使で取り組むべきこと

このような無期転換ルールについて、次のような取り組みが求められます。

(1)現場における有期契約労働者の活用の実態の把握

各事業所における有期契約労働者の人数や担当している業務の内容のほか、更新の判断基準、更新回数、勤続年数などについて、現在の社内規程や運用実態などを把握します。

(2)有期契約労働者の活用方針の明確化と無期転換ルールへの対応の検討

前記(1)を踏まえて、今後の有期契約労働者の活用方針を明確にしたうえで、無期転換ルールへの対応を検討します。

この際には、あらかじめ、労使間で、有期契約労働者の担当する業務や労働条件などを十分に確認することが重要です。

(3)無期転換後の労働条件の検討

無期転換後の社員区分や労働条件については、①無期契約労働者(契約期間のみを無期とし、その他の労働条件は直前の有期労働契約と同一とすること)のほか、②多様な正社員区分や③正社員区分に移行させ、その区分の労働条件を適用することなどが考えられます。

 

3.高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者等についての特例

次の労働者については、その能力が有効に発揮されるよう、事業主が適切な雇用管理を実施する場合には、それぞれに掲げる期間、無期転換申込権が発生しないこととなります。

①高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者(高度専門職の年収要件と範囲があります。)

:一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上限10年)

②定年後引き続き雇用される有期雇用労働者:定年後引き続き雇用されている期間

この特例の適用を受けるためには、対象労働者の特性に応じた雇用管理に関する措置についての計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受ける必要があります。

 

この特例のほかに、大学等及び研究開発法人の研究者、教員等についての特例(該当する研究者、教員等について、無期転換申込権発生までの期間を10年とするもの)もあります。

 

4.無期転換ルールへの準備を!

無期転換ルールを定めた改正労働契約法が施行された平成25年4月1日から通算5年目を迎える平成30年4月には、対象となる労働者が現れ始めます。

まだ先の話と思うかもしれませんが、就業規則の見直しや各種規程の整備などが必要となる可能性があることを考えると、それほど後回しにできる状況ではありません。

この無期転換ルールは、有期労働契約を繰り返し更新している労働者の雇止めの不安を解消し、安心して働き続けることができるようにすることを目的として創設されました。

労働者の意欲や能力の向上の側面のみならず、事業活動に必要な人材の確保の側面からも、無期転換ルールを前向きに捉え、対応を検討し始めたいところです。

2016年8月8日

受動喫煙防止対策、進んでいますか?

平成27年6月1日施行の労働安全衛生法の改正により、職場の「受動喫煙防止対策」が事業者の努力義務となりました。

それから1年余りが経過しましたが、事業場の受動喫煙対策は進んでいますか?

 

1 受動喫煙の影響での死亡者数が年間1万5,000人!?

平成28年5月末に、一部で「厚生労働省の研究班の調査によると、非喫煙者で、家族や職場の同僚が喫煙している場合に、受動喫煙が原因で死亡する人は、年間1万5,000人と推計される」との報道がなされました。

2010年の前回調査(6,800人)から大幅に増えたわけですが、その原因は、これまで、受動喫煙は、肺がんや心筋梗塞などに因果関係があるとされていましたが、前回調査以降、脳卒中やSIDS(乳幼児突然死症候群)にも因果関係があるとされたことにあるそうです。

この推計値の評価はともかくとして、かなり衝撃的な数値です。

 

2 労働安全衛生法による事業者の努力義務

職場における労働者の受動喫煙を防止するため、事業者は、次のような手順で、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるように努めなければなりません。

この努力義務は、資本金や常時雇用する労働者の数にかかわらず、すべての事業者に課せられています。

 

(1)現状把握と分析

次のようなことについて、事業者と事業場に関する情報を集め、求められる対策やその実施に当たっての課題などを検討します。

①特に配慮すべき労働者の有無(例:妊娠している者、呼吸器・循環器に疾患をもつ者、未成年者)

②職場の空気環境の測定結果

③事業場の施設の状況(例:事業場の施設が賃借であること、消防法等他法令による施設上の制約)

④労働者及び顧客の受動喫煙防止対策の必要性に対する理解度

⑤労働者及び顧客の受動喫煙防止対策に関する意見・要望

⑥労働者及び顧客の喫煙状況

 

(2)具体的な対策の決定

分析の結果を踏まえて、施設設備(ハード面)と計画や教育など(ソフト面)の対策を効果的に組み合わせた、具体的な対策(実施可能な対策のうち最も効果的なもの)を決定します。

対策例としては、次のようなものがあります。

ハード面:敷地内全面禁煙、屋内全面禁煙(屋外喫煙所)、空間分煙(喫煙室)等

ソフト面:担当部署の決定、推進計画の策定、教育・啓発・指導、周知・掲示等

対策の決定や計画の策定に当たっては、衛生委員会(安全衛生委員会)での調査・審議を行います(衛生委員会がない事業場でも、関係労働者の意見をよく聴いてください。)。

 

(3)対策の実施・点検・見直し

決定した対策を実施した後は、その効果を確認し、必要に応じて、対策の内容を見直していく必要があります。

また、事業場内に喫煙室など喫煙可能な区域がある場合は、定期的に空気環境の測定が望まれます。

 

3 国の援助

国も、次のような受動喫煙防止対策についての支援事業を実施しています。

①中小企業事業主を対象とした屋外喫煙所や喫煙室などの設置にかかる費用の助成(受動喫煙防止対策助成金:助成率2分の1(上限200万円))

②受動喫煙防止対策の技術的な相談の受付(電話相談・実地指導)、周知啓発のための説明会の開催、企業・団体の会合への講師派遣

③空気環境の測定機器(粉じん計、風速計、一酸化炭素計、臭気計)の貸出し

 

4 職場での受動喫煙被害に関して事業主が訴えられるケースも!

職場での受動喫煙に関して、労働者が事業主に損害賠償請求を提起した事例もみられます。

先日の報道によれば、職場で受動喫煙状態となり、煙草の煙に起因する化学物質過敏症(シックハウス症候群)と診断された労働者が、会社に対して慰謝料などを求める訴えを提起した事案で、会社側が解決金として約350万円を支払う内容の和解が成立したそうです(大阪高等裁判所:平成28年5月31日和解)。

過去には、職場で受動喫煙被害を受け、急性受動喫煙症となった労働者が、会社に分煙などの改善要求を行ったところ解雇されたとして、解雇の無効確認と給与の支払いを求める訴えを提起し、会社側が約700万円を支払う内容の和解が成立した事案もあります(札幌地裁岩見沢支部:平成21年4月1日和解)。

 

受動喫煙によって、非喫煙者が不快感やストレスなどを受けることがあります。

また、受動喫煙による健康影響も時には非常に深刻なものとなることがあります。

労働者の健康を保持増進し、快適な職場環境を形成することは、事業者の責務の一つです。

職場の受動喫煙防止対策を実施し、見直すことで、さらなる職場環境の向上に努めましょう。

2016年7月5日

「同一労働同一賃金」の実現に向けて!

安倍内閣の推進する「一億総活躍社会」の実現に向けた働き方改革の大きな柱の一つに位置づけられたこともあり、最近、「同一労働同一賃金」という言葉を耳にする機会が多くなりました。

今回は、この「同一労働同一賃金」について、概観してみたいと思います。

 

1、そもそも「同一労働同一賃金」とは?

一般に、同じ労働に対して同じ賃金を支払うべきという考え方をいいます。

性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、労働の種類と量に基づいて賃金を支払う賃金政策として具体化されます。

 

なお、職種が異なる場合であっても労働の質が同等であれば、同一の賃金水準を適用するという「同一価値労働同一賃金」の概念が、ILO憲章の前文に挙げられています。

また、世界人権宣言にも、「すべての人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報酬を受ける権利を有する」と規定されています。

 

2、わが国の法制度における「同一労働同一賃金」

わが国の法制度においても、「同一労働同一賃金」の概念はある程度、反映されています。

その中心的な規定としては、次のものが挙げられます。

(1)いわゆる「均等待遇」に関する規定:パートタイム労働法9条

この規定では、通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者に対する差別的取扱いが禁止されています。

通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者とは、職務内容(業務内容・責任の程度)、人材活用の仕組み(職務内容・配置の変更範囲)及び運用が通常の労働者と同じパートタイム労働者をいいます。

 

(2)いわゆる「均衡待遇」に関する規定:パートタイム労働法8条、労働契約法20条

これらの規定では、パートタイム労働者や有期契約労働者と通常の労働者との待遇の相違は、職務内容、人材活用の仕組み及び運用その他の事情を考慮して、不合理であってはならないものとされています。

 

このほかにも、例えば、労働基準法4条には「男女同一賃金の原則」同法3条には「均等待遇」が規定されています。

また、派遣労働者についても、労働者派遣法に、均衡を考慮した待遇の確保等に関する規定同法30条の3第1項・2項、40条2項・3項・5項)が設けられています。

 

3、わが国の現状

(第1回同一労働同一賃金の実現に向けた検討会における「厚生労働省提出資料」参照)

わが国の役員を除く雇用者全体に占める非正規雇用労働者の割合は、増加傾向にあり、2015年平均では、37.5%に達しています。

雇用形態別にみると、特にパート・アルバイトの増加が顕著ですが、その一方で、フルタイム労働者に対するパートタイム労働者の賃金水準は、ヨーロッパ諸国では7~8割程度であるのに対して、わが国は6割弱となっています。

 

4、今後に向けて

(1)「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」の公布・施行(平成27年9月16日)

近年、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されています。

この法律では、これらの状況を是正するため、①労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにするとともに、②労働者の雇用形態による職務及び待遇の相違の実態、雇用形態の転換の状況等に関する調査研究等について定めています。

 

(2)同一労働同一賃金の実現に向けた検討会

「同一労働同一賃金」の原則により非正規労働者の処遇の改善(公正な処遇)を促し、多様な状況にある人々がそれぞれの状況の中でその能力を十分に発揮できる多様で魅力的な就業環境を整えていくことは、内閣の目指す「一億総活躍社会」の実現に向けた不可欠の取組みの一つとして位置づけられています。

これを踏まえ、現在、厚生労働省の同一労働同一賃金の実現に向けた検討会において、わが国における「同一労働同一賃金」の実現に向けた具体的方策が検討されています。

 

一口に「同一労働同一賃金」と言っても、何をもって「同一労働」というのか自体も実は明確ではありませんし、大企業と中小企業との間の賃金格差の問題などもあります。

また、正規労働者と非正規労働者(パート労働者・有期契約労働者)の待遇格差については、現状では、それが合理的であるか否かの個別的な判断にとどまっていることも否めません。

一方で、労働者が、その雇用形態にかかわらず、その職務に応じた待遇を確保され、充実した職業生活を営むことができるようになることは、だれもが望むところです。

検討会での検討などを踏まえ、どのような施策が講じられることになるのかについては、今後も注目していきたいと思います。

2016年6月2日

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