「テレワーク」という選択肢もあるかも?

1、テレワークとは?

テレワークとは、パソコンなどの情報通信技術を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方をいいます。

 

テレワークには、次のようなものがあります。

【雇用型テレワーク】事業者と雇用契約を結んだ労働者が自宅等で働くテレワーク

①自宅でのテレワーク:労働者が自宅において業務に従事するもの

②サテライトオフィス勤務:労働者が属する部署があるメインのオフィスではなく、郊外の住宅地に近接した地域にある小規模なオフィス等で業務に従事するもの

③モバイルワーク:外勤中にノートパソコン、携帯電話などを利用して、オフィスとの連絡や情報のやりとりをしつつ業務に従事するもの

【非雇用型テレワーク】事業者と雇用契約を結ばずに仕事を請け負い、自宅等で働くテレワーク(在宅就業、在宅ワーク、SOHOなど)

請負契約等に基づき、情報通信機器を活用してサービスの提供等を在宅形態で行うもの

 

2、テレワークのメリット

テレワークでは、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができます。

そのため、例えば、自宅でのテレワークを実施した場合には、労働者には、次のようなメリットがあるといわれています。

・育児や介護、病気の治療などをしながら働くことができる

・通勤時間の削減などにより自由に使える時間が増える

・通勤が難しい高齢者や障碍者の就業機会が拡大する

 

一方、企業にも、次のようなメリットがあるといわれています。

・災害や感染症の大流行などが発生した際にも事業を継続することができる

・柔軟な働き方が可能になることにより優秀な人材を確保することができる

・オフィススペースに必要な経費や通勤手当などを削減することできる

 

3、テレワークを導入するに当たって

テレワークを行う者も、事業主と雇用関係にあれば、労働者に該当します。

したがって、このような者にも労働基準法、労働契約法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等が適用されます。

(1)就業規則などの整備

テレワークを導入する際には、就業規則にテレワークに関する規定が必要です。

就業規則や労働契約の変更を伴う場合には、労働基準法や労働契約法に基づいて、所定の手続きを執らなければなりません。

 

(2)労働時間の管理

テレワークの普及が長時間労働を招いては本末転倒ですから、テレワークの導入に当たっては、労働時間の管理を適切に行うことが大切です。

テレワークを行う場合でも、労働時間の算定が可能であれば、労働基準法の労働時間に関する規制が適用されます。

どうしても労働時間を算定することが難しく、一定の要件を満たす場合には、「事業場外みなし労働時間制」を利用することができます。

 

(3)その他の注意したいこと

テレワークの導入にあたっては、労使で認識に相違がないよう、あらかじめ導入の目的、対象となる業務、労働者の範囲、在宅勤務の方法等について、労使で十分に協議することが望まれます。

また、業務内容や業務遂行方法等を明確にするとともに、テレワークを行う労働者が懸念を抱くことがないように、業績評価や賃金制度を構築したいところです。

一方、テレワークを行う労働者においても、勤務する時間帯や自らの健康に十分注意を払いつつ、作業効率を勘案して自律的に業務を遂行することが求められます。

 

4、テレワークという選択肢

国土交通省が行った「平成28年度テレワーク人口実態調査」によれば、「勤務先にテレワーク制度等がある」と回答した割合は、雇用者全体のうち14.2%ですが、「制度等あり」と回答したテレワーカーのうち約7割が「プラスの実施効果を感じている」と回答しています。

従来のオフィス中心の働き方に、このような柔軟な働き方を選択肢の一つとして加えることによって、働き方の質が向上することも確かなようです。

業種・職種・役職などによって導入の可否・適否は異なるでしょうし、いざ導入しようとなれば、検討しなければならないことは多々あるでしょうけれども、テレワークの導入を少し検討してみることもよいのかもしれませんね。

2017年8月1日

産業医の先生をご存じですか?

 

産業医制度の充実を図ること等を目的として、平成29年6月1日から、労働安全衛生規則の一部が改正されました。

今回は、これを機に、産業医の役割などを含めて、少しご紹介したいと思います。

 

1、産業医とは?

産業医とは、労働者の健康管理等を行う医師です。

産業医になることができるのは、医師のうちでも、労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識についての所定の研修を修了した者などに限られます。

 

労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、産業医の選任が義務づけられています。

なお、常時使用する労働者数が 50 人未満の事業場においても、産業医の選任義務はないものの、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等に、労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならないこととされています。

 

2、産業医の仕事

産業医は、次のようなことを行っています。

(1)労働者の健康管理に関すること(健康診断、長時間労働者に対する面接指導等の実施及びその結果に基づく措置、ストレスチェック、高ストレス者への面接指導及びその結果に基づく措置、作業環境の維持管理、作業の管理)。

(2)健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。

(3)労働衛生教育に関すること。

(4)労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

 

産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者や総括安全衛生管理者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をし、または、衛生管理者に対して指導や助言することができます。

また、産業医は、少なくとも毎月1回、作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければなりません。

 

3、今回の改正で何が変わった?

過重労働による健康障害防止対策、メンタルヘルス対策等が重大な課題となっていることから、これらの対策等に関して必要な措置を講じるための情報収集等について、次のような改正が行われました。

(1)定期巡視の頻度

産業医が、毎月1回以上、一定の情報(衛生管理者が行う巡視の結果など)が事業者から産業医に提供される場合であって、事業者の同意を得ているときは、定期巡視の頻度を少なくとも2か月に1回とすることができるようになりました。

 

(2)健康診断結果に基づく医師等からの意見聴取を行ううえで必要となる情報の提供

事業場の規模にかかわらず、定期健康診断の異常所見者については、就業上の措置に関して医師または歯科医師からの意見聴取が事業者に義務づけられています。

事業者は、医師等から、この意見聴取を行ううえで必要となる当該労働者の業務に関する情報を求められた場合は、速やかに、当該情報を提供しなければならないこととなりました。

この「労働者の業務に関する情報」には、労働者の作業環境、労働時間、作業態様、作業負荷の状況、深夜業等の回数・時間数等があります。

 

(3)産業医に対する長時間労働者に関する情報の提供

事業者は、時間外・休日労働時間(休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間)を算定したときは、速やかに、次の情報を提供しなければならないこととなりました。

①時間外・休日労働時間が1か月当たり100時間を超えた労働者の氏名(そのような労働者がいない場合には、その旨)

②当該労働者に係る超えた時間に関する情報

 

これらの情報は、産業医による長時間労働者に対する面接指導の申出の勧奨のほか、健康相談等で、活用されることが想定されています。

 

4、よき相談相手の一人に。

平成29年3月28日に働き方改革実現会議において決定された「働き方改革実行計画」においても、「労働者の健康確保のための産業医・産業保健機能の強化」が掲げられています。

働く人々が健康の不安なく、働くモチベーションを高め、最大限に能力を向上・発揮することを促進するためにも、産業医の役割が今後さらに注目されます。

 

産業医を選任することで、労働者の健康管理が可能となるほか、衛生教育などを通じ職場の健康意識が向上したり、職場における作業環境の管理などについて助言が受けられたりします。

健康で活力ある職場づくりのために、産業医の先生方を、私たち社会保険労務士とはまた違った立場での相談相手の一人に加えてられるとよいかもしれませんね。

2017年7月5日

6月は「外国人労働者問題啓発月間」です!

 

観光客の方々はもちろん、日本で働く外国人の方々を見かける機会も随分と多くなりました。

厚生労働省では、毎年6月を「外国人労働者問題啓発月間」としており、

今年は「外国人雇用はルールを守って適正に~外国人が能力を発揮できる適切な人事管理と就労環境を!~」を標語に、

事業主や国民を対象とした集中的な周知・啓発活動が行われるそうです。

 

1、外国人労働者の雇用状況は?

雇用対策法に基づき、すべての事業主に、外国人労働者の雇入れ・離職時の届出を義務づけています(詳細は、次の2をご参照ください。)。

この届出を取りまとめて公表される「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成28年10月現在)」(厚生労働省)によると、外国人労働者数は約108万人となり、4年連続で過去最高を更新しました。

また、外国人を雇用している事業所数も、この届出が義務化された平成19年以来初めて17万事業所を超えました。

外国人を雇用している事業所は、事業規模別では、「30人未満」規模の事業所が最も多く、産業別では、「製造業」が最も多く、次いで「卸売業、小売業」「宿泊業、飲食サービス業」「サービス業(他に分類されないもの)」となっています。

 

一方で、外国人労働者の就労状況をみると、次のような課題もあるようです。

①派遣・請負の就労形態が多く雇用が不安定であること。

②社会保険に未加入の労働者が多いこと。

 

2、外国人労働者の雇用状況の届出をお忘れなく!

外国人雇用状況の届出制度は、外国人労働者の雇用管理の改善や再就職支援などを目的として、雇用対策法により、すべての事業主に所定の事項の確認・届出を義務づけるものです。

事業主は、外国人労働者の雇入れ及び離職時には、当該外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間などを確認し、厚生労働大臣(ハローワーク)へ届け出なければなりません。

 

(1)届出の対象となる外国人の範囲

日本の国籍を有しない労働者で、在留資格が「外交」「公用」以外のものが、届出の対象となります。

なお、「特別永住者」については、本邦における活動に制限がないため、外国人雇用状況の届出制度の対象外とされていますので、事業主の確認・届出は不要です。

 

(2)届出事項の確認方法

外国人労働者の在留カード又はパスポートなどの提示を求め、届出事項を確認します。

また、「留学」や「家族滞在」などの在留資格の外国人が資格外活動許可を受けて就労する場合は、在留カードやパスポートまたは資格外活動許可書などにより、資格外活動許可を受けていることを確認する必要があります。

 

(3)届出の方法

雇用する外国人労働者が雇用保険の被保険者となる場合には、「雇用保険被保険者資格取得届」及び「雇用保険被保険者資格喪失届」の所定の欄に、必要事項を記載し提出することで、届出を行ったことになります(届出期限は、これらの届書の提出期限と同じです。)。

 

雇用する外国人労働者が雇用保険の被保険者とならない場合には、「外国人雇用状況届出書」に必要事項を記載し提出することで、届出を行います(届出期限は、雇入れの場合も離職の場合も、ともに翌月の末日です。)。

 

3、外国人労働者についても適切な雇用管理を!

外国人労働者の雇用管理の改善等に関しては、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」において、事業主が行うべき事項が定められています。

その主な内容としては、おおよそ次のようなことが挙げられています。

(1)外国人労働者の募集及び採用の適正化(国籍で差別しない公平な採用選考等)

(2)労働関係法令及び社会保険関係法令の適用(①労働条件面での国籍による差別の禁止その他適正な労働条件の確保、②安全衛生の確保、③雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険の適用等)

(3)適切な人事管理・教育訓練・福利厚生等(①能力を発揮しやすい環境の整備、②日本語教育、③相談体制の整備、④外国人労働者の雇用労務責任者の選任等)

(4)解雇の予防及び再就職の援助(①安易な解雇等を行わないこと、②在留資格に応じた再就職の援助等)

 

4、今後に向けて。

外国人労働者については、不法就労の問題も含め、いまだ様々な問題が指摘されています。

また、政府が取り組んでいる専門的な知識・技術を持つ外国人(いわゆる「高度外国人材」)の就業促進については、企業側の受入れ環境が整っていないなどの理由で、まだ不十分な状況もあります。

とはいえ、外国人労働者は今後も増加すると思われますので、その雇用にあたっては、単に労働力の不足を補おうとするのではなく、その方が在留資格の範囲内で能力を十分に発揮しながら、適正に就労することができるよう適切な雇用管理に努めることが大切ですね。

2017年6月5日

たまには就業規則を読み直してみませんか?

 

新入社員を4月に迎え入れた会社も、そろそろ落ち着いてきたころでしょうか。

ところで、新入社員の方々はもちろん、長年勤めた社員の方々も、ご自身の労働条件をきちんと把握していますか?

今回は、労働条件を記した労働条件通知書と就業規則について概観してみたいと思います。

 

1、労働条件通知書、渡しましたか? 受け取りましたか?

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して労働条件を明示しなければなりません。

この労働条件を明示するために用いられるものが、いわゆる「労働条件通知書」です。

厚生労働省のホームページにも、雇用形態に応じたモデル様式が掲載されています。

 

(1)必ず明示しなければならない事項

労働者を採用する際に必ず明示しなければならない事項には、次のものがあります。

(①~⑥の事項については、書面での明示が必要です。)

①労働契約の期間に関する事項

②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

③就業の場所、従事すべき業務に関する事項

④始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日などに関する事項

⑤賃金の決定方法、支払時期等に関する事項

⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

⑦昇給に関する事項

 

パートタイム労働者については、これらの事項に加えて、(ア)昇給の有無、(イ)退職手当の有無、(ウ)賞与の有無、(エ)相談窓口を文書の交付等により明示する必要があります。

 

(2)定めをした場合に明示しなければならない事項

次の事項について定めをした場合には、これらについても労働者への明示が必要です。

①退職手当に関する事項

②賞与などに関する事項

③食費・作業用品などの負担に関する事項

④安全衛生に関する事項

⑤職業訓練に関する事項

⑥災害補償などに関する事項

⑦表彰・制裁に関する事項

⑧休職に関する事項

 

2、就業規則、作成していますか? 知っていますか?

就業規則は、労働者の労働条件や職場内の規律等について、労働者の意見を聴いたうえで使用者が作成するルールブックです。

常時10人以上の労働者を使用する使用者に作成義務があります。

就業規則を作成し、または、変更したときは、労働者代表の意見書を添えて、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。

また、就業規則は作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法により労働者に周知しなければなりません。

 

(1)就業規則に記載する事項

就業規則には、①始業・終業時刻、休憩、休日等に関する事項、②賃金の決定方法、支払時期等に関する事項、③退職に関する事項(解雇の事由を含む。)を必ず記載しなければなりません。

また、前記1(2)に掲げる事項について定めをした場合には、就業規則にもこれらを記載する必要があります。

 

(2)就業規則の変更による労働条件の変更

法令の改正があったり、会社や職場の事情が変わったりした場合には、就業規則の変更が必要となることがあります。

しかし、労働条件を定めた労働契約は、労働者と使用者を契約の当事者とする合意です。

したがって、使用者が、労働者と合意をすることなく、一方的に就業規則の変更により、労働者に不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することは、原則として、できません。

ただし、①就業規則の変更に合理性があり、②変更後の就業規則が周知されるときは、就業規則の変更による労働条件の不利益な変更が拘束力を持ちます。

就業規則の変更に合理性があるか否かの判断にあたっては、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情が考慮されます。

 

3、就業規則は常に進化を!

使用者にとっての労働条件は、企業の経営にも大きな影響を与えるものの一つです。

労働者にとっての労働条件は、働いている限り、最も関心が高いものであるはずです。

適正な労働条件を確保するだけでなく、皆が安心して働き、無用なトラブルを防ぐためにも、時には就業規則を見直していくことが大切です。

労働者の皆さん、そもそもお勤めの会社の就業規則を見たことがありますか?

使用者の皆さん、何年も前に作成された就業規則がそのままになっていませんか?

長時間労働の是正に向けて!

政府が推進する「働き方改革」における大きなテーマの一つが、「長時間労働の是正」です。

繁忙期における残業時間の上限を「1か月100時間未満」などとする改革案も示されたところです。

これに関連し、今回は、(1)「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果と、(2)労働時間の適正な把握のための「ガイドライン」について、それぞれ概要をお知らせします。

 

1、「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果から

平成29年3月13日に、厚生労働省から、「平成28年度「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果」が公表されました。

この重点監督は、長時間の過重労働による過労死等に関する労災請求のあった事業場や、若者の「使い捨て」が疑われる事業場など、労働基準関係法令の違反が疑われる7,014事業場に対して集中的に実施されたものです。

 

(1)違法な時間外労働

重点監督の結果、違法な時間外労働が認められた事業場は、2,773 事業場(全体の39.5%)に上っています。

また、この2,773事業場のうち、時間外・休日労働(法定労働時間を超える労働のほか、法定休日における労働)の実績が最も長い労働者の時間数が1か月当たり80時間を超えるものが、1,756事業場(63.3%)であったとのことです。

 

(2)主な健康障害防止に係る指導の状況

重点監督の対象となった7,014事業場のうち、過重労働による健康障害防止措置が不十分なため、改善のための指導が行われた事業場は、5,269事業場(75.1%)に上っています。

特に、この5,269事業場のうち、3,299事業場(62.6%)に対しては、時間外労働を月80時間以内に削減するよう指導が行われたとのことです。

一方、重点監督の対象となった7,014事業場のうち、889事業場(12.7%)に対して、労働時間の把握方法が不適正であるとして指導が行われたとのことです。

 

2、労働時間の適正な把握のための「ガイドライン」

平成29年1月20日に、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定されました。

このガイドラインでは、次のようなことが示されています。

 

(1)そもそも「労働時間」とは?

使用者には、労働時間を適正に把握する責務があります。

この「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことです。

使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たります。

例えば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間も、労働時間に該当します。

 

(2)労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

労働基準法の労働時間に係る規定が適用されるすべての事業場において、使用者は、次の措置を講じなければなりません。

①労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること

【始業・終業時刻の確認・記録の原則的な方法】

・使用者が自ら現認すること。

・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎すること。

【やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合の措置】

・自己申告制の対象となる労働者や、実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと。

・自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

・労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

・さらに36協定で定める延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないかを確認すること

 

②賃金台帳の適正な調製等

使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければなりません。

また、使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類を3年間保存しなければなりません。

 

3、まずは労働時間の適正な把握を!

過労死等の防止はもちろんのこと、女性や高齢者などが働きやすい職場環境をつくり、ワーク・ライフ・バランスを改善するためにも、長時間労働の是正は重要な課題といえます。

一方で、長時間労働を是正に当たっては、企業文化や取引慣行を見直すとともに、労働生産性の向上を検討しなければなりません。

簡単に解決できる課題ではありませんが、まずは労働時間を適正に把握し、労使双方で事業場の現状を確認することが大切かもしれませんね。

2017年4月10日

雇用保険の適用が拡大されました!

少子高齢化が進展する中で高齢者等の就業促進及び雇用継続を図ること等を目的とした雇用保険法の改正が行われ、平成29年1月1日以降、65歳以上の労働者についても、「高年齢被保険者」として雇用保険が適用されることとなりました。

 

1、「高年齢被保険者」とは?

65歳以上の被保険者であって、短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者以外の者を「高年齢被保険者」といいます。

従来は、65歳に達した日の前日から引き続いて65歳に達した日以後の日において雇用されている労働者(高年齢継続被保険者)を除き、雇用保険の適用から除外されていましたが、高年齢者の雇用を一層推進するため、65歳以降に新たに雇用される労働者も雇用保険の適用対象とされました。

 

2、資格取得の手続きは?

65歳以上の労働者についても、雇用保険の適用要件(1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込があること)に該当する場合には、資格取得手続が必要です。

(1)平成29年1月1日以降に新たに雇用した場合

当初から適用要件に該当する労働者は、雇用した時点から高年齢被保険者となります。

この労働者の資格取得届は、雇用した日の属する月の翌月10日までに提出します。

一方、雇い入れ後に所定労働時間などの労働条件の変更により適用要件に該当することとなった労働者は、その時点から高年齢被保険者となります。

この労働者の資格取得届は、労働条件が変更となった日の属する月の翌月10日までに提出します。

 

(2)平成28年12月31日までに雇用し、平成29年1月1日以降も継続して雇用している場合

適用要件に該当する労働者は、平成29年1月1日から高年齢被保険者となります。

この労働者の資格取得届は、提出期限について特例が設けられており、平成29年3月31日までに提出することとなっています。

一方、平成29年1月1日以降に所定労働時間などの労働条件の変更により適用要件に該当することとなった労働者は、その時点から高年齢被保険者となります。

この労働者の資格取得届は、労働条件が変更となった日の属する月の翌月10日までに提出します。

 

(3)平成28年12月31日時点で高年齢継続被保険者である労働者を平成29年1月1日以降も継続して雇用している場合

この労働者については、自動的に高年齢被保険者に被保険者区分が変更されますので、資格取得届の提出は不要です。

 

3、雇用保険料の徴収は?

高年齢被保険者についての保険料は、平成31年度までは免除されます。

したがって、平成31年度までは、これまでと同様に、保険年度の初日(4月1日)において64歳以上の労働者からは、雇用保険料の労働者負担分を徴収する必要もありません。

 

4、受けることができる給付は?

平成29年1月1日より、高年齢被保険者も各給付の対象となります。

(1)高年齢求職者給付金

平成29年1月1日以降に高年齢被保険者として離職した場合には、受給要件を満たすごとに、高年齢求職者給付金が支給されます(年金との併給も可能です。)。

また、高年齢求職者給付金の支給を受けることができる資格を有する者(高年齢受給資格者)等については、就職促進給付のうち常用就職支度手当、移転費及び求職活動支援費の支給対象となります。

 

(2)育児休業給付金及び介護休業給付金

平成29年1月1日以降に高年齢被保険者として育児休業や介護休業を新たに開始する場合には、要件を満たせば、育児休業給付金や介護休業給付金の支給対象となります。

 

(3)教育訓練給付金

次のいずれかに該当する者が平成29年1月1日以降に厚生労働大臣が指定する教育訓練を開始する場合には、要件を満たせば、教育訓練給付金の支給対象となります。

①教育訓練を開始した日において高年齢被保険者である者

②離職により高年齢被保険者(平成28年12月31日までに離職した者は高年齢継続被保険者)でなくなった日の翌日から教育訓練の開始日までの期間が1年以内の者

 

5、今回の改正を受けて

平成28年版高齢社会白書(内閣府)によれば、60歳以上の高齢者のうち就労を希望する高齢者の割合は約7割に達しています。

また、平成27年時点で65歳以上の雇用者は458万人にまで増加しています。

今回の改正を契機に、65歳以上の雇用者がさらに増加することが見込まれますので、受け入れる企業側も、このような人材の有効な活用策を検討したいものです。

まずは雇用保険の被保険者について、資格取得届などの必要な届出をお忘れなく!

2017年3月6日

続/育児・介護休業法等が改正されました!

 

前回もお知らせしましたが、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(通称「育児・介護休業法」)が、平成29年1月1日より一部改正されました。

この改正では、次のような雇用環境の整備が図られています。

(1)介護離職を防止し、仕事と介護の両立を可能とするための制度の整備

(2)多様な家族形態・雇用形態に対応した育児期の両立支援制度等の整備

(3)妊娠・出産・育児休業・介護休業をしながら継続就業しようとする男女労働者の就業環境の整備

 

今回は、このうちの(2)及び(3)について、取り上げます。

 

1、子の看護休暇の取得単位の柔軟化

子の看護休暇は、負傷し、又は疾病にかかった子の世話又は疾病の予防を図るために必要な世話を行う労働者に対し与えられる休暇です。

子の看護休暇についても、介護休暇と同様に、半日単位で取得することができることとなりました。

その対象から除外となる労働者などについては、介護休暇に関するものと同様です。

 

2、有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和

育児休業は、子を養育するためにする休業です。

もちろん子の父親、母親のいずれでも育児休業をすることができますが、有期契約労働者については、所定の要件を満たす者に限られます。

この有期契約労働者の育児休業の取得要件が、次のように緩和されました。

①当該事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であること

②子が1歳6か月になるまでの間に、その労働契約(労働契約が更新される場合にあっては、更新後のもの)が満了することが明らかでないこと

 

このうちの②が今回、改正のあった部分です。

育児休業の申出があった時点で労働契約の期間満了や更新がないことが確実であるか否かによって判断されます。

 

3、育児休業等の対象となる子の範囲の拡大

労働者と法律上の親子関係がある子であれば、実子であるか養子であるかを問わず、育児休業の対象となる「子」となります。

また、今回、育児休業の対象となる「子」に、次の関係にある子が追加されました。

①特別養子縁組のための試験的な養育期間にある子を養育している場合

②養子縁組里親に委託されている子を養育している場合

③当該労働者を養子縁組里親として委託することが適当と認められるにもかかわらず、実親等が反対したことにより、当該労働者を養育里親として委託された子を養育する場合

 

これに伴い、子の看護休暇、育児のための所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、短時間勤務の対象となる子の範囲も同様に拡大されます。

一方、介護休業の対象となる子については、従来どおり、法律上の親子関係がある子に限られます。

 

4、育児休業等に関するハラスメントの防止措置

育児休業等に関するハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主に義務づけられました。

育児休業等に関するハラスメントとは、職場において、上司又は同僚による育児休業等の制度又は措置の申出・利用に関する言動により就業環境が害されることをいいます。

 

具体的には、事業主は、次の措置を講じなければなりません。

①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

②相談(苦情を含みます。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③職場における育児休業等に関するハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応

④育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

⑤これらの措置と併せて講ずべき措置

・相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること

・相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

 

なお、平成29年1月1日施行の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(通称「男女雇用機会均等法」の改正により、「妊娠、出産等に関するハラスメントの防止措置」を講ずることも、事業主の義務となりました。

 

 

子育てや介護など家庭の状況から時間的制約を抱えている時期の労働者とって、子育てや介護と仕事の両立は、大きな課題の一つです。

法律でこのような労働者の就業環境の整備等が進められていますが、それだけで家庭と仕事を両立することができるわけではありません。

このような制度を生きたものにしていくためには、職場での取り組みが欠かせませんね。

2017年2月2日

育児・介護休業法が改正されました!

 

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(通称「育児・介護休業法」)が、平成29年1月1日より一部改正されました。

この改正では、次のような雇用環境の整備が図られています。

(1)介護離職を防止し、仕事と介護の両立を可能とするための制度の整備

(2)多様な家族形態・雇用形態に対応した育児期の両立支援制度等の整備

(3)妊娠・出産・育児休業・介護休業をしながら継続就業しようとする男女労働者の就業環境の整備

今回は、これらのうちの(1)の介護離職の防止に関する内容について、取り上げます。

 

1、介護休業の分割取得

介護休業は、労働者が要介護状態にある対象家族を介護するための休業です。

これまで、介護休業の取得は、対象家族1人につき、要介護状態ごとに1回、通算して93日までとされていました。

介護の始期、終期、その間の期間にそれぞれ対応することができるよう、対象家族1人につき、要介護状態が異なるか否かにかかわらず、3回を上限として、通算して93日まで、介護休業を分割して取得することができることとなりました。

 

2、介護休暇の取得単位の柔軟化

介護休暇は、対象家族の介護や通院等の付添い、対象家族が介護サービスの提供を受けるために必要な手続きの代行等の対象家族の必要な世話を行うための休暇です。

このようなに日常的な介護ニーズに対応するため、1日単位に加えて、半日単位で介護休暇を取得することができることとなりました。

ただし、1日の所定労働時間が4時間以下の労働者については、1日単位の取得のみが認められます。

また、業務の性質や業務の実施体制に照らして、半日単位の取得が困難と認められる労働者については、労使協定により除外することができます。

なお、半日単位は、原則として、1日の所定労働時間の2分の1であって、始業時刻から連続し、又は終業時刻に連続するものとされていますが、労使協定により、所定労働時間の2分の1以外を半日とすることができます。

 

3、介護のための所定労働時間の短縮措置等(選択的措置義務)

要介護状態にある対象家族を介護する労働者の日常的な介護ニーズに対応するため、事業主は、次のいずれかを選択して講じなければなりません。

①所定労働時間の短縮措置(短時間勤務)

②フレックスタイム制度

③始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤の制度)

④労働者が利用する介護サービス費用の助成その他これに準じる制度

事業主が講じた介護のための所定労働時間の短縮措置等について、これまでは、介護休業と通算して93日の範囲内での利用が可能でしたが、より柔軟な利用が可能となるよう、介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上の利用が可能となりました。

 

4、介護のための所定外労働の免除(新設)

要介護状態にある対象家族を介護する労働者は、①1か月に24時間、1年に150時間を超える時間外労働及び②深夜業(午後10時から午前5時までの間の労働)の制限を請求することができます。

これらに加えて、1回の請求につき1か月以上1年以内の期間で、介護のための所定外労働の免除を請求することができることとなりました。

この請求がなされたときは、事業主は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、当該労働者を、所定労働時間を超えて労働させてはなりません。

ただし、①当該事業主に引き続き雇用された期間が1年未満の労働者、②1週間の所定労働日数が2日以下の労働者については、労使協定により除外することができます。

 

5、有期契約労働者の介護休業の取得要件の緩和

有期契約労働者の介護休業取得要件が、次のように緩和されました。

①当該事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であること

介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までに、その労働契約(労働契約が更新される場合にあっては、更新後のもの)が満了することが明らかでないこと

 

6、介護休業等の対象家族の範囲の拡大

対象家族に、労働者が同居や扶養をしていない祖父母、兄弟姉妹及び孫が追加されました。

これにより、対象家族の範囲は、①労働者の配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹及び孫、②配偶者の父母に拡大されました。

 

これらの改正により、「介護離職ゼロ」に向けた取り組みが少しずつ進められています。

これらは法律で定める最低限のものですから、労働者がより仕事と介護との両立をしやすくなるような制度を、就業規則などで設けることももちろん可能です。

事業主の方々は、まずは就業規則の見直しをお忘れなく!

そして、労働者の方々は、どのような制度を利用することができるのかを知ることから始めてみてはいかがでしょうか?

2017年1月11日

長時間労働削減に向けた取り組みを始めてみませんか?

ワーク・ライフ・バランスの意識が高まる一方で、依然としてわが国では、長時間労働が大きな問題の一つとなっています。

今回は、長時間労働削減に向けた行政の取り組みと、企業で検討したい取り組みをほんの少しご紹介します。

 

1、行政の取り組み(労働基準監督官による監督指導の強化)

(1)重点監督対象の拡大

平成27年4月から12月までの間に、月100時間を超える残業が疑われるすべての事業場(8,530 事業場)を対象とした労働基準監督署による監督指導が実施されました。

その結果、6割弱の事業場で違法な残業が行われており、そのうち、約8割の事業場で月80時間を超える残業が、約6割の事業場で月100時間を超える残業があったことが報告されています。

このような結果を踏まえ、平成28年4月から、監督指導の対象が、残業が月80時間を超える事業場(年間約2万事業場)にまで拡大されています。

 

(2)監督指導・捜査体制の強化と全国展開

平成28年4月に、次のような体制強化が図られています。

厚生労働省本省:「過重労働撲滅特別対策班」(本省かとく)の新設

ここでは、企業本社への監督指導のほか、労働局の行う広域捜査活動を迅速かつ的確に実施できるよう、労働局に対し必要な指導調整を行っています。

 

各都道府県労働局(47局):「過重労働特別監督監理官」の新設

すべての労働局に、長時間労働に関する監督指導等を専門に担当する「過重労働特別監督監理官」が1名ずつ配置されました。

これにより、平成27年4月に東京労働局及び大阪労働局の2局のみに設置された「過重労働撲滅特別対策班」(かとく)の機能が全国に拡大されました。

 

2、企業で取り組みたいこと

(1)年次有給休暇の取得促進(計画的付与制度の導入などによる職場環境の整備)

例えば、年次有給休暇の付与日数のうち、5日を除いた残りの分については、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができます。これを年次有給休暇の計画的付与制度といいます。

この制度を導入すると、休暇取得の確実性が高まり、労働者にとっては予定した活動を行いやすく、事業主にとっては計画的な業務運営が可能になります。

この制度の活用の方式としては、企業や事業場単位で一斉に付与する方式のほか、班やグループ別、個人別に付与する方式など様々な方式が考えられます。

実際には、夏季や年末年始に年次有給休暇を計画的に付与し、大型連休としたり、暦の関係で休日が飛び石となっている場合に、休日の橋渡しとして計画的付与制度を活用し、連休としたりするためにも利用されています。

 

(2)所定外労働の削減

例えば、「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」を導入し、計画的に業務を行わせることで、残業をなくす取り組みも行われています。

また、長時間労働が続いている場合は、その原因を検討したうえで、人員配置を考慮したり、作業者の増員を図ったりすることで、業務内容の見直しを行うことも重要です。

 

(3)特別な休暇制度の導入

特別な休暇制度(特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度)とは、休暇の目的や取得形態を労使による話し合いにおいて任意で設定できる法定外休暇のことです。

考えられる休暇制度として、次のようなものが挙げられています。

病気休暇:治療を受けながら就労する労働者をサポートするために付与される休暇

ボランティア休暇:労働者が自発的に無報酬で社会に貢献する活動を行う際、その活動に必要な期間について付与される休暇

リフレッシュ休暇:職業生涯の節目に労働者の心身の疲労回復等を目的として付与される休暇

裁判員休暇:裁判員等として活動する労働者に対して、その職務を果たすために必要な期間について付与される休暇

犯罪被害者の被害回復のための休暇:犯罪行為により被害を受けた被害者及びその家族等に対して、被害回復のために付与される休暇

 

3、長時間労働を削減することの意義

長時間労働や休暇が取れない生活が常態化すれば、メンタルヘルスに影響を及ぼす可能性が高くなり、生産性は低下します。また、離職リスクの上昇や企業イメージの低下など、さまざまな問題を生じさせることになります。

他方で、適切な労働時間で働き、ほどよく休暇を取得することにより、仕事に対する労働者の意識やモチベーションを高めるとともに、業務効率を向上させることが期待されます。また、育児や介護などの配慮すべき事情を抱えた労働者の活用の道も広がるでしょう。

長時間労働が当たり前のようになっている職場も少なくないと思いますが、行政の監督指導も強化されている中、労働者のためばかりではなく、企業経営の観点からも、長時間労働の削減や抑制への取り組みを一度、検討したいものです。

11月は「過労死等防止啓発月間」です!

 

過労死防止等啓発月間は、国民の間に広く過労死等を防止することの重要性について自覚を促し、これに対する関心と理解を深めるために、過労死等防止対策推進法に基づき、設けられています。

 

1.過労死等防止対策推進法

近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっています。

過労死等は、本人はもとより、その遺族や家族のみならず、社会にとっても大きな損失です。

これらのことから、過労死等防止対策推進法は、過労死等の防止のための対策を推進することにより、過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的として、平成26年11月に施行されました。

 

2.「過労死等」の定義とその対策

過労死等防止対策推進法において「過労死等」とは、次のものをいいます。

(1)業務における過重な負荷による脳血管疾患又は心臓疾患を原因とする死亡

(2)業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡

(3)死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

 

3.「過労死等の防止のための対策に関する大綱」

過労死等防止対策推進法に基づき、平成27年7月24日に、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が閣議決定されています。

この大綱では、将来的に過労死等をゼロとすることを目指し、次の目標が掲げられています。

(1)週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下に(平成32年まで)

(2)年次有給休暇取得率を70%以上に(平成32年まで)

(3)メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上に(平成29年まで)

 

4.「過労死等防止対策白書」

平成28年10月7日には、過労死等防止対策推進法に基づき、初めて「過労死等防止対策白書」が公表されました。

この白書では、(1)労働時間等の状況、(2)職場におけるメンタルヘルス対策の状況、(3)就業者の脳血管疾患、心疾患等の発生状況、(4)自殺の状況などが報告されています。

 

5.事業主が取り組むべきこと

(1)労働基準や労働安全衛生に関する法令の遵守

職場における取り組みとしては、まず事業主が労働基準や労働安全衛生に関する法令を遵守することが重要です。

(2)長時間労働の削減など

長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには脳・心臓疾患との関連性が強いという医学的知見が得られています。

そのため、時間外・休日労働協定の内容を労働者に周知し、週労働時間が60時間以上の労働者をなくすよう努めるなど、長時間労働の削減に取り組む必要があります。

 

また、①職場におけるメンタルヘルス対策の推進、②過重労働による健康障害の防止、③職場のパワーハラスメントの予防・解決、④働き方の見直し、⑤相談体制の整備等にも取り組みたいところです。

 

6.過労死等が起こってしまったら

過労死等と認定されるかどうかが争われることがほとんどです。

具体的には、労災認定について争われることになります。

先日(平成28年10月7日)も、大手広告会社の新入社員だった女性が自殺したことは長時間労働による過労が原因だったとして、労災と認定されたことが大きく報道されました。

 

ちなみに、脳・心臓疾患に係る労災認定基準においては、週40時間を超える時間外・休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まり、①発症前1か月間におおむね100時間又は②発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外・休日労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるものとされています。

 

また、企業が管理責任を怠ったとして民事裁判が提起されることもあります。

事業主の安全配慮義務違反があったとして、1億円近い賠償が命じられた事例もあります。

 

7.過労死防止等啓発月間に

厚生労働省では、11月中に、過労死等の防止のため、国民への周知・啓発を目的としたシンポジウムや、著しい過重労働や悪質な賃金不払残業などの撲滅に向けた監督指導や無料の電話相談などを行うこととしています。

 

過労死等が起こってしまった場合には、企業の価値を下げることになりかねません。

過労死等の防止のためには、事業主はもちろん、それぞれの職場において上司などの理解を深めることが重要です。

そして、何よりもつらい思いをしている労働者に気づくことが大切だと思います。

つらいに思いをしている方々がいないかを見つめてみる機会にしてはいかがでしょうか。

2016年11月2日

健康保険・厚生年金保険の加入対象が広がりました!

 

平成28年10月1日施行の改正により、所定の要件に該当する短時間労働者に対しても、健康保険・厚生年金保険が適用されることとなりました。

 

1、新たに加入することになる対象者とは?

(1)被保険者資格取得の基準(4分の3基準)の明確化

これまでも、①1日又は1週間の所定労働時間及び②1か月の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者のおおむね4分の3以上である短時間労働者の方は、被保険者として取り扱われていましたが、今回の改正により、このうちの①を1週間の所定労働時間のみで判断することが明確化されました。

これにより、①1週間の所定労働時間及び②1か月の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の労働者の4分の3以上である短時間労働者の方が被保険者となります。

 

(2)特定適用事業所に勤める短時間労働者への適用拡大

前記(1)に該当しない方であっても、次のすべてに該当する方は、被保険者となります。

①1週間の所定労働時間が20時間以上であること

②雇用期間が1年以上見込まれること

③賃金の月額が8万8,000円以上であること

④学生でないこと

⑤常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること

特定適用事業所とは、同一事業主(法人番号が同一)の適用事業所の短時間労働者を除いた被保険者数の合計が、1年で6か月以上、501人以上であると見込まれる事業所をいいます。

 

なお、これらに該当しない方であっても、従来の基準で被保険者に該当していた方は、引き続き同じ事業所に雇用されている間は、被保険者として取り扱われます。

 

2、健康保険・厚生年金保険に加入するメリットは?

メリットとしては、次のようなことが挙げられています。

(1)将来、老齢厚生年金がもらえるようになったり、もらえる額が増えたりする。

(2)所定の場合には障害厚生年金・遺族厚生年金などを受けることが可能となる。

(3)医療保険の給付(傷病手当金・出産手当金)が充実する。

(4)保険料の労使での折半負担により保険料が安くなることがある。

 

3、適用拡大に伴って必要となる手続きは?

(1)特定適用事業所に該当する場合

平成28年10月1日時点で特定適用事業所に該当する適用事業所については、「特定適用事業所該当通知書」が送付されますので、「特定適用事業所該当届」の提出は不要です。

一方、特定適用事業所に該当すると見込まれる事業所については、「特定適用事業所に関する重要なお知らせ」が送付されますので、特定適用事業所の要件を満たす場合には、本店または主たる事業所の事業主から「特定適用事業所該当届」を提出しなければなりません。

 

(2)健康保険・厚生年金保険の被保険者となる労働者がいる場合

新たに被保険者となる方々がいる適用事業所の事業主は、その方々について「被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。

なお、対象となる方が国民健康保険に加入されていた場合には、その方が自身で、お住まいの市区町村に対して国民健康保険の資格喪失の届出を行う必要があります。

 

(3)健康保険の被扶養者が特定適用事業所に勤務している場合

特定適用事業所に該当しない500人以下の適用事業所でも、健康保険の被扶養者になっている方が特定適用事業所に勤務している場合には、確認が必要です。

その被扶養者となっている方が、新たに被保険者となる場合には、被扶養者でなくなるため「健康保険被扶養者(異動)届」の提出が必要となるためです。

 

(4)特定適用事業所において被保険者の雇用条件が変更なった場合

健康保険・厚生年金保険では、1週間の所定労働時間又は1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満の被保険者の方を短時間労働者、それ以外の被保険者の方を一般被保険者として取り扱います。

特定適用事業所に勤務する被保険者の雇用条件が変更となり、被保険者の区分(一般被保険者または短時間労働者)が変更となった場合には、「被保険者区分変更届」を提出します。

 

4、今回の改正にあたって

今回の改正は、事業主の方々からみれば、手続きが煩雑になったり、保険料の負担が多くなったりすることはありますが、被保険者の方々にとっては一定のメリットもあるわけです。

労働者の所定労働時間を5時間以上延長し、厚生年金保険などの適用対象とした事業主に対するキャリアアップ助成金なども用意されています。

人材確保の観点からも、これを、前向きに労働条件を見直す機会として捉えてもよいのかもしれません。

 

ちなみに、今回の改正により、老齢厚生年金を受給している方が短時間労働者として被保険者(または70歳以上の被用者)になった場合には、在職老齢年金制度により、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止となることがありますので、最後に補足までに。

2016年10月6日

「介護休業給付金」の給付率が引き上げられましたが?!

 

政府の掲げる「1億総活躍社会」の実現に向けた取り組みの一つとして、「介護離職ゼロ」を推進していくこととされています。

その一環として、平成28年8月1日施行の雇用保険法の改正により、介護休業給付金の給付率が引き上げられました。

 

1、そもそも介護休業給付金を知っていますか?

介護休業給付金は、雇用保険の雇用継続給付の一つで、所定の要件を満たす雇用保険の被保険者が対象家族を介護するための休業をした場合に、支給されます。

具体的には、原則として、介護休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上ある被保険者が、次の要件をいずれも満たす場合に、支給されます。

(1)介護休業期間中の各1ヵ月(支給単位期間)について、休業開始前の1か月当たりの賃金の8割以上の賃金が支払われていないこと。

(2)就業している日数が支給単位期間ごとに10日以下(休業終了日が含まれる支給単位期間は、就業している日数が10日以下であり、かつ、休業日が1日以上)あること。

 

2、介護休業給付金の額

介護休業給付の支給対象期間(1か月)ごとの支給額は、原則として、「休業開始時賃金日額×支給日数×給付率」で計算します。

(1)賃金日額

賃金日額は、介護休業開始前6か月の賃金を180で除した額です。

 

また、賃金日額には、上限額と下限額(平成28年8月1日以降は2,290 円)があります。

上限額については、平成28年8月1日以降に開始した介護休業には、年齢にかかわらず、45歳から59歳までの者に適用されるもの(同日以降は15,550円)が適用されます。

従来は、30歳から44歳までの賃金日額の上限額(同日は14,150 円)が適用されていましたので、上限額が引き上げられたことになります。

 

(2)支給日数

支給日額は、1支給対象期間につき30日(休業終了日の属する支給対象期間にあっては、当該支給対象期間の日数)です。

 

(3)給付率

平成28年8月1日以降に開始した介護休業に係る給付率は、これまでの100分の40から100分の67に引き上げられました。

 

したがって、休業終了日が属する支給対象期間以外における介護休業給付金の額は、例えば、休業開始時賃金日額が10,000円であれば、1支給対象期間(1か月)につき20万1,000円(=10,000円×30日×100分の67)となります。

なお、介護休業給付金の支給に当たっては、事業主から支払われた賃金の額に応じて、調整が行われることがあります。

 

3、申請手続き

介護休業給付金の支給を受けるためには、次の手続きが必要です。

(1)休業開始時賃金月額証明書の提出

被保険者が対象家族の介護のため休業を開始したときは、事業主は、休業開始時賃金月額証明書を、支給申請書を提出する日までに、事業所の所在地を管轄するハローワークに提出します(次の申請書の提出と同時でもかません。)。

(2)申請書の提出

介護休業給付金の支給を受けようとする者は、介護休業終了日の翌日から起算して2か月を経過する日の属する月の末日までに、事業主を経由して申請書を提出します。

 

4、介護休業給付金の受給も選択肢の一つに!

総務省「就業構造基本調査」で、家族の介護や看護による離職者数の推移を見ると、離職者数は増減を繰り返しているものの、平成23年10月から平成24年9月の1年間では、約9万5,000人となっています。

これに対して、厚生労働省の資料によれば、介護休業給付金の平成26年の受給者数は9,600人にとどまっています。

 

その理由の一つとして、この制度自体が利用しづらいものであることが挙げられます。

この点については、平成29年1月1日施行の育児・介護休業法の改正に伴い、介護休業給付金においても、①介護休業の分割取得を可能にし、②対象家族の範囲を拡大することが予定されています。

 

ただ、いくら制度が使いやすくなったとしても、必要な方々にその制度自体を知ってもらえなければ、いつまでたってもこれが有効に活用されることはありません。

介護休業給付金に限らず、「介護に係る両立支援制度が分からない」という理由で離職している方も少なくないようです。

どのような制度があるのかについては、また順次ご紹介しますが、介護休業をした場合に受けられるこのような給付があることも、知っておいていただければと思います。

2016年9月5日

有期労働契約の「無期転換ルール」~準備を始めていますか?

労働契約法には、労働者の申込みにより、有期労働契約(期間の定めのある労働契約)を無期労働契約(期間の定めのない労働契約)に転換することができる「無期転換ルール」が定められています。

 

1.無期転換ルールが適用されると?

(1)無期転換の申込みができる場合

同一の使用者との間で締結された有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合に、無期転換申込権が発生し、労働者は無期転換の申込みができるようになります。

この申込みは、通算契約期間が5年を超えることとなる契約期間の初日から末日までの間に、することができます。

 

通算契約期間とは、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除きます。)の契約期間を通算した期間をいいます。

通算契約期間の計算の対象となる有期労働契約は、平成25年4月1日以後に開始したものです。平成25年3月31日までに開始したものは対象となりません。

また、通算契約期間の計算にあたって、有期労働契約とその次の有期労働契約の間に、契約がない期間が6か月以上(通算対象の契約期間が1年未満の場合は、その2分の1以上)あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含めません(クーリング)。

 

(2)無期転換の申込みがなされた場合

労働者から無期転換の申込みがなされた場合には、使用者がその申込みを承諾したものとみなされ、その時点で、無期労働契約が成立します。

これにより、申込時の有期労働契約が終了する日の翌日から、無期労働契約に転換されます。

 

成立した無期労働契約の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、契約期間に関する部分を除き、原則として、直前の有期労働契約と同一となりますが、労働協約、就業規則、個々の労働契約(無期転換に当たり労働条件を変更することについての労働者と使用者との個別の合意)で別段の定めをすることにより、労働条件を変更することもできます。

ただし、無期転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後の労働条件を低下させることは、望ましいことではありません。

 

もちろん無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄させることはできません。

 

2.労使で取り組むべきこと

このような無期転換ルールについて、次のような取り組みが求められます。

(1)現場における有期契約労働者の活用の実態の把握

各事業所における有期契約労働者の人数や担当している業務の内容のほか、更新の判断基準、更新回数、勤続年数などについて、現在の社内規程や運用実態などを把握します。

(2)有期契約労働者の活用方針の明確化と無期転換ルールへの対応の検討

前記(1)を踏まえて、今後の有期契約労働者の活用方針を明確にしたうえで、無期転換ルールへの対応を検討します。

この際には、あらかじめ、労使間で、有期契約労働者の担当する業務や労働条件などを十分に確認することが重要です。

(3)無期転換後の労働条件の検討

無期転換後の社員区分や労働条件については、①無期契約労働者(契約期間のみを無期とし、その他の労働条件は直前の有期労働契約と同一とすること)のほか、②多様な正社員区分や③正社員区分に移行させ、その区分の労働条件を適用することなどが考えられます。

 

3.高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者等についての特例

次の労働者については、その能力が有効に発揮されるよう、事業主が適切な雇用管理を実施する場合には、それぞれに掲げる期間、無期転換申込権が発生しないこととなります。

①高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者(高度専門職の年収要件と範囲があります。)

:一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上限10年)

②定年後引き続き雇用される有期雇用労働者:定年後引き続き雇用されている期間

この特例の適用を受けるためには、対象労働者の特性に応じた雇用管理に関する措置についての計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受ける必要があります。

 

この特例のほかに、大学等及び研究開発法人の研究者、教員等についての特例(該当する研究者、教員等について、無期転換申込権発生までの期間を10年とするもの)もあります。

 

4.無期転換ルールへの準備を!

無期転換ルールを定めた改正労働契約法が施行された平成25年4月1日から通算5年目を迎える平成30年4月には、対象となる労働者が現れ始めます。

まだ先の話と思うかもしれませんが、就業規則の見直しや各種規程の整備などが必要となる可能性があることを考えると、それほど後回しにできる状況ではありません。

この無期転換ルールは、有期労働契約を繰り返し更新している労働者の雇止めの不安を解消し、安心して働き続けることができるようにすることを目的として創設されました。

労働者の意欲や能力の向上の側面のみならず、事業活動に必要な人材の確保の側面からも、無期転換ルールを前向きに捉え、対応を検討し始めたいところです。

2016年8月8日

受動喫煙防止対策、進んでいますか?

平成27年6月1日施行の労働安全衛生法の改正により、職場の「受動喫煙防止対策」が事業者の努力義務となりました。

それから1年余りが経過しましたが、事業場の受動喫煙対策は進んでいますか?

 

1 受動喫煙の影響での死亡者数が年間1万5,000人!?

平成28年5月末に、一部で「厚生労働省の研究班の調査によると、非喫煙者で、家族や職場の同僚が喫煙している場合に、受動喫煙が原因で死亡する人は、年間1万5,000人と推計される」との報道がなされました。

2010年の前回調査(6,800人)から大幅に増えたわけですが、その原因は、これまで、受動喫煙は、肺がんや心筋梗塞などに因果関係があるとされていましたが、前回調査以降、脳卒中やSIDS(乳幼児突然死症候群)にも因果関係があるとされたことにあるそうです。

この推計値の評価はともかくとして、かなり衝撃的な数値です。

 

2 労働安全衛生法による事業者の努力義務

職場における労働者の受動喫煙を防止するため、事業者は、次のような手順で、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるように努めなければなりません。

この努力義務は、資本金や常時雇用する労働者の数にかかわらず、すべての事業者に課せられています。

 

(1)現状把握と分析

次のようなことについて、事業者と事業場に関する情報を集め、求められる対策やその実施に当たっての課題などを検討します。

①特に配慮すべき労働者の有無(例:妊娠している者、呼吸器・循環器に疾患をもつ者、未成年者)

②職場の空気環境の測定結果

③事業場の施設の状況(例:事業場の施設が賃借であること、消防法等他法令による施設上の制約)

④労働者及び顧客の受動喫煙防止対策の必要性に対する理解度

⑤労働者及び顧客の受動喫煙防止対策に関する意見・要望

⑥労働者及び顧客の喫煙状況

 

(2)具体的な対策の決定

分析の結果を踏まえて、施設設備(ハード面)と計画や教育など(ソフト面)の対策を効果的に組み合わせた、具体的な対策(実施可能な対策のうち最も効果的なもの)を決定します。

対策例としては、次のようなものがあります。

ハード面:敷地内全面禁煙、屋内全面禁煙(屋外喫煙所)、空間分煙(喫煙室)等

ソフト面:担当部署の決定、推進計画の策定、教育・啓発・指導、周知・掲示等

対策の決定や計画の策定に当たっては、衛生委員会(安全衛生委員会)での調査・審議を行います(衛生委員会がない事業場でも、関係労働者の意見をよく聴いてください。)。

 

(3)対策の実施・点検・見直し

決定した対策を実施した後は、その効果を確認し、必要に応じて、対策の内容を見直していく必要があります。

また、事業場内に喫煙室など喫煙可能な区域がある場合は、定期的に空気環境の測定が望まれます。

 

3 国の援助

国も、次のような受動喫煙防止対策についての支援事業を実施しています。

①中小企業事業主を対象とした屋外喫煙所や喫煙室などの設置にかかる費用の助成(受動喫煙防止対策助成金:助成率2分の1(上限200万円))

②受動喫煙防止対策の技術的な相談の受付(電話相談・実地指導)、周知啓発のための説明会の開催、企業・団体の会合への講師派遣

③空気環境の測定機器(粉じん計、風速計、一酸化炭素計、臭気計)の貸出し

 

4 職場での受動喫煙被害に関して事業主が訴えられるケースも!

職場での受動喫煙に関して、労働者が事業主に損害賠償請求を提起した事例もみられます。

先日の報道によれば、職場で受動喫煙状態となり、煙草の煙に起因する化学物質過敏症(シックハウス症候群)と診断された労働者が、会社に対して慰謝料などを求める訴えを提起した事案で、会社側が解決金として約350万円を支払う内容の和解が成立したそうです(大阪高等裁判所:平成28年5月31日和解)。

過去には、職場で受動喫煙被害を受け、急性受動喫煙症となった労働者が、会社に分煙などの改善要求を行ったところ解雇されたとして、解雇の無効確認と給与の支払いを求める訴えを提起し、会社側が約700万円を支払う内容の和解が成立した事案もあります(札幌地裁岩見沢支部:平成21年4月1日和解)。

 

受動喫煙によって、非喫煙者が不快感やストレスなどを受けることがあります。

また、受動喫煙による健康影響も時には非常に深刻なものとなることがあります。

労働者の健康を保持増進し、快適な職場環境を形成することは、事業者の責務の一つです。

職場の受動喫煙防止対策を実施し、見直すことで、さらなる職場環境の向上に努めましょう。

2016年7月5日

「同一労働同一賃金」の実現に向けて!

安倍内閣の推進する「一億総活躍社会」の実現に向けた働き方改革の大きな柱の一つに位置づけられたこともあり、最近、「同一労働同一賃金」という言葉を耳にする機会が多くなりました。

今回は、この「同一労働同一賃金」について、概観してみたいと思います。

 

1、そもそも「同一労働同一賃金」とは?

一般に、同じ労働に対して同じ賃金を支払うべきという考え方をいいます。

性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、労働の種類と量に基づいて賃金を支払う賃金政策として具体化されます。

 

なお、職種が異なる場合であっても労働の質が同等であれば、同一の賃金水準を適用するという「同一価値労働同一賃金」の概念が、ILO憲章の前文に挙げられています。

また、世界人権宣言にも、「すべての人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報酬を受ける権利を有する」と規定されています。

 

2、わが国の法制度における「同一労働同一賃金」

わが国の法制度においても、「同一労働同一賃金」の概念はある程度、反映されています。

その中心的な規定としては、次のものが挙げられます。

(1)いわゆる「均等待遇」に関する規定:パートタイム労働法9条

この規定では、通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者に対する差別的取扱いが禁止されています。

通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者とは、職務内容(業務内容・責任の程度)、人材活用の仕組み(職務内容・配置の変更範囲)及び運用が通常の労働者と同じパートタイム労働者をいいます。

 

(2)いわゆる「均衡待遇」に関する規定:パートタイム労働法8条、労働契約法20条

これらの規定では、パートタイム労働者や有期契約労働者と通常の労働者との待遇の相違は、職務内容、人材活用の仕組み及び運用その他の事情を考慮して、不合理であってはならないものとされています。

 

このほかにも、例えば、労働基準法4条には「男女同一賃金の原則」同法3条には「均等待遇」が規定されています。

また、派遣労働者についても、労働者派遣法に、均衡を考慮した待遇の確保等に関する規定同法30条の3第1項・2項、40条2項・3項・5項)が設けられています。

 

3、わが国の現状

(第1回同一労働同一賃金の実現に向けた検討会における「厚生労働省提出資料」参照)

わが国の役員を除く雇用者全体に占める非正規雇用労働者の割合は、増加傾向にあり、2015年平均では、37.5%に達しています。

雇用形態別にみると、特にパート・アルバイトの増加が顕著ですが、その一方で、フルタイム労働者に対するパートタイム労働者の賃金水準は、ヨーロッパ諸国では7~8割程度であるのに対して、わが国は6割弱となっています。

 

4、今後に向けて

(1)「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」の公布・施行(平成27年9月16日)

近年、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されています。

この法律では、これらの状況を是正するため、①労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにするとともに、②労働者の雇用形態による職務及び待遇の相違の実態、雇用形態の転換の状況等に関する調査研究等について定めています。

 

(2)同一労働同一賃金の実現に向けた検討会

「同一労働同一賃金」の原則により非正規労働者の処遇の改善(公正な処遇)を促し、多様な状況にある人々がそれぞれの状況の中でその能力を十分に発揮できる多様で魅力的な就業環境を整えていくことは、内閣の目指す「一億総活躍社会」の実現に向けた不可欠の取組みの一つとして位置づけられています。

これを踏まえ、現在、厚生労働省の同一労働同一賃金の実現に向けた検討会において、わが国における「同一労働同一賃金」の実現に向けた具体的方策が検討されています。

 

一口に「同一労働同一賃金」と言っても、何をもって「同一労働」というのか自体も実は明確ではありませんし、大企業と中小企業との間の賃金格差の問題などもあります。

また、正規労働者と非正規労働者(パート労働者・有期契約労働者)の待遇格差については、現状では、それが合理的であるか否かの個別的な判断にとどまっていることも否めません。

一方で、労働者が、その雇用形態にかかわらず、その職務に応じた待遇を確保され、充実した職業生活を営むことができるようになることは、だれもが望むところです。

検討会での検討などを踏まえ、どのような施策が講じられることになるのかについては、今後も注目していきたいと思います。

2016年6月2日

障害者雇用促進法が改正されました!

障害者の権利に関する条約の批准に向けた対応の一環として、日常生活及び社会生活全般に係る分野を広く対象とした「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称「障害者差別解消法」)の施行と同時に、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(通称「障害者雇用促進法」)が改正されました。

これにより、平成28年4月1日から、(1)雇用の分野における障害者に対する差別が禁止されるとともに、(2)障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講ずること(合理的配慮の提供)が事業主に義務づけられました。

 

1、対象となる事業主と障害者

事業場の規模などを問わず、すべての事業主が、前記(1)及び(2)の対象となります。

 

一方、前記(1)及び(2)の対象となる障害者は、障害者雇用促進法における障害者(障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者)です。

障害者手帳所持者に限定されるものではなく、障害の原因及び障害の種類も問われません。

なお、同法において「障害」とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害の総称です。

 

2、障害者に対する差別の禁止

募集・採用、賃金、配置、昇進などの雇用に関するあらゆる局面で、障害者であることを理由とする差別が禁止されます。

例えば、募集・採用時に、単に「障害者だから」という理由で、求人への応募を認めなかったり、業務遂行上必要でない条件をつけて障害者を排除したりしてはなりません。

採用後においても、労働能力などを適正に評価することなく、単に「障害者だから」という 理由で、障害者でない労働者と異なる取扱いをしてはなりません。

 

ただし、次のような取扱いは、禁止される差別に該当しないものとされています。

・積極的な差別是正措置として、障害者を有利に取り扱うこと(障害者のみを対象とする求人(いわゆる障害者専用求人)等)

・合理的配慮を提供し、労働能力などを適正に評価した結果として障害者でない人と異なる取扱いをすること(障害者でない労働者の能力が障害者である労働者に比べて優れている場合に、評価が優れている障害者でない労働者を昇進させること等)

・合理的配慮に応じた措置を執った結果として、障害者でない人と異なる取扱いとなること(研修内容を理解できるよう、合理的配慮として障害者のみ独自メニューの研修をすること等)

 

3、合理的配慮の提供義務

事業主は、過重な負担にならない範囲で、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講じなければなりません。

 

合理的配慮として、例えば、次のような措置を講じることが考えられています。

ただ、合理的配慮は障害者一人ひとりの状態や職場の状況などに応じて求められるものが異なり、多様かつ個別性が高いものですので、具体的にどのような措置を執るかについては、障害者と事業主とでよく話し合ったうえで決めていく必要があります。

<募集・採用時>

・視覚障害がある方に対し、点字や音声などで採用試験を行うこと

・聴覚・言語障害がある方に対し、筆談などで面接を行うこと 等

<採用後>

・肢体不自由がある方に対し机の高さを調節するなど作業を可能にする工夫を行うこと

・知的障害がある方に対し、図などを活用した業務マニュアルを作成したり、業務指示は内容を明確にして一つずつ行なったりするなど作業手順を分かりやすく示すこと

・精神障害がある方に対し、出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること 等

 

このような措置を講ずることが過重な負担に当たるか否かについては、①事業活動への影響の程度、②実現困難度、③費用・負担の程度、④企業の規模、⑤企業の財務状況、⑥公的支援の有無を総合的に勘案しながら個別に判断します。

事業主は、過重な負担に当たると判断した場合は、その旨及びその理由を障害者に説明するとともに、障害者の意向を十分に尊重したうえで、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮を行う必要があります。

 

さらに、事業主は、障害者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備や、相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知してください。

 

 

だれもが、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けた取り組みが進んでいます。

事業主のみならず、同じ職場で働く方々が、障害の特性に関する正しい知識の取得や理解を深めていくことが何よりも重要です。

まずは採用基準を見直すことや、現に雇用する障害者の方々と職場において支障となっている事情を話し合うことから始めてみてください。

2016年5月6日

女性活躍推進法~公開される行動計画や情報の活用を!

女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(通称「女性活躍推進法」)のうち、一般事業主に関する部分が平成28年4月1日から施行となり、常時使用する労働者の数が300人を超える一般事業主には、一般事業主行動計画の策定などが義務づけられました。

具体的には、一般事業主は、次のことを行わなければなりません(常時使用する労働者の数が300人以下の一般事業主については、いずれも努力義務になります。)。

 

1、自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析

行動計画の策定にあたっては、自社の女性の活躍に関する状況に関して、まず基礎項目(必ず把握すべき項目:①女性採用比率、②勤続年数男女差、③労働時間の状況、④女性管理職比率)の状況把握、課題分析を行わなければなりません。

その結果、事業主にとって課題であると判断された事項については、必要に応じて、選択項目(必要に応じて把握する項目:男女別の採用における競争倍率、男女別の配置の状況など)を活用し、さらにその原因の分析を行います。

 

なお、基礎項目のうち、上記①及び②の項目については、雇用管理区分ごとに状況把握を行うことが必要です。

 

2、状況把握、課題分析を踏まえた行動計画の策定・届出、社内周知、公表

上記1の状況把握・課題分析を踏まえ、行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出なければなりません。

 

行動計画には、次の(1)~(4)の事項を定めます。

(1)計画期間

平成28年度から平成37年度までの10年間を、各事業主の実情に応じておおむね2年から5年間に区切り、定期的に行動計画の進捗を検証しながら、改定を行うことが望ましいものとされています。

(2)数値目標

女性の職業生活における活躍の推進に関する取組みの実施により達成しようとする目標について、1つ以上を数値で定める必要があります。

状況把握、課題分析の結果、事業主の実情に応じて、最も大きな課題と考えられるものから優先的に数値目標を設定するとともに、できる限り積極的に複数の課題に対応する数値目標を設定することが効果的であるとされています。

(3)取組み内容及びその実施時期

女性の職業生活における活躍の推進に関する取組みの内容を決定する際は、最も大きな課題として数値目標の設定を行ったものから優先的に、その数値目標の達成に向けてどのような取組みを行うべきかを検討することが基本です。

 

なお、行動計画の内容は、男女雇用機会均等法に違反しない内容とすることが必要です。

また、女性活躍推進法に基づく行動計画と次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画は、両法に定める要件をいずれも満たし、かつ、その計画期間を同一とする場合には、一体的に策定し、届け出ることができます。

 

策定した行動計画は、非正社員を含めた全ての労働者に周知しなければなりません。

また、策定した行動計画は、①厚生労働省が運営する「女性の活躍・両立支援総合サイト」への掲載、②自社のホームページへの掲載などにより、外部に公表しなければなりません。

 

3、女性の活躍に関する情報の公表

自社の女性の職業生活における活躍に関する情報を定期的に公表しなければなりません。

 

公表する項目は、厚生労働省令で定める事項(採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女の平均継続勤務年数の差異、管理職に占める女性労働者の割合、男女別の職種又は雇用形態の転換実績など14項目)のうち、事業主が適切と認めるものを1つ以上選択します。

必ずしも全ての項目を公表しなければならないものではありませんが、公表範囲そのものが事業主の女性の活躍推進に対する姿勢を表すものとなりえますので、注意が必要です。

 

情報の公開は、おおむね年1回以上更新し、公表の日を明らかにしたうえで行います。

また、インターネットの利用等により、女性の求職者が容易に閲覧できるようにしてください(行動計画と一体的に閲覧できるようにすることが望ましいものとされています。)。

 

 

行動計画の公表により、求職者等が各社の女性の活躍推進に向けた姿勢や取組み等を知ることや、事業主間で効果的な取組みなどの情報を共有することができます。

また、各社が女性の活躍に関する情報を公表することは、就職活動中の学生など求職者の企業選択に資するとともに、女性が活躍しやすい企業にとっては、優秀な人材の確保や競争力の強化につながることが期待されています。

女性のみならず男性にとっても、求職者のみならず企業にとっても、これらの情報を有効に活用することが大切な時代になっていくのだろうと感じます。

お勤め先の企業でも、ご興味のある企業でも、まずは一度、これらの情報を探してみるのもよいかもしれません。

2016年4月5日

新卒者等の応募者に対して職場情報を提供する制度などが始まります!

青少年の雇用の促進などを図り、能力を有効に発揮できる環境を整備するため、「青少年の雇用の促進等に関する法律」(通称「若者雇用促進法」)などが平成27年10月1日から順次施行され、青少年に対して、適切な職業選択の支援に関する措置や職業能力の開発・向上に関する措置などを総合的に講じることとされています。

 

すでに、①国が、地方公共団体などと連携し、青少年に対し、職業訓練の推進、ジョブ・カード(職務経歴等記録書)の普及の促進など必要な措置を講じるように努めることや、②青少年に係る雇用管理の状況が優良な中小企業について、厚生労働大臣による新たな認定制度を創設することなどについては、平成27年10月1日から施行されています。

今回は、平成28年3月1日施行の内容のうち、事業主の皆様に特に関係のあるものを取り上げます。

 

1、事業主による職場情報の提供の義務化

新規学校卒業段階でのミスマッチによる早期離職を解消し、若者が充実した職業人生を歩んでいくため、労働条件を的確に伝えることに加えて、平均勤続年数や研修の有無及び内容といった就労実態等の職場情報も併せて提供する仕組みがスタートします。

企業にとっても、採用・広報活動を通じて詳しい情報を提供することによって、求める人材の円滑な採用が期待できます。

 

具体的には、新卒者等(※)であることを条件とした募集・求人申込みを行う場合に、次のような情報提供が必要となります。

(1)企業規模を問わず、青少年雇用情報の幅広い情報提供を行うこと(努力義務)

青少年雇用情報とは、次の(2)①~③に掲げる情報をいいます。

これらの事項のすべてについて、ホームページでの公表、会社説明会での情報提供、求人票への記載などにより、積極的に情報提供を行うことが望ましいものとされています。

 

(2)応募者等からの個別の求めがあった場合に、メール又は書面などの適切な方法により、次の①~③の3類型ごとに1つ以上の情報提供を行うこと(義務)

①青少年の募集及び採用の状況に関する事項(過去3年間の新卒採用者数・離職者数、過去3年間の新卒採用者数の男女別人数、平均勤続年数)

②職業能力の開発及び向上に関する取り組みの実施状況に関する事項(研修の有無及び内容、自己啓発支援の有無及び内容、メンター制度の有無、キャリアコンサルティング制度の有無及び内容、社内検定等の制度の有無及び内容)

③職場への定着の促進に関する取り組みの実施状況に関する事項(前年度の月平均所定外労働時間の実績、前年度の有給休暇の平均取得日数、前年度の育児休業取得対象者数・取得者数(男女別)、役員に占める女性の割合及び管理的地位にある者に占める女性の割合)

 

情報の提供に当たっては、企業全体の雇用形態別の情報を提供します。また、採用区分や事業所別などの詳細情報についても、追加情報として提供することが望まれます。

 

2、労働関係法令違反の事業主に対する、ハローワークの新卒者向け求人の不受理

ハローワークでは、労働基準法などの労働関係法令の規定に違反し、是正勧告を受けたり、公表されたりした事業所などからの新卒者等(※)であることを条件とした求人を一定期間、受け付けないこと(不受理)となります。

 

不受理となる対象となる規定には、次のものがあります。

①過重労働の制限などに対する規定(賃金関係、労働時間、休憩・休日・年次有給休暇など)

②性別や仕事と育児などの両立などに関する規定(妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等、性別を理由とする差別の禁止、セクハラなど)

③青少年に固有の事情を背景とする課題に関する規定(労働条件の明示など)

 

不受理期間は、違反の程度や内容によって定められています。

例えば、時間外労働に関する割増賃金を支払っていないものとして、1年に2回以上是正勧告を受けた場合には、法違反が是正されるまでの期間に加え、是正後6か月が経過するまでの期間、新卒者等であることを条件として求人が不受理となります。

この期間中は、事業主からハローワークにすでに提出済みの求人についても、ハローワークから求職者の職業紹介が行われません。

 

※新卒者等の範囲は、以下のとおりです。

ただし、当該募集・求人又は応募の対象外となっている者は除かれます。

①学校(小学校及び幼稚園を除く。)、専修学校、各種学校、外国の教育施設に在学する者で、卒業することが見込まれる者

②公共職業能力開発施設や職業能力開発総合大学校の職業訓練を受ける者で、修了することが見込まれる者

③上記①又は②の卒業者及び修了者

 

若年者の雇用不安が指摘されて久しいですが、人材は企業にとって欠くことのできない要素の一つです。

貴重な人材を確保し、十分な能力を発揮してもらえるよう、これを機会に、労働関係法令の規定などをもう一度、確認してみてください。

2016年3月3日

ストレスチェックの実施に向けて

前回その概要をご紹介したストレスチェック制度ですが、まだ何から手をつけてよいのかが分からないといった事業者の皆様も多いのかもしれません。

そこで、今回は、ストレスチェックの実施までに事業者が取り組まなければならない事項などをいくつか取り上げたいと思います。

 

1 ストレスチェック制度導入前の準備

(1)方針の提示と衛生委員会での審議

①事業者による基本方針の表明

まず、会社として「メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェック制度を実施する」旨の方針を表明します。

②衛生委員会での調査審議

事業所の衛生委員会で、次のような事項について話し合います(衛生委員会で調査審議すべき事項は、指針で示されています。産業医に聞いてみるのもよいと思います。)。

・ストレスチェック制度の実施体制(実施者及び実施事務従事者の選任等)

・ストレスチェック制度の実施方法(ストレスチェックで使用する質問票、高ストレス者の選定基準、面接指導の申出方法や実施方法等)

・ストレスチェック結果に基づく集団ごとの集計・分析の方法

・ストレスチェック結果の記録の保存方法

衛生委員会で決まったことは、社内規程として明文化し、すべての労働者に周知します。

 

(2)実施体制・役割分担の決定

ストレスチェック制度の実施にあたって、その実務を担当する者、実施者、実施事務従事者を指名する等、実施体制を整備することが望ましいものとされています。

実務担当者には、衛生管理者又は事業場内メンタルヘルス推進担当者を指名することが望ましいですが、監督的地位にある者を指名することもできます。

実際にストレスチェックを実施する実施者は、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士の中から選ぶ必要があります。外部委託も可能です。

実施者の補助をする実施事務従事者は、質問票の回収、データ入力、結果送付など個人情報を取り扱う業務を担当します。外部委託も可能です。

なお、人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、ストレスチェックの実施の事務に従事してはならないものとされています。

 

2 ストレスチェックの実施

(1)ストレスチェックの実施(質問票の配布・記入・回収)

ストレスチェックの実施は、1年以内ごとに1回、定期に、①職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目、②当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目、③職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目についての検査を行わなければなりません。

実際には、対象となる労働者に質問票を配布し、これに記入してもらうこととなりますが、ITシステムを利用して、オンラインで実施することもできます。

質問票は、上記①~③の項目が含まれているものであれば、医師等である実施者の意見や衛生委員会での調査審議を踏まえて、事業者の判断により選択することができます。

記入が終わった質問票は、実施者(又は実施事務従事者)が回収します。

第三者や人事権を持つ職員が記入・入力の終わった質問票の内容を閲覧することは禁止されています。

 

(2)ストレス状況の評価・医師による面接指導の要否の判定

回収した質問票をもとに、実施者がストレスの程度を評価し、高ストレスで医師の面接指導が必要な労働者を選びます。

 

(3)本人への結果の通知、結果の保存

ストレスチェックの結果(ストレスの程度の評価の結果、高ストレスか否か、医師の面接指導が必要か否かなど)は、実施者から事業者ではなく、直接、労働者本人に通知されます。

事業者が結果の提供を受けるためには、本人への結果の通知後に、書面又は電磁的記録により、本人から同意を得る必要があります。

ストレスチェックの結果は、実施者又は実施事務従事者が保存します。

本人の同意を得て事業者に提供された結果は、事業者が5年間、保存しなければなりません。

 

その後、面接指導が必要と判断された労働者が申し出たときは、その労働者に対して、医師による面接指導を行い、必要な就業上の措置を講ずることなどがさらに必要となります。

 

労働者が50人以上いる事業所では、遅くとも平成28年11月30日までの間に、すべての労働者に対して、1回目のストレスチェックを実施しなければなりません。

ストレスチェック制度の実施にあたっては、プライバシーの保護にも留意しなければなりませんし、煩雑に感じることも多いかもしれません。

ですが、労働者が心身ともに健康であることは、労働者自身のみならず、事業主にとっても大切なことです。

ストレスチェック制度を職場環境の把握・改善のためのきっかけの一つとして捉え、産業医などとも連携して、その実施に前向きに取り組んでみてください。

2016年2月3日

ストレスチェック制度が導入されました!

平成27年12月1日施行の労働安全衛生法の改正により、ストレスチェック制度が導入されました。

今回は、この制度の概要をお知らせします。

 

ストレスチェック制度とは、①ストレスチェックの実施、②その結果に基づく医師による面接指導と就業上の措置、③ストレスチェック結果の集団ごとの集計・分析などといった事業場における一連の取り組み全体をいいます。

 

この制度は、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止することを主な目的としています。

 

1.ストレスチェックの実施

ストレスチェックとは、事業者が労働者に対して行う心理的な負担の程度を把握するための検査をいいます。

この検査では、ストレスに関する質問票(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、労働者自身のストレスがどのような状態にあるのかを調べます。

実際の検査の実施者は、①医師、②保健師、③検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した看護師又は精神保健福祉士です。

検査の結果は、実施者から直接、労働者本人に通知されます。労働者本人の同意がない限り、検査の結果を実施者から事業者に提供することはできません。

 

事業者は、常時50人以上の労働者を使用する事業所においては、常時使用する労働者に対し、1年以内ごと1回、定期に、ストレスチェックを実施なければなりません(常時50人未満の労働者を使用する事業所においては、当分の間、努力義務となります。)。

 

事業者がストレスチェックを行うべき「常時使用する労働者」とは、次のいずれの要件をも満たす労働者をいいます。

①期間の定めのない労働契約により使用される者(契約期間が1年以上の者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含みます。)であること

②週労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること

 

2.面接指導の実施と就業上の措置

ストレスチェックの結果で「医師による面接指導が必要」とされた労働者から申出があった場合は、事業者は、この労働者に対して、遅滞なく(申出後概ね1か月以内に)、医師による面接指導を行わなければなりません。

(労働者からの申出は、結果が通知されてから概ね1ヵ月以内に行う必要があります。)

 

また、事業者は、遅滞なく(概ね1か月以内に)、面接指導を実施した医師から、就業上の措置の必要性の有無とその内容について意見を聴き、その必要があると認めるときは、可能な限り速やかに、適切な就業上の措置(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等)を講じなければなりません。

 

3.職場分析と職場環境の改善

事業者は、ストレスチェックを行った場合は、当該ストレスチェックを行った医師等に、当該ストレスチェック検査の結果を一定規模の集団(部、課、グループなど)ごとに集計させ、その結果について分析させるよう努めなければなりません。

(この集団ごとの集計・分析の結果の事業者への提供にあたっては、当該集団の労働者個人の同意は不要です。ただし、集団規模が10人未満の場合は、個人が特定されるおそれがあるので、原則として、全員の同意が必要となります。

 

また、事業者は、この分析の結果を勘案し、その必要があると認めるときは、当該集団の労働者の実情を考慮して、当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければなりません。

この措置を講ずるに当たっては、①実施者、又は②実施者と連携したその他の医師、保健師、看護師若しくは精神保健福祉士、又は③産業カウンセラー若しくは臨床心理士等の心理職から、措置に関する意見を聴き、又は助言を受けることが望ましいものとされています。

 

 

近年、仕事や職業生活に関して強い不安、悩み又はストレスを感じている労働者が5割を超える状況にあります。また、仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定を受ける労働者も増加しています。

このような中で、事業場においても、より積極的に心の健康の保持増進を図ることが求められています。

心身ともに健康であることは、だれもが望むことであり、大切なことです。

これを機にいま一度、職場におけるメンタルヘルス対策を考えてみてください。

2016年1月6日