安倍内閣の推進する「一億総活躍社会」の実現に向けた働き方改革の大きな柱の一つに位置づけられたこともあり、最近、「同一労働同一賃金」という言葉を耳にする機会が多くなりました。
今回は、この「同一労働同一賃金」について、概観してみたいと思います。
1、そもそも「同一労働同一賃金」とは?
一般に、同じ労働に対して同じ賃金を支払うべきという考え方をいいます。
性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、労働の種類と量に基づいて賃金を支払う賃金政策として具体化されます。
なお、職種が異なる場合であっても労働の質が同等であれば、同一の賃金水準を適用するという「同一価値労働同一賃金」の概念が、ILO憲章の前文に挙げられています。
また、世界人権宣言にも、「すべての人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報酬を受ける権利を有する」と規定されています。
2、わが国の法制度における「同一労働同一賃金」
わが国の法制度においても、「同一労働同一賃金」の概念はある程度、反映されています。
その中心的な規定としては、次のものが挙げられます。
(1)いわゆる「均等待遇」に関する規定:パートタイム労働法9条
この規定では、通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者に対する差別的取扱いが禁止されています。
通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者とは、職務内容(業務内容・責任の程度)、人材活用の仕組み(職務内容・配置の変更範囲)及び運用が通常の労働者と同じパートタイム労働者をいいます。
(2)いわゆる「均衡待遇」に関する規定:パートタイム労働法8条、労働契約法20条
これらの規定では、パートタイム労働者や有期契約労働者と通常の労働者との待遇の相違は、職務内容、人材活用の仕組み及び運用その他の事情を考慮して、不合理であってはならないものとされています。
このほかにも、例えば、労働基準法4条には「男女同一賃金の原則」、同法3条には「均等待遇」が規定されています。
また、派遣労働者についても、労働者派遣法に、均衡を考慮した待遇の確保等に関する規定(同法30条の3第1項・2項、40条2項・3項・5項)が設けられています。
3、わが国の現状
(第1回同一労働同一賃金の実現に向けた検討会における「厚生労働省提出資料」参照)
わが国の役員を除く雇用者全体に占める非正規雇用労働者の割合は、増加傾向にあり、2015年平均では、37.5%に達しています。
雇用形態別にみると、特にパート・アルバイトの増加が顕著ですが、その一方で、フルタイム労働者に対するパートタイム労働者の賃金水準は、ヨーロッパ諸国では7~8割程度であるのに対して、わが国は6割弱となっています。
4、今後に向けて
(1)「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」の公布・施行(平成27年9月16日)
近年、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されています。
この法律では、これらの状況を是正するため、①労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにするとともに、②労働者の雇用形態による職務及び待遇の相違の実態、雇用形態の転換の状況等に関する調査研究等について定めています。
(2)同一労働同一賃金の実現に向けた検討会
「同一労働同一賃金」の原則により非正規労働者の処遇の改善(公正な処遇)を促し、多様な状況にある人々がそれぞれの状況の中でその能力を十分に発揮できる多様で魅力的な就業環境を整えていくことは、内閣の目指す「一億総活躍社会」の実現に向けた不可欠の取組みの一つとして位置づけられています。
これを踏まえ、現在、厚生労働省の同一労働同一賃金の実現に向けた検討会において、わが国における「同一労働同一賃金」の実現に向けた具体的方策が検討されています。
一口に「同一労働同一賃金」と言っても、何をもって「同一労働」というのか自体も実は明確ではありませんし、大企業と中小企業との間の賃金格差の問題などもあります。
また、正規労働者と非正規労働者(パート労働者・有期契約労働者)の待遇格差については、現状では、それが合理的であるか否かの個別的な判断にとどまっていることも否めません。
一方で、労働者が、その雇用形態にかかわらず、その職務に応じた待遇を確保され、充実した職業生活を営むことができるようになることは、だれもが望むところです。
検討会での検討などを踏まえ、どのような施策が講じられることになるのかについては、今後も注目していきたいと思います。