セクシュアルハラスメントに始まり、パワーハラスメント、モラルハラスメントなどと近年、いろいろなハラスメントが問題となっていますが、ここ最近、特に耳にするようになったものの一つに「マタニティハラスメント」があります。
1、マタニティハラスメントとは?
マタニティハラスメントとは、一般的には、職場において妊娠した者や出産した者に対して行われる精神的・肉体的な嫌がらせをいいます。
特に、妊娠・出産、育児休業等を理由として、解雇、雇止め、降格などの不利益な取扱いを行うことは、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法等で禁止されています。
例えば、
女性労働者の妊娠、出産を理由に解雇や雇止めをすることはもちろん、
妊娠中の女性労働者が妊婦健診を受けに行くため仕事を休んだことや、つわりや切迫流産で仕事を休んだことなどを理由に、減給したり、賞与等の算定において不利益な算定をしたりすることも違法です。
また、女性労働者が育児休業や子の看護休暇を取ったことや、育児のため残業や夜勤の免除を申し出たことなどを理由に、不利益な配置変更をしたり、昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行ったりすることも、違法です。
2、マタニティハラスメントに対する裁判所の判断
最高裁判所においては、平成26年10月23日に、妊娠中の軽易業務への転換を契機として行われた降格について、原則として男女雇用機会均等法違反(妊娠中の軽易業務への転換を理由として行われた降格)に当たるとの初の判断が示されました。
この判決では、例外的に違法とならない場合には、どのような場合があるのかについても、一定の判断が示されています。
3、法令・通達における取扱い(原則)
男女雇用機会均等法第9条第3項においては、「事業主は、〔…略…〕妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と規定されています。
育児・介護休業法にも同じような規定があります。
この中の「理由として」とは、妊娠・出産、育児休業等と、解雇その他の不利益な取扱いの間に因果関係があることをいいます。
因果関係の有無の判断については、上記の最高裁判所の判決を踏まえた通達で、 妊娠・出産、育児休業等の事由を契機として不利益取扱いが行われた場合は、原則として妊娠・出産、育児休業等を理由として不利益取扱いがなされたものと解されることが示されています。
また、「契機として」いるか否かは、基本的に、妊娠・出産、育児休業等の事由と時間的に近接しているか否かで判断されます。
具体的には、妊娠・出産、育児休業等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は、原則として、「契機として」いるものとなります。
今回は、マタニティハラスメントとして違法となる場合について取り上げました。
現場で経験を積み、優れた技術と確かな業務知識を持つ女性労働者が、妊娠・出産などにより退職したり、その能力を発揮する機会がなくなったりすることは、女性労働者のみならず、会社にとって大きな損失のはずです。
女性労働者が働きながら安心して妊娠・出産できるような職場環境にあるかをぜひもう一度、見直してみてください。
次回は、引き続き、マタニティハラスメントに関して、
どのような場合ならば違法とならないのか、違法な不利益取扱いが行われたときはどのような処分がなされるのかなどについて、取り上げる予定です。