いわゆる「年収の壁」とは、それを超えると税金や社会保険料の負担が発生する年収額の境目のことをいい、
パートタイマーやアルバイトで働く方々の就労制限や就労調整につながるものとして、特にここ数年、
その問題が取りざたされています。
税制改革とともに、社会保険料における「年収の壁」についても各種の取り組みにより、
対策が講じられています。
1、社会保険料における「年収の壁」
(1)106万円の壁
次のいずれにも該当する場合には、社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入義務が生じ、
社会保険料の負担が発生します。
①所定の月額賃金が88,000円以上(年収約106万円)であること(賃金要件)
②従業員が51人以上の企業の事業所に勤めていること(企業規模要件)
③週の所定労働時間が20時間以上であること
④2か月を超える雇用の見込みがあること
⑤学生ではないこと
「106万円の壁」となっている上記①の賃金要件については、令和7年の年金制度改正法により、
最低賃金の状況を踏まえ、令和7年6月から3年以内に撤廃されます。
なお、上記②の企業規模要件についても、段階的に縮小・撤廃されることとされています。
(2)130万円の壁
年収が130万円以上(60歳以上または障害者にあっては180万円以上)になると、
社会保険の扶養範囲を超えます。
勤務先が社会保険の適用事業所であれば、社会保険に加入することになり、
勤務先が社会保険の適用事業所でなければ、ご自身で国民年金及び国民健康保険に
加入することになりますので、社会保険料の負担が生じます。
2、「年収の壁・支援強化パッケージ」による取り組み(令和5年10月~)
短時間労働者が「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するための当面の施策として、
「年収の壁・支援強化パッケージ」があります。
(1)「106万円の壁」への対応~キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」
「手当等支給メニュー」、「労働時間延長メニュー」、「併用メニュー」があります。
・手当等支給メニュー:事業主が労働者に社会保険を適用させる際に、「社会保険適用促進手当」※の
支給等により労働者の収入を増加させる場合に助成するもの
※給与・賞与とは別に支給され、新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、
最大2年間、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないことができる
こととされています。
・労働時間延長メニュー:所定労働時間の延長等により社会保険を適用させる場合に
事業主に対して助成を行うもの
(2)「130万円の壁」への対応~事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、
事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となります。
3、令和7年度以降のその他の取り組み
(1)キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)の新設
令和7年7月1日より、キャリアアップ助成金に短時間労働者労働時間延長支援コースが
新設されました。
労働者を新たに社会保険に加入させるとともに、収入増加の取り組みを行った事業主を対象に、
労働者1人につき、最大75万円が助成されます。
(2)19歳以上23歳未満の者の被扶養者認定における年間収入要件の緩和
令和7年度税制改正を踏まえて、扶養認定日が令和7年10月1日以降で、
扶養認定を受ける者(被保険者の配偶者を除く。)が19歳以上23歳未満の場合の年間収入の要件が、
現行の「130万円未満」が「150万円未満」に変更されました。
なお、この「年間収入要件」以外の要件に変更はありません。
(3)労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における
年間収入の取扱いについて
現在、被扶養者としての届出に係る者(認定対象者)の年間収入については、認定対象者の過去の収入
、現時点の収入または将来の収入の見込みなどから、今後1年間の収入の見込みにより判定されています。
この点に関し、令和8年4月1日からは、労働契約で定められた賃金から見込まれる
年間収入が130万円(又は150万円若しくは180万円)未満であり、かつ、他の収入が見込まれず、
次のいずれかに該当するときは、原則として、被扶養者に該当するものとして取り扱われることとなります。
①認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合には、被保険者の年間収入の
2分の1未満であると認められる場合
②認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合には、
被保険者からの援助による収入額より少ない場合