割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて

 

在宅勤務をする労働者に使用者から支給されるいわゆる在宅勤務手当について、

割増賃金の算定基礎から除外することができる場合を明確化するため、

在宅勤務手当が実費弁償と整理される場合について、先般、厚生労働省労働基準局長から、

改めて通知が発出されました。

 

1、割増賃金の基礎となる賃金について(労働基準法第37条第5項、同則第21条)

 

労働基準法においては、割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金として、

①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金及び

⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つが規定されています。

 

この点に関し、在宅勤務手当については、労働基準関係法令上の定めはなく、

企業において様々な実態がみられますが、一般的には、この7つには該当しないと考えられます。

したがって、当該手当が労働基準法第11条に規定する賃金に該当する場合には

、割増賃金の基礎となる賃金に算入されることになります。

これに対して、在宅勤務手当が、事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると

整理される場合には、当該手当は同法第11条に規定する賃金に該当せず、

割増賃金の基礎となる賃金にも算入されないこととなります。

 

2、実費弁償の考え方

 

通知によれば、在宅勤務手当が、事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると

整理されるためには、次のことが必要であるとされています。

①労働者が実際に負担した費用のうち業務のために使用した金額を特定し、

当該金額を精算するものであることが外形上明らかであること。

②上記①のため、就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示されており、かつ、当該計算方法は、

在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法であること。

 

したがって、例えば、企業が従業員に対して毎月一定額を支給し、従業員が在宅勤務に通常必要な費用として

使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの等は、実費弁償に該当せず、賃金に該当し、

割増賃金の基礎に算入すべきものとなります。

 

3、実費弁償の計算方法

 

在宅勤務手当のうち実費弁償に当たり得るものには、事務用品等の購入費用、

通信費(電話料金、インターネット接続に係る通信料)、電気料金などがありますが、

これらが「事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されている」と整理されるために必要な

「在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法」としては、

次の方法などが考えられることとされています。

(1)国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」

(国税庁FAQ)で示されている計算方法

(2)前記(1)の一部を簡略化した計算方法

(3)実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法

 

4、実費弁償の具体的な計算方法~通信費、電気料金等~

 

(1)国税庁FAQで示されている計算方法〔前記3(1)〕による場合

業務のために使用した部分の計算方法として、次のような算式が示されています。

・インターネット接続に係る基本使用料や通信料等

=従業員が負担した1か月の基本使用料や通信料等×(その従業員の1か月の在宅勤務日数÷当該月の日数)

×2分の1

・電気料金に係る基本料金や使用料

=従業員が負担した1か月の基本料金や電気使用料×(業務のために使用した部屋の床面積÷自宅の床面積)

×(その従業員の1か月の在宅勤務日数÷当該月の日数)×2分の1

 

(2)前記(1)の一部を簡略化した計算方法〔前記3(2)〕による場合

手当の支給対象となる労働者ごとに、手当の支給月からみて直近の過去複数月(3か月程度)の「各料金の金額」

及び「当該複数月の暦日数」並びに「在宅勤務をした日数」を用いて、業務のために使用した1か月当たりの

各料金の額を前記(1)の例により計算します。

この計算方法による場合には、在宅勤務手当の金額を毎月改定する必要はなく、

当該金額を実費弁償として一定期間(最大で1年程度)、継続して支給することができますが、

常態として当該手当の額が実費の額を上回っているような場合には、当該上回った額は、

賃金として割増賃金の基礎に算入すべきものとなります。

 

(3)実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法〔前記3(3)〕による場合

この方法は、実費の額を上回らないよう1日当たりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定めたうえで、

当該単価に在宅勤務をした日数を乗じた額を支給するものです。

合理的・客観的に単価を定める方法としては、次の手順が例示されています。

①企業内の一定数の労働者について、国税庁FAQの例により、1か月当たりの額を計算する。

②前記①の計算により得られた額を、当該労働者が当該1か月間に在宅勤務をした日数で除し、

1日当たりの単価を計算する。

③一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日当たりの単価のうち、最も額が低いものを、

当該企業における在宅勤務手当の1日当たりの単価として定める。

2024年6月4日