平成27年4月1日 施行
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(通称「パートタイム労働法」)が、平成27年4月1日から一部改正されました。今回の改正の目的は、パートタイム労働者の方々の公正な待遇を確保し、納得して働くことができるようにすることにあります。
今回の主な改正のポイントは、次の3つです。
1、パートタイム労働者の公正な待遇の確保
2、パートタイム労働者の納得性を高めるための措置
3、パートタイム労働法の実効性を高めるための規定の新設
では、それぞれの内容について、少し詳しく説明していきます。
1、パートタイム労働者の公正な待遇の確保
(1) 正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象範囲の拡大
ここでは、前提として、「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」については、パートタイム労働者であることを理由として、待遇について正社員と差別的取扱いをしてはならないということを確認してください。
今回の改正では、この「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」の範囲が、有期労働契約を締結しているパートタイム労働者にまで拡大されました。
具体的には、①職務の内容(業務の内容やその業務に伴う責任の程度)が正社員と同一であって、②人材活用の仕組み(人事異動等の有無や範囲)が正社員と同一であるパートタイム労働者について、労働時間以外のすべての待遇における正社員との差別的取扱いが禁止されます。
これによって、例えば、有期労働契約を締結しているパートタイム労働者も、職務の内容も人事活用の仕組みも正社員と同じであれば、これまで正社員のみが支給対象とされていた各種手当の支給対象となることなどが考えられます。
(2) 短時間労働者の待遇の原則の新設
パートタイム労働者の待遇について、「正社員の待遇との相違は、職務の内容、人材活用の仕組みその他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」とする規定が創設されました。
この待遇の原則は、広くすべてのパートタイム労働者に適用されます。
したがって、事業主の皆さんは今後、パートタイム労働者の待遇に関するこのような一般的な考え方も念頭に、パートタイム労働者の雇用管理の改善を図っていく必要があります。
なお、このほかにも、「通勤手当」という名称であっても、距離や実際にかかっている経費に関係なく一律の金額を支払っているもののように、職務の内容に密接に関連して支払われているものは、正社員とのバランスを考えつつ、パートタイム労働者の仕事の内容や成果、意欲、能力、経験などを勘案して決定するように努めることとされました。
2、パートタイム労働者の納得性を高めるための措置
(1) パートタイム労働者を雇い入れたときの事業主による説明義務の新設
これまでも、パートタイム労働者から説明を求められたときには、「どの要素をどのように勘案して賃金を決定したか」「どの教育訓練や福祉施設がなぜ使えるのか、使えないのか」「正社員への転換推進措置の決定にあたり何を考慮したか」など、待遇の決定に当たって考慮した事項を説明する義務が事業主に課せられていました。
今回の改正では、これに加えて、パートタイム労働者を新たに雇い入れたときや労働契約を更新するときに、実施する雇用管理の改善措置の内容を説明する義務が事業主に課せられました。
具体的には、「賃金制度はどのようになっているのか」「どのような教育訓練があるか」「どのような福利厚生施設が利用できるか」「どのような正社員転換推進措置があるか」などを分かりやすく説明していく必要があります。
なお、雇入れ後は、パートタイム労働者が待遇の決定に当たって考慮した事項について説明を求めたことを理由に、不利益な取扱いをしてはなりません。
また、説明を求めることにより不利益な取扱いを受けると想起されかねないような言動を避けるなど、事業主から不利益な取扱いを受けることを恐れて、説明を求めることができないといったことがないようにすることが求められます。
このほかにも、パートタイム労働者が親族の葬儀などのために勤務しなかったことを理由に解雇などが行われることは適当ではないものとされました。
(2) パートタイム労働者からの相談に対応するための事業主による体制整備の義務の新設及び相談窓口の周知
パートタイム労働者がその待遇について疑義などがあったとしても、各事業所にこれを相談する体制が十分に整っていなければ、前記(1)の説明による納得性の向上の実効性は確保されません。
そこで、事業主は「相談窓口」を設けるとともに、パートタイム労働者にそのことを知らせなければなければならないこととなりました。
この相談窓口の設置の方法としては、例えば、次のようなことが考えられます。
①雇用する労働者の中から相談担当者を決め、相談に対応させること
②短時間雇用管理者を選任している事業所において、短時間雇用管理者を相談担当者として定め、短時間労働者からの相談に対応させること
③事業主自身が相談担当者となり、相談に対応すること
④外部専門機関に委託し、相談対応を行うこと など
また、パートタイム労働者を雇い入れたときに、事業主が文書の交付などにより明示しなければならない事項に「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」が追加されました。
これにより、事業主は、パートタイム労働者を雇い入れたときや契約を更新するときには、①労働基準法で明示が義務づけられている項目、②昇給の有無、③賞与の有無、④退職手当の有無に加えて、⑤「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」(担当者名、役職、担当部署など)を文書の交付により、分かりやすく知らせなければなりません。
3、パートタイム労働法の実効性を高めるための規定の新設
(1) 厚生労働大臣の勧告に従わない事業主の公表制度の新設
パートタイム労働法では、パートタイム労働者の雇用管理の改善のために事業主が講じなければならない措置を規定していますが、それらの規定に違反したままにしている事業主に対しては、厚生労働大臣による改善勧告が行われます。
今回の改正により、事業主がこの勧告に従わない場合には、厚生労働大臣は、その事業主名を公表できるようになりました。
(2) 虚偽の報告などをした事業主に対する過料の新設
パートタイム労働法が一層守られることを期待して、パートタイム労働法で定められた報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした事業主には、20万円以下の過料に処せられることとなりました。
パートタイム労働者は、今や全雇用者の3割を占めており、企業の中でも重要な役割を担う存在です。
また、パートタイム労働者のスキルアップやモチベーション向上は、業務の生産性を押し上げる要素になりますし、様々な雇用形態を組み合わせて活用できる仕組みは、経営の柔軟性を増すと期待されています。
これを機に、改めてパートタイム労働者の待遇について考えてみたいものです。
そして、その手始めとして、パートタイム労働者に交付する労働条件通知書などに「雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」を盛り込むことをお忘れなく!