受動喫煙防止対策、進んでいますか?

平成27年6月1日施行の労働安全衛生法の改正により、職場の「受動喫煙防止対策」が事業者の努力義務となりました。

それから1年余りが経過しましたが、事業場の受動喫煙対策は進んでいますか?

 

1 受動喫煙の影響での死亡者数が年間1万5,000人!?

平成28年5月末に、一部で「厚生労働省の研究班の調査によると、非喫煙者で、家族や職場の同僚が喫煙している場合に、受動喫煙が原因で死亡する人は、年間1万5,000人と推計される」との報道がなされました。

2010年の前回調査(6,800人)から大幅に増えたわけですが、その原因は、これまで、受動喫煙は、肺がんや心筋梗塞などに因果関係があるとされていましたが、前回調査以降、脳卒中やSIDS(乳幼児突然死症候群)にも因果関係があるとされたことにあるそうです。

この推計値の評価はともかくとして、かなり衝撃的な数値です。

 

2 労働安全衛生法による事業者の努力義務

職場における労働者の受動喫煙を防止するため、事業者は、次のような手順で、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるように努めなければなりません。

この努力義務は、資本金や常時雇用する労働者の数にかかわらず、すべての事業者に課せられています。

 

(1)現状把握と分析

次のようなことについて、事業者と事業場に関する情報を集め、求められる対策やその実施に当たっての課題などを検討します。

①特に配慮すべき労働者の有無(例:妊娠している者、呼吸器・循環器に疾患をもつ者、未成年者)

②職場の空気環境の測定結果

③事業場の施設の状況(例:事業場の施設が賃借であること、消防法等他法令による施設上の制約)

④労働者及び顧客の受動喫煙防止対策の必要性に対する理解度

⑤労働者及び顧客の受動喫煙防止対策に関する意見・要望

⑥労働者及び顧客の喫煙状況

 

(2)具体的な対策の決定

分析の結果を踏まえて、施設設備(ハード面)と計画や教育など(ソフト面)の対策を効果的に組み合わせた、具体的な対策(実施可能な対策のうち最も効果的なもの)を決定します。

対策例としては、次のようなものがあります。

ハード面:敷地内全面禁煙、屋内全面禁煙(屋外喫煙所)、空間分煙(喫煙室)等

ソフト面:担当部署の決定、推進計画の策定、教育・啓発・指導、周知・掲示等

対策の決定や計画の策定に当たっては、衛生委員会(安全衛生委員会)での調査・審議を行います(衛生委員会がない事業場でも、関係労働者の意見をよく聴いてください。)。

 

(3)対策の実施・点検・見直し

決定した対策を実施した後は、その効果を確認し、必要に応じて、対策の内容を見直していく必要があります。

また、事業場内に喫煙室など喫煙可能な区域がある場合は、定期的に空気環境の測定が望まれます。

 

3 国の援助

国も、次のような受動喫煙防止対策についての支援事業を実施しています。

①中小企業事業主を対象とした屋外喫煙所や喫煙室などの設置にかかる費用の助成(受動喫煙防止対策助成金:助成率2分の1(上限200万円))

②受動喫煙防止対策の技術的な相談の受付(電話相談・実地指導)、周知啓発のための説明会の開催、企業・団体の会合への講師派遣

③空気環境の測定機器(粉じん計、風速計、一酸化炭素計、臭気計)の貸出し

 

4 職場での受動喫煙被害に関して事業主が訴えられるケースも!

職場での受動喫煙に関して、労働者が事業主に損害賠償請求を提起した事例もみられます。

先日の報道によれば、職場で受動喫煙状態となり、煙草の煙に起因する化学物質過敏症(シックハウス症候群)と診断された労働者が、会社に対して慰謝料などを求める訴えを提起した事案で、会社側が解決金として約350万円を支払う内容の和解が成立したそうです(大阪高等裁判所:平成28年5月31日和解)。

過去には、職場で受動喫煙被害を受け、急性受動喫煙症となった労働者が、会社に分煙などの改善要求を行ったところ解雇されたとして、解雇の無効確認と給与の支払いを求める訴えを提起し、会社側が約700万円を支払う内容の和解が成立した事案もあります(札幌地裁岩見沢支部:平成21年4月1日和解)。

 

受動喫煙によって、非喫煙者が不快感やストレスなどを受けることがあります。

また、受動喫煙による健康影響も時には非常に深刻なものとなることがあります。

労働者の健康を保持増進し、快適な職場環境を形成することは、事業者の責務の一つです。

職場の受動喫煙防止対策を実施し、見直すことで、さらなる職場環境の向上に努めましょう。

2016年7月5日