政府が推進する「働き方改革」における大きなテーマの一つが、「長時間労働の是正」です。
繁忙期における残業時間の上限を「1か月100時間未満」などとする改革案も示されたところです。
これに関連し、今回は、(1)「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果と、(2)労働時間の適正な把握のための「ガイドライン」について、それぞれ概要をお知らせします。
1、「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果から
平成29年3月13日に、厚生労働省から、「平成28年度「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果」が公表されました。
この重点監督は、長時間の過重労働による過労死等に関する労災請求のあった事業場や、若者の「使い捨て」が疑われる事業場など、労働基準関係法令の違反が疑われる7,014事業場に対して集中的に実施されたものです。
(1)違法な時間外労働
重点監督の結果、違法な時間外労働が認められた事業場は、2,773 事業場(全体の39.5%)に上っています。
また、この2,773事業場のうち、時間外・休日労働(法定労働時間を超える労働のほか、法定休日における労働)の実績が最も長い労働者の時間数が1か月当たり80時間を超えるものが、1,756事業場(63.3%)であったとのことです。
(2)主な健康障害防止に係る指導の状況
重点監督の対象となった7,014事業場のうち、過重労働による健康障害防止措置が不十分なため、改善のための指導が行われた事業場は、5,269事業場(75.1%)に上っています。
特に、この5,269事業場のうち、3,299事業場(62.6%)に対しては、時間外労働を月80時間以内に削減するよう指導が行われたとのことです。
一方、重点監督の対象となった7,014事業場のうち、889事業場(12.7%)に対して、労働時間の把握方法が不適正であるとして指導が行われたとのことです。
2、労働時間の適正な把握のための「ガイドライン」
平成29年1月20日に、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定されました。
このガイドラインでは、次のようなことが示されています。
(1)そもそも「労働時間」とは?
使用者には、労働時間を適正に把握する責務があります。
この「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことです。
使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たります。
例えば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間も、労働時間に該当します。
(2)労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
労働基準法の労働時間に係る規定が適用されるすべての事業場において、使用者は、次の措置を講じなければなりません。
①労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること
【始業・終業時刻の確認・記録の原則的な方法】
・使用者が自ら現認すること。
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎すること。
【やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合の措置】
・自己申告制の対象となる労働者や、実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと。
・自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
・労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。
・さらに36協定で定める延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないかを確認すること
②賃金台帳の適正な調製等
使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければなりません。
また、使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類を3年間保存しなければなりません。
3、まずは労働時間の適正な把握を!
過労死等の防止はもちろんのこと、女性や高齢者などが働きやすい職場環境をつくり、ワーク・ライフ・バランスを改善するためにも、長時間労働の是正は重要な課題といえます。
一方で、長時間労働を是正に当たっては、企業文化や取引慣行を見直すとともに、労働生産性の向上を検討しなければなりません。
簡単に解決できる課題ではありませんが、まずは労働時間を適正に把握し、労使双方で事業場の現状を確認することが大切かもしれませんね。