ワーク・ライフ・バランスの意識が高まる一方で、依然としてわが国では、長時間労働が大きな問題の一つとなっています。
今回は、長時間労働削減に向けた行政の取り組みと、企業で検討したい取り組みをほんの少しご紹介します。
1、行政の取り組み(労働基準監督官による監督指導の強化)
(1)重点監督対象の拡大
平成27年4月から12月までの間に、月100時間を超える残業が疑われるすべての事業場(8,530 事業場)を対象とした労働基準監督署による監督指導が実施されました。
その結果、6割弱の事業場で違法な残業が行われており、そのうち、約8割の事業場で月80時間を超える残業が、約6割の事業場で月100時間を超える残業があったことが報告されています。
このような結果を踏まえ、平成28年4月から、監督指導の対象が、残業が月80時間を超える事業場(年間約2万事業場)にまで拡大されています。
(2)監督指導・捜査体制の強化と全国展開
平成28年4月に、次のような体制強化が図られています。
厚生労働省本省:「過重労働撲滅特別対策班」(本省かとく)の新設
ここでは、企業本社への監督指導のほか、労働局の行う広域捜査活動を迅速かつ的確に実施できるよう、労働局に対し必要な指導調整を行っています。
各都道府県労働局(47局):「過重労働特別監督監理官」の新設
すべての労働局に、長時間労働に関する監督指導等を専門に担当する「過重労働特別監督監理官」が1名ずつ配置されました。
これにより、平成27年4月に東京労働局及び大阪労働局の2局のみに設置された「過重労働撲滅特別対策班」(かとく)の機能が全国に拡大されました。
2、企業で取り組みたいこと
(1)年次有給休暇の取得促進(計画的付与制度の導入などによる職場環境の整備)
例えば、年次有給休暇の付与日数のうち、5日を除いた残りの分については、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができます。これを年次有給休暇の計画的付与制度といいます。
この制度を導入すると、休暇取得の確実性が高まり、労働者にとっては予定した活動を行いやすく、事業主にとっては計画的な業務運営が可能になります。
この制度の活用の方式としては、企業や事業場単位で一斉に付与する方式のほか、班やグループ別、個人別に付与する方式など様々な方式が考えられます。
実際には、夏季や年末年始に年次有給休暇を計画的に付与し、大型連休としたり、暦の関係で休日が飛び石となっている場合に、休日の橋渡しとして計画的付与制度を活用し、連休としたりするためにも利用されています。
(2)所定外労働の削減
例えば、「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」を導入し、計画的に業務を行わせることで、残業をなくす取り組みも行われています。
また、長時間労働が続いている場合は、その原因を検討したうえで、人員配置を考慮したり、作業者の増員を図ったりすることで、業務内容の見直しを行うことも重要です。
(3)特別な休暇制度の導入
特別な休暇制度(特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度)とは、休暇の目的や取得形態を労使による話し合いにおいて任意で設定できる法定外休暇のことです。
考えられる休暇制度として、次のようなものが挙げられています。
病気休暇:治療を受けながら就労する労働者をサポートするために付与される休暇
ボランティア休暇:労働者が自発的に無報酬で社会に貢献する活動を行う際、その活動に必要な期間について付与される休暇
リフレッシュ休暇:職業生涯の節目に労働者の心身の疲労回復等を目的として付与される休暇
裁判員休暇:裁判員等として活動する労働者に対して、その職務を果たすために必要な期間について付与される休暇
犯罪被害者の被害回復のための休暇:犯罪行為により被害を受けた被害者及びその家族等に対して、被害回復のために付与される休暇
3、長時間労働を削減することの意義
長時間労働や休暇が取れない生活が常態化すれば、メンタルヘルスに影響を及ぼす可能性が高くなり、生産性は低下します。また、離職リスクの上昇や企業イメージの低下など、さまざまな問題を生じさせることになります。
他方で、適切な労働時間で働き、ほどよく休暇を取得することにより、仕事に対する労働者の意識やモチベーションを高めるとともに、業務効率を向上させることが期待されます。また、育児や介護などの配慮すべき事情を抱えた労働者の活用の道も広がるでしょう。
長時間労働が当たり前のようになっている職場も少なくないと思いますが、行政の監督指導も強化されている中、労働者のためばかりではなく、企業経営の観点からも、長時間労働の削減や抑制への取り組みを一度、検討したいものです。