過労死防止等啓発月間は、国民の間に広く過労死等を防止することの重要性について自覚を促し、これに対する関心と理解を深めるために、過労死等防止対策推進法に基づき、設けられています。
1.過労死等防止対策推進法
近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっています。
過労死等は、本人はもとより、その遺族や家族のみならず、社会にとっても大きな損失です。
これらのことから、過労死等防止対策推進法は、過労死等の防止のための対策を推進することにより、過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的として、平成26年11月に施行されました。
2.「過労死等」の定義とその対策
過労死等防止対策推進法において「過労死等」とは、次のものをいいます。
(1)業務における過重な負荷による脳血管疾患又は心臓疾患を原因とする死亡
(2)業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
(3)死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
3.「過労死等の防止のための対策に関する大綱」
過労死等防止対策推進法に基づき、平成27年7月24日に、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が閣議決定されています。
この大綱では、将来的に過労死等をゼロとすることを目指し、次の目標が掲げられています。
(1)週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下に(平成32年まで)
(2)年次有給休暇取得率を70%以上に(平成32年まで)
(3)メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上に(平成29年まで)
4.「過労死等防止対策白書」
平成28年10月7日には、過労死等防止対策推進法に基づき、初めて「過労死等防止対策白書」が公表されました。
この白書では、(1)労働時間等の状況、(2)職場におけるメンタルヘルス対策の状況、(3)就業者の脳血管疾患、心疾患等の発生状況、(4)自殺の状況などが報告されています。
5.事業主が取り組むべきこと
(1)労働基準や労働安全衛生に関する法令の遵守
職場における取り組みとしては、まず事業主が労働基準や労働安全衛生に関する法令を遵守することが重要です。
(2)長時間労働の削減など
長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには脳・心臓疾患との関連性が強いという医学的知見が得られています。
そのため、時間外・休日労働協定の内容を労働者に周知し、週労働時間が60時間以上の労働者をなくすよう努めるなど、長時間労働の削減に取り組む必要があります。
また、①職場におけるメンタルヘルス対策の推進、②過重労働による健康障害の防止、③職場のパワーハラスメントの予防・解決、④働き方の見直し、⑤相談体制の整備等にも取り組みたいところです。
6.過労死等が起こってしまったら
過労死等と認定されるかどうかが争われることがほとんどです。
具体的には、労災認定について争われることになります。
先日(平成28年10月7日)も、大手広告会社の新入社員だった女性が自殺したことは長時間労働による過労が原因だったとして、労災と認定されたことが大きく報道されました。
ちなみに、脳・心臓疾患に係る労災認定基準においては、週40時間を超える時間外・休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まり、①発症前1か月間におおむね100時間又は②発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外・休日労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるものとされています。
また、企業が管理責任を怠ったとして民事裁判が提起されることもあります。
事業主の安全配慮義務違反があったとして、1億円近い賠償が命じられた事例もあります。
7.過労死防止等啓発月間に
厚生労働省では、11月中に、過労死等の防止のため、国民への周知・啓発を目的としたシンポジウムや、著しい過重労働や悪質な賃金不払残業などの撲滅に向けた監督指導や無料の電話相談などを行うこととしています。
過労死等が起こってしまった場合には、企業の価値を下げることになりかねません。
過労死等の防止のためには、事業主はもちろん、それぞれの職場において上司などの理解を深めることが重要です。
そして、何よりもつらい思いをしている労働者に気づくことが大切だと思います。
つらいに思いをしている方々がいないかを見つめてみる機会にしてはいかがでしょうか。