働き方改革関連法~労働時間の状況の把握の義務化

 

働き方改革関連法の施行により、2019(平成31)年4月1日から、労働時間の状況を客観的に把握することが事業者に義務づけられます。

 

1、改正の概要と意義

 

これまでは、割増賃金を適正に支払うため、労働時間を客観的に把握することが通達で示されていました。

このため、みなし労働時間に基づき割増賃金を算定する裁量労働制が適用される人や、時間外・休日労働の割増賃金を支払う必要がないいわゆる管理監督者は、その対象外でした。

今回の改正により、健康管理の観点から、事業者は、長時間働いた労働者に対する医師による面接指導(高度プロフェッショナル制度の適用者に対するものを除く。)を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないこととなります。

 

2、労働時間の状況の把握に関しての留意点

 

(1)把握すべき「労働時間の状況」

労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握する必要があります。

具体的には、厚生労働省令で定める客観的な記録により、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければなりません。

また、事業者は、把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければなりません。

 

(2)労働時間の状況を把握しなければならない労働者の範囲

高度プロフェッショナル制度の適用者を除き、①研究開発業務従事者、②事業場外労働のみなし労働時間制の適用者、③裁量労働制の適用者、④管理監督者等、⑤派遣労働者、⑥短時間労働者、⑦有期契約労働者を含めたすべての労働者が、対象となります。

 

(3)厚生労働省令で定める労働時間の状況の把握の方法

把握の方法としては、①タイムカードによる記録、②パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法、③その他の適切な方法が掲げられています。

このうちの③の「その他の適切な方法」としては、やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合において、労働者の自己申告による把握が考えられています。

 

(4)労働者の自己申告による把握の場合に講じなければならない措置

労働者の自己申告による把握の場合には、事業者は、次のア)からオ)までの措置をすべて講じる必要があります。

ア)対象となる労働者に対して、労働時間の状況の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。

イ)実際に労働時間の状況を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、講ずべき措置について十分な説明を行うこと。

ウ)自己申告により把握した労働時間の状況が実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の状況の補正をすること。

エ)自己申告した労働時間の状況を超えて事業場内にいる時間又は事業場外において労務を提供し得る状態であった時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。

オ)事業者は、労働者が自己申告できる労働時間の状況に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、労働者による労働時間の状況の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の状況の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該阻害要因となっている場合には、改善のための措置を講ずること。

さらに、36協定により延長することができる時間数を遵守することはもとより、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間の状況を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

 

なお、労働者の自己申告による把握は、 「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」に限り、認められるものです。

タイムカードによる出退勤時刻や入退室時刻の記録などを有する場合や事業者の現認により当該労働者の労働時間を把握できる場合であるにもかかわらず、自己申告による把握のみにより労働時間の状況を把握することは、認められません。

 

3、今後に向けて

 

これまでは、割増賃金の支払いとの関係で必要とされていた労働時間の状況の把握ですが、今後は、より一層、健康管理の面からの必要性が増していきます。

労働時間の状況の把握は、長時間労働の是正のほか、業務の効率化の第一歩です。

管理職(管理監督者)等についても、労働時間の状況を把握しなければならなくなるこの機会に、まずは一度、その方法を確認してみてください。

2019年3月4日