令和2年6月1日施行の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称:労働施策総合推進法)の改正により、職場におけるパワーハラスメントについて雇用管理上の措置を講ずることが事業主に義務づけられました(中小事業主については、令和4年3月31日 までは努力義務)。
1、職場におけるパワーハラスメントとは?
(1)定義
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素をすべて満たすものをいいます。
客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
(2)「優越的な関係を背景とした」言動
当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。例えば、職務上の地位が上位の者による言動は、これに該当します。
(3)「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動
社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。例えば、業務上明らかに必要性のない言動や業務の目的を大きく逸脱した言動は、これに該当します。
この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮することが適当とされています。
(4)「労働者の就業環境が害される」こと
当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当とされています。
(5)類型
職場におけるパワーハラスメントの代表的な類型としては、次のものがあります。
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
2、事業主及び労働者の責務
(1)事業主の責務
・事業主は、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるパワーハラスメントに起因する問題(パワーハラスメント問題)に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければなりません。
・事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、パワーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければなりません。
(2)労働者の責務
労働者は、パワーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、職場におけるパワーハラスメントについて事業主の講ずる措置に協力するように努めなければなりません。
3、職場におけるパワーハラスメントの防止のために講ずべき措置
事業主は、以下の措置を必ず講じなければなりません。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
②相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
④上記①~③と併せて講ずべき措置
なお、事業主は、労働者が職場におけるパワーハラスメントについて相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。