法律トピックス
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賃金不払残業をしたり、させたりしていませんか?
先般、厚生労働省より、「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成30年度)」が公表されました。
そこで、今回は、労働基準法上の割増賃金の支払義務と併せて、ご紹介します。
1、「賃金不払残業」とは?
賃金不払残業とは、所定労働時間外に労働時間の一部又は全部に対して賃金又は割増賃金 を支払うことなく労働を行わせることをいいます。
いわゆるサービス残業のことですが、これをさせることは労働基準法違反であり、労働基準監督署による監督指導の対象となるほか、罰則の適用もあります。
2、「監督指導による賃金不払残業の是正結果」
(1)「監督指導による賃金不払残業の是正結果」の概要
厚生労働省は、年度ごとに、時間外労働などに対する割増賃金を支払っていない企業に対して、労働基準法違反で是正指導した結果を取りまとめています。
平成30年度の結果においては、全国の労働基準監督署が、賃金不払残業に関する労働者からの申告や各種情報に基づき企業への監督指導を行った結果、平成30年4月から平成31年3月までの期間に不払いだった割増賃金が各労働者に支払われたもののうち、その支払額が1企業で合計100万円以上となった事案が取りまとめられています。
(2)平成30年度結果のポイント
①是正企業数は、1,768企業(前年度比102企業の減)でした。
このうち、1,000万円以上の割増賃金を支払った企業数は、228企業(前年度比34企業の減)となっています。
業種別では、製造業が最も多く(332企業)、次いで商業(319企業)、保健衛生業(230企業)、建設業(179企業)などとなっています。
②対象労働者数は、11万8,837人(同89,398人の減)でした。
業種別では、保健衛生業が最も多く(23,981人)、製造業(23,922人)、商業(15,516人)、運輸交通業(10,355人)などとなっています。
③支払われた割増賃金合計額は、125億6,381万円(同320億7,814万円の減)でした。
業種別の是正支払額は、保健衛生業が最も多く(272,010万円)、次いで商業(186,407万円)、製造業(174,632万円)、教育・研究業(137,392万円)などとなっています。
④支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり711万円、労働者1人当たり11万円でした。
3、割増賃金の支払義務
使用者は、労働者に時間外労働、休日労働、深夜労働を行わせた場合には、法令で定める割増賃金率以上の率で算定した割増賃金を支払わなければなりません。
(1)割増賃金率
①時間外労働(法定時間外労働 (1日8時間、1週40時間(特例措置事業場は1週44時間)を超える労働):2割5分以上(1か月60時間を超える時間外労働時間に対しては、5割以上(中小企業は令和5年4月から))
②休日労働(法定休日(週1日又は4週を通じて4日)における労働):3割5分以上
③深夜労働(午後10時から午前5時までにおける労働):2割5分以上
なお、時間外労働が深夜業となった場合は、合計5割(=2割5分+2割5分)以上の割増賃金を支払う必要がありますし、休日労働が深夜業となった場合は6割(=3割5分+2割5分)以上の割増賃金を支払う必要があります。
(2)割増賃金額
割増賃金は、「1時間当たりの賃金額×時間外労働等をさせた時間数×割増賃金率」により計算します。
例えば、通常1時間当たり1,000円で働く労働者の場合は、時間外労働1時間につき、割増賃金(250円=1,000円×1時間×0.25)を含め1,250円以上を支払う必要があるわけです。
なお、1時間当たりの賃金額は、月給制の場合には、「月の所定賃金額÷1か月の(平均)所定労働時間数」により計算します。
(3)割増賃金の基礎となる賃金及び除外できるもの
割増賃金は、所定労働時間の労働に対して払われる「1時間当たりの賃金」を基礎として計算します。
ただし、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は、基礎となる賃金から除外することができます(なお、このような名称の手当であれば、すべて除外できるわけではありません。)。
4、適正な労働時間の把握と割増賃金の支払いを!
今回監督指導の対象となった企業では、タイムカードの打刻時刻やパソコンのログ記録と実働時間との隔たりがないか定期的に確認するなど、賃金不払残業の解消のために様々な取組みが行われているようです。
しかし、全体からみれば、調査対象となる企業は、恐らくほんの一握りです。
もし「多少のサービス残業はやむを得ない」などという企業風土があるのであれば、まずはこれを改め、労働時間の管理を適正化し、賃金不払残業を解消する取り組みを始めましょう。
「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が過去最高~個別労働紛争解決制度の施行状況
先日、厚生労働省より「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」が公表されました。
個別労働紛争解決制度と、その施行状況についてご紹介します。
1、「個別労働紛争解決制度」とは?
個別労働紛争解決制度は、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るための制度です。
紛争解決の方法としては、次の三つがあります。
(1)総合労働相談
都道府県労働局、各労働基準監督署内、駅近隣の建物など380か所(平成31年4月1日現在)に、あらゆる労働問題に関する相談にワンストップで対応するための総合労働相談コーナーが設置され、専門の相談員が対応しています。
個別労働紛争の未然防止及び自主的な解決の促進のため、労働者又は事業主に対し、情報の提供、相談その他の援助を行います。
(2)都道府県労働局長による助言・指導
民事上の個別労働紛争について、都道府県労働局長が、紛争当事者に対して解決の方向を示すことにより、紛争当事者の自主的な解決を促進する制度です。
助言は、当事者の話し合いを促進するよう口頭又は文書で行われます。
指導は、当事者のいずれかに問題がある場合に問題点を指摘し、解決の方向性が文書で示されます。
(3)紛争調整委員会によるあっせん
都道府県労働局に設置されている紛争調整委員会のあっせん委員(弁護士や大学教授など労働問題の専門家)が紛争当事者の間に入って話し合いを促進することにより、紛争の解決を図る制度です。
2、「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」の概要
(1)総合労働相談件数、助言・指導の申出件数、あっせん申請の件数は、いずれも前年度より増加しています。
①総合労働相談件数は、111万7,983件(前年度比1.2%増)で、11年連続で100万件を超え、高止まりしています。
このうち、民事上の個別労働紛争相談件数は、26万6,535件(同5.3%増)です。
「民事上の個別労働紛争」とは、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(労働基準法等の違反に係るものを除く)をいいます。
②助言・指導申出件数は、9,835件(同7.1%増)です。
③あっせん申請件数は、5,201件(同3.6%増)です。
(2)相談内容別では、民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数のすべてで、「いじめ・嫌がらせ」が過去最高となっています。
①民事上の個別労働紛争の相談件数では、「いじめ・嫌がらせ」が82,797件(前年度比14.9%増)と最も多く、次いで、「自己都合退職」が41,258件(同5.9%増)、「解雇」が32,614件(同2.0%減)、「労働条件の引下げ」 が27,082件(同4.8%増)となっています。
②助言・指導の申出では、「いじめ・嫌がらせ」が2,599件(同15.6%増)と最も多く、次いで、「自己都合退職」が965件(同11.7%増)、「解雇」が936件(同5.5%減)、「労働条件の引下げ」が825件(同6.5%増)となっています。
③あっせんの申請では、「いじめ・嫌がらせ」が1,808件(同18.2%増)と最も多く、次いで、「解雇」が1,112件(同5.8%減)、「雇止め」が448件(同17.8%減)、「退職勧奨」が360件(同15.4%増)、「労働条件の引下げ」が338件(同4.8%減)となっています。
3、あっせん手続きの流れ
あっせんの手続きは、次のような流れで行われます。
①あっせんの申請をしようとする者は、あっせん申請書を当該あっせんに係る紛争当事者である労働者に係る事業場の所在地を管轄する都道府県労働局の長に提出します。
②都道府県労働局長は、個別労働紛争の解決のために必要があると認めるときは、都道県労働局に設置されている紛争調整委員会にあっせんを行わせます。
③あっせんの期日を定めて、紛争当事者に開始通知がなされ、あっせんへの参加・不参加の意思確認が行われます。
④紛争当事者の双方があっせん案を受諾した場合は、合意成立となります。
紛争当事者の双方又は一方が参加しない場合、あっせん案を受諾しない場合、あっせんの打切りを申し出た場合には、打ち切りとなります。
ちなみに、あっせん手続きの終了件数に占める合意成立件数の割合は、40%弱で推移しています。
4、トラブルの早期解決を!
個別労働紛争解決制度は、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき設けられたものですが、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争は、できれば未然に防止したいものです。
また、同法では、このような紛争が生じたときは、紛争当事者に、早期に、かつ、誠意をもって、自主的な解決を図るように努めることも求めています。
たとえば、職場で「いじめ・嫌がらせ」の事案などが発生した場合にも、トラブルが小さいうちに職場内で解決できることが望ましいといえます。
そのような際に必要なことがあれば、私たち社会保険労務士にも相談してくださいね。
働き方改革関連法~「労働施策総合推進法」施行から1年!
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立し、2018(平成30)年7月6日に公布されてから1年が経過しました。
具体的な制度が実施され始めたのは、2019(平成31)年4月1日からですが、これらに先だって、「雇用対策法」が「労働施策総合推進法」に改称・改正されています。
1、「労働施策総合推進法」
働き方改革関連法の公布と同時に、従来の「雇用対策法」が「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称:労働施策総合推進法)に改称されました。
同法の目的には、労働施策を総合的に講ずることにより、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実、労働生産性の向上を促進して、労働者がその能力を有効に発揮することができるようにし、その職業の安定等を図ることが明記されています。
また、労働者は、職務及び職務に必要な能力等の内容が明らかにされ、これらに即した公正な評価及び処遇その他の措置が効果的に実施されることにより、職業の安定が図られるように配慮されるものとされています。
2、「労働施策基本方針」の策定
労働施策総合推進法においては、国は、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするために必要な労働に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針を定めなければならないこととされています。
これに基づき、「労働施策基本方針」が策定されました(2018(平成30)年12月28日閣議決定)。
労働施策基本方針においては、働き方改革の意義やその趣旨を踏まえた国の施策に関する基本的な事項等について示されています。
3、改めて「働き方改革」の意義とその施策
(1)働き方改革の目指す社会
「労働施策基本方針」では、働き方改革の意義やその趣旨を踏まえた国の労働施策に関する基本的な事項等が示されています。
これによれば、働き方改革によって目指す社会は、次のようなものです。
①誰もが生きがいを持って、その能力を有効に発揮することができる社会
②多様な働き方を可能とし、自分の未来を自ら創ることができる社会
③意欲ある人々に多様なチャンスを生み出し、企業の生産性・収益力の向上が図られる社会
(2)労働施策に関する基本的な事項
働き方改革に関する国の労働施策においては、次のようなことがなされています。
①労働時間の短縮等の労働環境の整備(長時間労働の是正、過労死等の防止、最低賃金・賃金引上げと生産性向上、産業医・産業保健機能の強化、職場のハラスメント対策及び多様性を受け入れる環境整備など)
②均衡のとれた待遇の確保、多様な働き方の整備(雇用形態又は就業形態にかかわらない公正な待遇の確保など非正規雇用労働者の待遇改善、正規雇用を希望する非正規雇用労働者に対する正社員転換等の支援など)
③多様な人材の活躍促進(女性の活躍推進、若者の活躍促進、高齢者の活躍促進、障害者等の活躍促進、外国人材の受入環境の整備など)
④育児・介護・治療と仕事との両立支援(育児や介護と仕事の両立支援、治療と仕事の両立支援など)
⑤人的資本の質の向上、職業能力評価の充実(リカレント教育等による人材育成の推進など)
⑥転職・再就職支援、職業紹介等の充実(成長分野等への労働移動の支援など)
⑦働き方改革の円滑な実施に向けた連携体制整備
(3)労働者が能力を有効に発揮できるようにすることに関するその他の重要事項
前記(2)の労働施策に加えて、次のような施策がなされます。
①商慣行の見直しや取引環境の改善など下請取引対策の強化
②労働条件の改善に向けた生産性の向上支援
③学校段階における職業意識の啓発、労働関係法令等に関する教育の推進
(4)働き方改革の効果
これらの施策の効果としては、①労働参加率の向上、②イノベーション等を通じた生産性の向上、③企業文化・風土の変革、④働く人のモチベーションの向上、⑤賃金の上昇と需要の拡大、⑥職務の内容や職務に必要な能力等の明確化、公正な評価・処遇等が期待されます。
4、「働き方改革」とは言うけれど!?
国の大きな政策に取り上げられて以降、本当に「働き方改革」という言葉をよく耳にするようになりました。
そして、年次有給休暇の事業主による時季指定や時間外労働の上限規制など、具体的な制度がすでに導入されています。
しかし、事業主や実際に働く労働者の意識が変わらなければ、どのような制度も絵に描いた餅となってしまいます。
働き方改革関連法施行から1年のこの機会に、何のための改革なのかに思いをめぐらせつつ職場を見回してみると、改善すべきところが見つかるかもしれませんね。
働き方改革関連法~「高度プロフェッショナル制度」を新設
働き方改革関連法の施行により、2019(平成31)年4月1日から、労働基準法が改正され、高度プロフェッショナル制度が新設されました。
1、「高度プロフェッショナル制度」とは?
「高度プロフェッショナル制度」とは、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。
その導入に当たっては、労使委員会の決議及び労働者本人の同意が前提となるほか、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずる必要があります。
2、対象となる労働者及び業務の範囲
(1)対象労働者
対象となる労働者は、次のいずれにも該当するものに限定されます。
①使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること
②使用者から確実に支払われると見込まれる1年間当たりの賃金の額が少なくとも1,075万円以上であること
③対象労働者は、対象業務に常態として従事していることが原則であり、対象業務以外の業務にも常態として従事している者は対象労働者とはならないこと
なお、上記①については、使用者は、(ア)業務の内容、(イ)責任の程度、(ウ)職務において求められる成果その他の職務を遂行するに当たって求められる水準を明らかにした書面に労働者の署名を受けることにより、職務の範囲について労働者の合意を得なければなりません。
(2)対象業務
対象となる業務は、次に掲げるものに限られます。
また、当該業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示を受けて行うものは除かれます。
①金融工学等の知識を用いて行う商品開発業務
②資産運用(指図を含む。以下同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務
③有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
④顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務
⑤新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務
3、高度プロフェッショナル制度の導入に当たって
(1)導入手続
高度プロフェッショナル制度を事業場に導入するに当たっては、労使委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により決議をし、かつ、使用者が、当該決議を所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。
決議すべき事項には、①対象業務、②対象労働者の範囲、③健康管理時間の把握、④休日の確保、⑤選択的措置、⑥健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置、⑦同意の撤回に関する手続き、⑧苦情処理措置、⑨不利益取り扱いの禁止、⑩その他厚生労働省令で定める事項があります。
(2)対象労働者の同意
高度プロフェッショナル制度を労働者に適用するに当たっては、使用者は、次に掲げる事項を明らかにした書面に対象労働者の署名を受け、当該書面の交付を受ける方法(当該対象 労働者が希望した場合にあっては、当該書面に記載すべき事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法)により、当該対象労働者の同意を得なければなりません。
①同意をした場合には労働基準法第4章の規定が適用されないこととなる旨
②同意の対象となる期間
③同意の対象となる期間中に支払われると見込まれる賃金の額
(3)対象労働者の健康確保措置
使用者は、高度プロフェッショナル制度の対象労働者に対して、①健康管理時間の把握、②休日の確保、③選択的措置、④健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置を実施しなければなりません。
4、まずは制度を知ることから!
高度プロフェッショナル制度は、働き過ぎを防ぎながら、ワーク・ライフ・バランスと多様で柔軟な働き方を実現するための一つの制度として、新設されました。
とはいえ、その導入は進んでおらず、厚生労働省の発表によると、その適用を受けた労働者は制度開始後1か月となる2019年4月末時点で、全国で1人だったそうです。
導入には少々ハードルが高く、慎重にならざるをえない感じもしますが、「指針」なども定められていますので、まずはこの制度を知るところから始めてみてくださいね。
働き方改革関連法~「勤務間インターバル制度」の導入促進
働き方改革関連法の施行により、2019(平成31)年4月1日から、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(通称:労働時間等設定改善法)が改正され、勤務間インターバル制度の導入について、事業主に努力義務が課せられました。
1、労働時間等設定改善法
労働時間等設定改善法は、事業主等に労働時間等の設定の改善に向けた自主的な努力を促すことで、労働者がその有する能力を有効に発揮することや、健康で充実した生活を実現することを目的とした法律です。
この法律において「労働時間等の設定」とは、労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季、深夜業の回数、終業から始業までの時間その他の労働時間等に関する事項を定めることをいいます。
なお、この「労働時間等の設定」の定義のうち、「深夜業の回数、終業から始業までの時間」は、今回の改正により追加されたものです。
2、勤務間インターバル制度導入の努力義務化
(1)「勤務間インターバル制度」とは?
「勤務間インターバル制度」とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保する仕組みをいいます。
この制度は、労働者が十分な生活時間や睡眠時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることを可能にするものであり、その普及促進が求められます。
前記1の労働時間等設定改善法に基づき、事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、次のような措置を講ずるように努めなければなりません。
このうちの②が、今回の改正により、事業主の責務として追加された部分です。
①業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定
②健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定
③年次有給休暇を取得しやすい環境の整備
(2)導入事例
勤務間インターバル制度については、次のような導入事例があります。
これらの事例では、通常の始業時刻は8時、終業時刻は17時、休息時間は11時間、前日の勤務終了時刻は23時とします。
①始業時刻を10時に繰り下げたうえで、終業時刻も19時に繰り下げるもの
②始業時刻を10時に繰り下げたうえで、終業時刻は17時のまま変更しないもの
③勤務開始時刻を10時とし、8時から10時までの時間を勤務したものとみなすもの
(3)特別な事情が生じた場合などの適用除外
勤務インターバル制度について、適用除外を設けることも可能です。
例えば、①重大なクレーム(品質問題・納入不良等)に対応する場合、②納期の逼迫、取引先の事情による納期前倒しに対応する場合、③突発的な設備のトラブルに対応する場合など、特別な事情が生じた場合を適用除外とすることが考えられます。
3、勤務間インターバル制度導入に当たって
(1)休息時間(インターバル時間)の設定
労働時間等設定改善法に基づき策定された労働時間等設定改善指針(通称:労働時間等見直しガイドライン)によれば、休息時間は、仕事と生活の両立が可能な実効性ある休息が確保されるよう配慮して、設定することとされています。
また、休息時間の設定に当たっては、労働者の①生活時間、②睡眠時間、③通勤時間、④交替制勤務等の勤務形態や勤務実態等を十分に考慮することが求められます。
なお、休息時間数の設定に当たっては、一律に設定するほか、職種によって分けたり、義務とする時間数と健康管理のための努力義務とする時間数とを分けたりすることも可能です。
(2)導入までのプロセス
制度導入に当たっては、おおむね次のようなプロセスを経ることとなります。
いずれのステップにおいても、労使で話し合いを行うことが重要です。
①制度導入の検討、労使間の話合いの機会の整備、企業内の労働時間の実態の把握
②制度設計(対象者、休息時間数、休息時間が次の勤務時間に及ぶ場合の勤務時間の取扱い、適用除外、時間管理の方法等)の検討
③試行期間(制度の効果の検証を行います。)
④検証・見直し(問題の洗い出し、必要な見直しを行います。)
⑤本格稼働(就業規則等の整備、一定期間後の見直しを行います。)
4、勤務間インターバル制度導入の検討を!
勤務間インターバル制度は、労働者の健康維持に向けた睡眠時間の確保につながるものですし、企業にとっても、魅力ある職場づくりにより人材確保や定着につながるほか、企業の利益率や生産性を高める可能性が考えられますが、その導入は依然として進んでいません。
勤務間インターバル制度の導入に当たっては、中小企業事業主向けに、時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル制度導入コース)も用意されています。
十分な休息時間が確保できていない労働者が実際にいる企業においては、ぜひ一度その導入を検討してみてくださいね。