働き方改革関連法~長時間労働者に対する面接指導等の強化

 

2019(平成31)年4月1日から、いよいよ働き方改革関連法の一部が施行され、高度プロフェッショナル制度の適用を受ける労働者に対する面接指導等が創設されたほか、長時間労働者に対する面接指導等も強化されました。

 

1、長時間労働者に対する面接指導等

 

労働安全衛生法においては、従来から、事業者に、長時間労働者に対して、医師による面接指導等を実施することを義務づけています。

面接指導は、長時間労働やストレスを背景とする労働者の脳・心臓疾患やメンタルヘス不調を未然に防止すことを目的として、医師が、問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うものです。

また、医師が面接指導において対象労働者に指導を行うだけではなく、事業者が就業上の措置を適切に講じることできるよう、事業者に対して医学的な見地から意見を述べることが想定されています。

今回の改正においては、この面接指導が確実に実施されるよう、いくつかの施策が講じられました。

 

2、労働者の申出による医師による面接指導

 

(1)医師による面接指導の対象となる労働者の要件

事業者は、次のいずれにも該当する労働者に対して、遅滞なく、面接指導を実施しなければなりません。

この労働者に対する面接指導は、対象となる労働者の申出により、行われます。

①休憩時間を除き、1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1か月当たり80時間を超えたこと

②疲労の蓄積が認められること

 

今回の改正により、上記①について、その超えた時間が、従前の「1か月当たり100時間」から「1か月当たり80時間」に変更されました。

 

(2)労働者への労働時間に関する情報の通知

1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間の算定は、毎月1回以上、一定の期日を定めて行わなければなりません。

今回の改正により、事業者は、この超えた時間の算定を行ったときは、当該超えた時間が1か月当たり80時間を超えた労働者に対し、速やかに(おおむね2週間以内に)、当該労働者に係る当該超えた時間に関する情報を通知しなければならないこととなりました。

 

この通知は、①研究開発業務に従事する労働者であって、当該超えた時間が1か月あたり100時間を超えた労働者及び②高度プロフェッショナル制度の適用を受ける労働者を除き、労働基準法41条の規定により労働時間等に関する規定の適用が除外される者(いわゆる管理監督者等)やみなし労働時間制が適用される者を含め、すべての労働者に対して行わなければなりません。

 

なお、従前どおり、当該超えた時間が1か月当たり80時間を超えた労働者の情報(氏名及び当該労働者に係る超えた時間に関する情報)を産業医に提供しなければなりません。

 

3、研究開発業務に従事する労働者に対する医師による面接指導

 

研究開発業務に従事する労働者については、その業務の特殊性から、改正後の労働基準法において、1か月について労働時間を延長して労働させ、又は、休日に労働させた場合の労働時間の上限規定を適用しないものとされています。

これに伴い、今回の改正により、研究開発業務に従事する労働者の健康管理等が適切に行われるよう、事業者は、その労働時間が休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1か月当たり100時間を超える労働者に対し、医師による面接指導を行わなければならないこととなりました(一部適用に係る経過措置あり)。

この研究開発業務に従事する労働者に対する面接指導は、労働者の申出なしに、当該超えた時間の算定の期日後、遅滞なく、行う必要がありますので、対象となる労働者に対しては、その超えた労働時間に関する情報を通知し、面接指導を案内します。

これに違反し、研究開発業務に従事する労働者に対する面接指導を行わなかった事業者は、50万円以下の罰金に処せられます。

 

なお、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1か月当たり100時間を超えない研究開発業務に従事する労働者であっても、当該超えた時間が80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められるものについては、前記2の面接指導の対象となります。

 

4、労働者の健康管理の強化を!

 

今回の改正は、長時間労働やメンタルヘス不調などより、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さず、医師による面接指導等が確実に実施されるよう、労働時間の状況の把握の義務化と併せて、行われたものです。

しかし、本来であれば、このような面接指導等の対象となる長時間労働者などがいないことが望ましいわけですから、労働者の健康管理に十分配慮し、労働者が安心して長く働きつづられる職場環境を目指したいものですね。

2019年4月5日

働き方改革関連法~労働時間の状況の把握の義務化

 

働き方改革関連法の施行により、2019(平成31)年4月1日から、労働時間の状況を客観的に把握することが事業者に義務づけられます。

 

1、改正の概要と意義

 

これまでは、割増賃金を適正に支払うため、労働時間を客観的に把握することが通達で示されていました。

このため、みなし労働時間に基づき割増賃金を算定する裁量労働制が適用される人や、時間外・休日労働の割増賃金を支払う必要がないいわゆる管理監督者は、その対象外でした。

今回の改正により、健康管理の観点から、事業者は、長時間働いた労働者に対する医師による面接指導(高度プロフェッショナル制度の適用者に対するものを除く。)を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないこととなります。

 

2、労働時間の状況の把握に関しての留意点

 

(1)把握すべき「労働時間の状況」

労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握する必要があります。

具体的には、厚生労働省令で定める客観的な記録により、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければなりません。

また、事業者は、把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければなりません。

 

(2)労働時間の状況を把握しなければならない労働者の範囲

高度プロフェッショナル制度の適用者を除き、①研究開発業務従事者、②事業場外労働のみなし労働時間制の適用者、③裁量労働制の適用者、④管理監督者等、⑤派遣労働者、⑥短時間労働者、⑦有期契約労働者を含めたすべての労働者が、対象となります。

 

(3)厚生労働省令で定める労働時間の状況の把握の方法

把握の方法としては、①タイムカードによる記録、②パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法、③その他の適切な方法が掲げられています。

このうちの③の「その他の適切な方法」としては、やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合において、労働者の自己申告による把握が考えられています。

 

(4)労働者の自己申告による把握の場合に講じなければならない措置

労働者の自己申告による把握の場合には、事業者は、次のア)からオ)までの措置をすべて講じる必要があります。

ア)対象となる労働者に対して、労働時間の状況の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。

イ)実際に労働時間の状況を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、講ずべき措置について十分な説明を行うこと。

ウ)自己申告により把握した労働時間の状況が実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の状況の補正をすること。

エ)自己申告した労働時間の状況を超えて事業場内にいる時間又は事業場外において労務を提供し得る状態であった時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。

オ)事業者は、労働者が自己申告できる労働時間の状況に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、労働者による労働時間の状況の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の状況の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該阻害要因となっている場合には、改善のための措置を講ずること。

さらに、36協定により延長することができる時間数を遵守することはもとより、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間の状況を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

 

なお、労働者の自己申告による把握は、 「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」に限り、認められるものです。

タイムカードによる出退勤時刻や入退室時刻の記録などを有する場合や事業者の現認により当該労働者の労働時間を把握できる場合であるにもかかわらず、自己申告による把握のみにより労働時間の状況を把握することは、認められません。

 

3、今後に向けて

 

これまでは、割増賃金の支払いとの関係で必要とされていた労働時間の状況の把握ですが、今後は、より一層、健康管理の面からの必要性が増していきます。

労働時間の状況の把握は、長時間労働の是正のほか、業務の効率化の第一歩です。

管理職(管理監督者)等についても、労働時間の状況を把握しなければならなくなるこの機会に、まずは一度、その方法を確認してみてください。

2019年3月4日

働き方改革関連法~「フレックスタイム制」の拡充

 

働き方改革関連法の施行により、2019(平成31)年4月1日から、子育てや介護などをしながらでもより働きやすくするため、「フレックスタイム制」が拡充されます。

 

1、「フレックスタイム制」の意義と改正の趣旨

 

フレックスタイム制は、一定の期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で各日の始業及び終業の時刻を選択して働く制度です。

今回の改正においては、子育てや介護、自己啓発などの様々な生活上のニーズと仕事との調和を図りつつ、効率的な働き方を一層可能にするため、フレックスタイム制がより利用しやすい制度となるよう、清算期間の上限の延長等の見直しが行われます。

 

2、清算期間の上限の延長等

 

(1)清算期間の上限の延長

フレックスタイム制における清算期間とは、その期間を平均し1週間当たりの労働時間が法定労働時間(原則40時間)を超えない範囲内において労働させる期間をいいます。

この清算期間は従来、1か月以内の期間に限られましたが、これが3か月以内の期間に延長されます。

これにより、例えば、清算期間を6月~8月の3か月とすると、この中で労働時間の調整が可能となるため、子育て中の親が6月や7月の労働時間を長くし、その分、8月の労働時間を短くすることで 、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保しやくなることが考えられます。

 

(2)清算期間が1か月を超え3か月以内である場合の過重労働防止

清算期間を3か月以内に延長することにより、清算期間内の各月における労働時間の長短の幅が大きくなることが考えられます。

このため、対象労働者の過重労働を防止する観点から、清算期間が1か月を超える場合には、当該清算期間を1箇月ごとに区分した各期間(最後に1か月未満の期間を生じたときには、当該期間)ごとに当該各期間を平均し1週間当たりの労働時間が50時間を超えないようにしなければなりません。

 

(3)完全週休2日制の場合の清算期間における労働時間の限度

完全週休2日制の下で働く労働者(1週間の所定労働日数が5日の労働者)にフレックスタイム制を適用する場合には、曜日のめぐり次第で、1日8時間相当の労働でも清算期間における法定労働時間の総枠を超えことがあります。

このような課題を解消するため、完全週休2日制の事業場において、労使協定により、所定労働日数に8時間を乗じた時間数を清算期間における法定労働時間の総枠とすることができるようになります。

この場合には、「(8時間×清算期間における所定労働日数)÷(清算期間における歴日数÷7)」で計算した時間数を1週間当たりの労働時間の限度とすることができます。

 

3、労使協定の締結及び届出

 

フレックスタイム制の導入に当たっては、①就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることを定めるとともに、②労使協定により、所定の事項を定める必要があります。

これらに加えて、今回の改正により、清算期間が1か月を超えるものである場合には、③労使協定に有効期間の定めをするとともに、④当該労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出なければならないこととなります。

④の届出を行わなかった使用者は、30万円以下の罰金に処せられます。

 

4、法定時間外労働となる時間

 

フレックスタイム制を採用した場合には、次の①及び②の労働時間が、法定時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要となります。

①清算期間が1か月以内の場合:清算期間における実労働時間数のうち、法定労働時間の総枠を超えた時間

②清算期間が1か月を超え3か月以内の場合:次のア及びイを合計した時間

ア 清算期間を1か月ごとに区分した各期間(最後に1か月未満の期間を生じたときには、当該期間)における実労働時間のうち、各期間を平均し1週間当たり50時間を超えて労働させた時間

イ 清算期間における総労働時間のうち、当該清算期間の法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間(ただし、上記アで算定された時間外労働時間は除きます。)

 

なお、清算期間が1か月を超える場合において、フレックスタイム制により労働させた期間が当該清算期間よりも短い労働者については、当該労働させた期間を平均して1週間当たり40時間を超えて労働させた時間について、割増賃金を支払わなければなりません。

 

5、選択肢の一つとしてのフレックスタム制の導入

 

平成30年就労条件総合調査によれば、平成30年1月1日現在、フレックスタイム制を採用している企業割合は5.6%、適用を受ける労働者割合は7.8%にとどまっています。

フレックスタイム制の下では、各自の始業及び終業の時刻が労働者に委ねられるため、労働者が仕事と生活の調和を図りながら効率的に働くことが可能となります。

仕事と生活の調和を図りやすい職場になれば、労働者が長く職場に定着することも期待できますので、これを機会に働き方の選択肢に加えてもよいかもしれませんね。

2019年2月5日

働き方改革関連法~時間外労働の上限規制

 

働き方改革関連法の施行により、2019(平成31)年4月1日(中小企業にあっては2020年4月1日)から、長時間労働の是正のため、時間外労働の上限規制が導入されます。

 

1、趣旨

 

使用者は、当該事業場で労使協定(いわゆる36協定)をし、これを行政官庁に届け出た場合には、その協定で定めるところによって時間外労働(法定労働時間(1日8時間・1週間40時間)を超える労働)又は休日労働(法定休日の労働)をさせることができます。

これまでは、臨時的な特別の事情があって労使が合意した場合については、上限なく時間外労働が可能でしたが、今回の改正により、この場合でも上回ることのできない労働時間の上限が労働基準法に規定され、これが罰則により担保されることとなります。

 

2、36協定で定める時間外労働及び休日労働に関する規制

 

(1)原則

36協定においては、対象期間(1年間)における1日、1か月及び1年のそれぞれの期間について時間外労働をさせることができる時間又は休日労働をさせることができる休日の日数を定めなければなりません。

この時間外労働をさせることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、「限度時間」を超えない時間に限られます。

「限度時間」は、1か月について45時間及び1年について360時間(1年単位の変形労働時間制の対象期間として3か月を超える期間を定めて労働させる場合にあっては、1か月について42時間及び1年について320時間)です。

 

(2)臨時的な特別な事情がある場合(いわゆる特別条項付き36協定)

36協定においては、臨時的な特別の事情がある場合に限り、限度時間を超えて労働させることができる旨を定めることができます。

ただし、この場合でも、時間外労働をさせることができる時間は、1年について720時間未満とし、休日労働の時間を含めて1か月について100時間未満にしなければなりません。

また、対象期間において時間外労働が45時間(対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は42時間)を超えることができる月数は、1年について6か月以内です。

 

3、36協定で定めるところにより労働させる場合の実労働時間数の上限

 

36協定で定めるところにより時間外労働や休日労働を行わせる場合であっても、次の①~③の要件を満たすものとしなければなりません。

これに違反した場合は、罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が適用されます。

①坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、1日における時間外労働時間数が2時間を超えないこと。

②1か月における時間外労働及び休日労働の時間数の合計時間が100時間未満であること。

③対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間の直前の2か月間、3か月間、4か月間、5か月間及び6か月間における時間外労働及び休日労働の時間数が、いずれも1か月の平均時間で80時間を超えないこと。

 

また、上記②及び③の要件を満たしている場合であっても、連続する月の月末・月初めに集中して時間外労働を行わせるなど、短期間に長時間の時間外労働を行わせることは望ましくないものとされています。

 

4、36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項等に関する指針

 

時間外・休日労働協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等として、指針において、次のこと等が定められています。

①時間外労働及び休日労働は必要最小限にとどめられるべきであること。

②使用者は、36協定の範囲内であっても、労働者に対する安全配慮義務を負うこと。

③臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合であっても、時間外労働は、限度時間にできる限り近づけるように努めなければならないこと。

④休日労働の日数及び時間数をできる限り少なくするように努めること。

⑤限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保しなければならないこと。

 

5、適用除外及び適用猶予

 

新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については、限度時間、36協定に特別条項を設ける場合の要件、時間外労働及び休日労働の時間の上限(前記3②及び③に限る。)の規定は、適用されません。

また、「自動車運転の業務」「建設事業」「医師」「鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業」については、改正法施行後5年間、これらの規定の全部又は一部の適用が猶予されます。

 

6、36協定の見直しを!

 

時間外労働や休日労働がこれまで、当然のように行われていた職場も多いかもしれませんが、今後は上限が定められ、これを超える時間外労働ができなくなります。

まずは一度、職場の36協定を見直し、必要に応じて、その改定を行いましょう。

長時間労働の是正は働き方改革の大きな柱の一つですから、同時に業務効率などの改善を図ることが大切なのではないでしょうか。

2019年1月9日

働き方改革関連法~年次有給休暇の時季指定

 

平成30年7月6日にいわゆる働き方改革関連法が公布され、平成31年4月1日からは、労働基準法等の改正により、労働時間に関する規制の見直し等が行われます。

その中で、年次有給休暇についても使用者による年5日の時季指定が義務づけられます。

 

1、年5日以上の年次有給休暇の確実な取得

 

(1)使用者による時季指定

使用者は、年次有給休暇の日数が10労働日以上である労働者に係る年次有給休暇のうち、5日については、基準日から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならないこととなります。

対象者は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に限られますが、管理監督者も含まれます。

ただし、①労働者が自ら時季を指定して5日以上の年次有給休暇を取得した場合や、②計画的付与により5日以上の年次有給休暇を取得した場合には、使用者による時季指定は不要です。

 

(2)半日単位の年次有給休暇の取扱い

年次有給休暇の半日単位による付与については、年次有給休暇の取得促進の観点から、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限りにおいて、問題がないものとして取り扱うこととされています。

これにより半日単位の年次有給休暇を労働者が取得した場合については、年次有給休暇を与えたものとして取り扱って差し支えなく、また、労働者の意見を聴いた際に半日単位の年次有給休暇の取得の希望があった場合においては、使用者が年次有給休暇の時季指定を半日単位で行うことも差し支えないものとされます。

これらの場合において、半日単位の年次有給休暇の日数は0.5日として取り扱います。

 

(3)年次有給休暇を基準日より前の日から与える場合の取扱い

法定の基準日(雇入れの日から半年後)より前に年次有給休暇を付与する場合などの時季指定義務の取扱いについては、労働基準法施行規則に細かい定めがされています。

たとえば、雇入れの日から年次有給休暇を10労働日以上与えることとしたときは、当該年次有給休暇の日数のうち5日については、当該雇入れ日から1年以内の期間に、その時季を定めることにより与えなければなりません。

 

2、労働者からの意見聴取

 

使用者は、時季を定めることにより労働者に年次有給休暇を与えるに当たっては、あらかじめ、当該年次有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにしたうえで、その時季について当該労働者の意見を聴かなければなりません。

また、使用者は、年次有給休暇の時季を定めるに当たっては、できる限り労働者の希望に沿った時季指定となるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。

 

3、年次有給休暇管理簿

 

使用者は、①労働者による時季指定、②計画的付与、使用者による時季指定により年次有給休暇を与えたときは、年次有給休暇管理簿を作成し、当該年次有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなければなりません。

年次有給休暇管理簿とは、時季、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした書類です。

年次有給休暇管理簿については、これを労働者名簿又は賃金台帳と併せて調製することができます。

なお、年次有給休暇管理簿は、労働基準法によりその保存が義務づけられる「重要な書類」には該当しません。

 

4、罰則、施行日等

 

(1)罰則

使用者による時季指定に関する新労働基準法39条7項に違反した使用者に対しては、罰則の適用があり、30万円以下の罰金に処せられます。

(2)施行日

この年次有給休暇に係る改正規定の施行期日は、平成31年4月1日です。

ただし、4月1日以外の日が基準日(年次有給休暇を当該年次有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとした場合はその日)である労働者に係る年次有給休暇については、平成31年4月1日後の最初の基準日の前日までの間は、従前どおり、改正前の労働基準法39条が適用されます。

 

5、さらなる年次有給休暇の取得促進を!

 

「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(平成30年7月24日閣議決定)においては、年次有給休暇の取得率を(2020年までに)70%以上とすること、特に、年次有給休暇の取得日数が0日の者の解消に向けた取り組みを推進することが数値目標として掲げられています。

一方、平成30年「就労条件総合調査」の結果によれば、平成29年(又は平成28会計年度)1年間の年次有給休暇の取得率は51.1%と、ようやく50%を上回りました。

年次有給休暇をほとんど取得していない労働者については長時間労働者の比率が高い実態もありますが、この改正が契機となって、休み方の見直しも進むとよいですね。

2018年12月3日

進む女性活躍~女性活躍推進法に基づく取り組み状況

 

1、改めて「女性活躍推進法」

 

(1)制定の背景

女性活躍推進法は、わが国における次のような状況を踏まえ、女性の個性と能力が十分に発揮できる社会を実現するため制定された法律です。

①働く場面において女性の力が十分に発揮できているとはいえない状況にあること

(具体的な状況)

・就業を希望していながら働いていない女性が約300万人に上っている。

・出産・育児を理由に離職する女性は依然として多く、再就職にあたって非正規労働者となる場合が多いことなどから、女性雇用者の半数以上は非正規労働者として働いている。

・管理職に占める女性の割合は、欧米、アジア諸国と比べても低い状況にある。

②女性の活躍の推進の重要性が高まっていること

(具体的な状況)

・急速な人口減少局面を迎え、労働力不足が懸念されている。

・企業等における人材の多様性(ダイバーシティ)を確保することが不可欠となっている。

 

(2)女性活躍推進法の概要

女性活躍推進法では、国、地方公共団体、事業主の責務や女性の活躍の推進に関して実施すべき義務などが定められています。

常時301人以上の労働者を雇用する事業主については、①自社の女性の活躍に関する状況の把握及び課題の分析を行い、それを踏まえた一般事業主行動計画の策定し、届け出ること等、②女性の活躍に関する情報の公表を行うことが義務づけられています。

常時300人以下の労働者を雇用する事業主については、これらが努力義務とされています。

また、一般事業主行動計画の策定・届出を行った企業のうち女性の活躍推進に関する状況等が優良なものは、申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができます。

 

2、女性活躍推進法に基づく取り組み状況(平成30年6月末現在)

 

(1)一般事業主行動計画の策定・届出

策定・届出が義務づけられている301人以上の労働者を雇用する一般事業主の行動計画策定届の件数は15,983社(平成28年4月1日時点では11,068件)、届出率は98.1%(同71.5%)と、ほぼすべての事業主から策定届が提出されています。

策定・届出が努力義務企業である300人以下の労働者を雇用する事業主についても、届出件数は4,711社(同724件)となっています。

 

(2)女性の活躍推進企業データベースにおける情報公表

女性活躍推進法ではインターネットの利用などにより情報の公表を義務(または努力義務)としており、厚生労働省では「女性の活躍推進企業データベース」を運営していいます。

①「女性の活躍推進企業データベース」の登録企業は13,306社となっています。

②情報公表企業は9,276社となっています。

③女性の活躍状況(公表項目の平均値)は、次のとおりです。

・採用した労働者に占める女性の割合の平均値は39.8%(企業規模別では「101~300人」が44.0%と最も高く、産業別では「医療,福祉」が71.7%と最も高い。)

・管理職に占める女性労働者の割合の平均値は14.3%(企業規模が大きくなるほど女性の割合は低い。)

 

(3)厚生労働大臣の認定(「えるぼし」認定

「えるぼし」認定には3段階あり、①採用、②継続就業、③労働時間等の働き方、④管理職比率、⑤多様なキャリアコースの五つの評価項目により、一定の基準を満たす項目数に応じて認定段階が決定されます。

「えるぼし認定」取得企業は630社(平成28年6月末時点では105社)となっています。

認定段階別にみても、すべての段階において認定企業が増加しています。

また、企業規模別にみると、認定取得企業630社のうち300人以下の企業が147社と23.3%(平成28年6月末時点では7社で6.7%)を占めており、中小企業でも認定取得が広がりつつあります。

 

3、働きやすい環境づくりのために

 

「えるぼし」認定企業は、厚生労働大臣が定める認定マークを商品や広告などに付すことができ、女性活躍推進事業主であることをPRすることで、優秀な人材の確保や企業イメージの向上等につながることが期待できます。

また、中小企業が一般事業主行動政策の策定・届出や「えるぼし」認定を取得すると、公共調達において加点評価を受けることができたり、日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金(企業活力強化貸付)」の利用の対象となったりします。

「両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)」などもありますので、優秀な人材の確保や職場定着を図るための一つの契機として、積極的に取り組みたいところです。

一方で、公表されている情報は、就職先・転職先を選ぶ指標としてのみならず、勤務している企業の状況を知るためにも一度、確認してみるとよいかもしれませんね。

2018年11月1日

中小企業退職金共済制度~加入促進強化月間によせて

中小企業における退職金制度の一つとして、中小企業退職金共済制度があります。

毎年10月は中小企業退職金共済制度の「加入促進強化月間」ですが、ご存じでしたか?

 

1、中小企業退職金共済制度とは?

中小企業退職金共済制度は、中小企業対策の一環として制定された中小企業退職金共済法に基づく社外積み立て型の退職金制度です。

単独では退職金制度を持つことが困難である中小・零細企業の実情を考慮して、中小企業者の相互扶助の精神と国の援助で退職金制度を確立し、これによって中小企業の従業員の福祉の増進と雇用の安定を図り、中小企業の振興と発展に寄与することを目的としています。

この制度は、独立行政法人勤労者退職金共済機構(機構)が運営しています。

一般の中小企業退職金共済制度と特定業種退職金共済制度があります。

 

2、一般の中小企業退職金共済制度のしくみ

(1)申し込み

事業主が雇用する従業員を対象に、機構と「退職金共済契約」を結びます。

この契約では、事業主が機構に掛金を納付することを約し、機構がその事業主の雇用する従業員の退職について、退職金を支給することを約します。

(2)掛金

毎月の掛金(加入従業員の総額)は、金融機関の預金口座から、振り替えられます。

加入従業員ごとの「納付状況」「退職金試算額」が、年1回事業主に通知されます。

(3)退職金の支払い

退職した従業員の請求に基づき、機構から退職金が直接、支払われます。

退職した従業員が、事業主から交付される「退職金共済手帳(請求書)」を機構に送付すると、これに基づいて、退職した従業員の預金口座に退職金が振り込まれます。

退職金額等は、事業主および従業員に振り込み前に通知されます。

 

3、加入できる企業

一般の中小企業退職金共済制度に加入できるのは、次の企業です。ただし、個人企業や公益法人等の場合は、常用従業員数によります。

一般業種(製造業、建設業等):常用従業員数300人以下または資本金・出資金3億円以下

卸売業:常用従業員数100人以下または資本金・出資金1億円以下

サービス業:常用従業員数100人以下または資本金・出資金5,000万円以下

小売業:常用従業員数50人以下または資本金・出資金5,000万円以下

 

加入後に従業員の増加などにより条件を満たさなくなった場合には、中退共制度との契約は解除されます(従業員には解約手当金が支払われます。)が、一定の要件を備えていれば、確定給付企業年金制度、確定拠出年金制度または特定退職金共済事業に退職金相当額を引き継ぐことができます。

 

なお、加入に際しては、原則として、従業員の全員を加入させる必要があります。

ただし、期間を定めて雇用される者、短時間労働者など一定の者は、加入させなくてもよいことになっています。

 

4、掛金月額

一般の中小企業退職金共済制度の掛金月額は、5,000円から30,000円までの範囲で定められた額の中から、従業員ごとに選択することができます。

掛金月額は、加入後いつでも増額できますが、減額する場合は、一定の条件が必要です。

なお、新規加入や掛金の増額に対して国の助成制度があります

 

掛金は、法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費として、全額非課税となります(ただし、資本金または出資金が1億円を超える法人の法人事業税については、外形標準課税が適用されます。)。

 

5、退職金

一般の中小企業退職金共済制度において支給される退職金の金額は、基本退職金(掛金月額と掛金納付月数に応じて定められている金額)と付加退職金(運用収入の状況等に応じて定められる金額)を合算した額となります。

掛金の納付が1年未満の場合は、退職金は支給されません。

1年以上2年未満の場合は掛金相当額を下回る額になりますが、2年から3年6か月では掛金相当額となり、3年7か月から掛金相当額を上回る額になります。

なお、退職金は退職者本人が退職時60歳以上であれば、一時金払いのほか、全部または一部を分割して受け取ることができます。

 

6、従業員の将来の安心材料の一つに。

退職金制度があることは、従業員の将来への安心感や、仕事への意欲につながります。

また、国が掛金の一部を助成するほか、管理も簡単で、税制上の優遇措置が受けられるなどのメリットがあるため、平成30年7月末時点で約54万6,000の中小企業が中小企業退職金共済制度に加入しています。

企業の活性化や優秀な人材の確保のための企業の魅力づくりの一環として、選択肢の一つに加えてみるのもよいかもしれませんね。

2018年10月3日

労働者派遣法改正から3年~派遣可能期間の延長

 

平成27年労働者派遣法の改正により、派遣可能期間について新たな制限ルールが導入されましたが、平成30年9月30日で、その制限ルールに係る3年を迎えることになります。

 

1、派遣可能期間に関する制限ルール

派遣元事業主に無期雇用される派遣労働者を派遣する場合や60 歳以上の派遣労働者を派遣する場合などの一定の場合を除いて、派遣可能期間には次の制限があります。

 

(1)派遣先事業所単位の期間制限

派遣先の同一の事業所に対し派遣できる期間(派遣可能期間)は、原則3年が限度です。

この3年の派遣可能期間の起算日は、改正法の施行日である平成27年9月30日以後、最初に新たな期間制限の対象となる労働者派遣を行った日となります。

それ以降、3年までの間に派遣労働者が交替したり、他の労働者派遣契約に基づく労働者派遣を始めたりした場合でも、派遣可能期間の起算日は変わりません。

 

(2)派遣労働者個人単位の期間制限

同一の派遣労働者を、派遣先の事業所における同一の組織単位に派遣できる期間は、3年が限度です。

派遣労働者の従事する業務が変わっても、同一の組織単位内である場合は、派遣期間は通算されます。

組織単位を変えれば、同一の事業所に、引き続き同一の派遣労働者を(3年を限度として)派遣することができますが、事業所単位の期間制限による派遣可能期間が延長されていることが前提となります。

 

2、過半数労働組合等への意見聴取手続

派遣先は、前記1(1)の事業所単位の期間制限による3年の派遣可能期間を延長しようとする場合は、次の流れに従って、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合(そのような労働組合がない場合には、過半数代表者)からの意見を聴く必要があります。

 

(1)意見聴取

派遣先は、過半数労働組合等に十分な考慮期間を設けたうえで、事業所単位の期間制限の抵触日の1か月前までに、事業所の過半数労働組合等からの意見を聴きます。

派遣先が意見を聴く際は、「派遣可能期間を延長しようとする事業所」及び「 延長しようとする期間」を書面で通知しなければなりません。

また、派遣先が意見を聴く際は、事業所の派遣労働者の受入れの開始以来の派遣労働者数や派遣先が無期雇用する労働者数の推移等の過半数労働組合等が意見を述べる参考になる資料を提供する必要があります。

過半数労働組合等が希望する場合は、部署ごとの派遣労働者の数、個々の派遣労働者の受入期間等の情報を提供することが望まれます。

意見を聴いた後は、所定の事項を書面に記載し、延長しようとする派遣可能期間の終了後3年間保存するとともに、事業所の労働者に周知する必要があります。

 

(2)対応方針等の説明

派遣先は、意見を聴いた過半数労働組合等が異議を述べたときは、延長しようとする派遣可能期間の終了日までに、「派遣可能期間の延長の理由及び延長の期間」及び「異議への対応方針」について説明しなければなりません。

また、説明した日及び内容を書面に記載し、延長しようとする派遣可能期間の終了後3年間保存するとともに、事業所の労働者に周知する必要があります。

 

(3)派遣可能期間の延長

派遣可能期間を延長できるのは3年間までです。延長した派遣可能期間を再延長しようとする場合は、改めて過半数労働組合等から意見を聴かなければなりません。

派遣先の事業所で受け入れているすべての労働者派遣が意見聴取の対象となるため、意見聴取を行うことで、原則としてすべての労働者派遣の派遣可能期間が一律に延長になります。ただし、過半数労働組合等からの意見を踏まえ、個別の労働者派遣ごとに、延長の幅を設定したり、延長しないこととしたりすることも可能です。

なお、派遣先事業所単位の派遣可能期間を延長した場合でも、前記1(2)の個人単位の期間制限を超えて、同一の有期雇用の派遣労働者を引き続き同一の組織単位に派遣することはできません。

 

3、適正な労働者派遣のために

派遣可能期間に係る制限ルールについては、派遣先のみならず、派遣労働者を雇用する派遣元事業主や派遣により働く派遣労働者においても、これに抵触することがないかを再度確認する必要があります。

また、平成30年9月30日以降、許可を受けていない(旧)特定労働者派遣事業を行う事業主から、派遣労働者を継続して受け入れると、法違反となりますので、同日以降に派遣を受け入れる際には、必ず派遣元事業主の許可取得・申請状況を確認してください。

派遣労働者の雇用安定措置やキャリアアップ措置などと併せて、労働者派遣の受け入れが適正に行われるよう、派遣労働者の方々が十分に活躍できる環境をつくりたいものです。

2018年9月6日

職場においても熱中症予防対策を!

 

東日本・西日本を中心とした「災害レベル」ともいわれる暑さとともに、熱中症に関するニュースが連日のように報道されていますね。

家庭のみならず、職場における熱中症による死傷災害も増加傾向にあるようです。

 

1、熱中症とは?

高温多湿な環境下において、体内の水分と塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻したりすることなどから、発症する障害の総称です。

その症状としては、めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感、意識障害・痙攣(けいれん)・手足の運動障害、高体温などが現れるそうです。

 

2、職場における熱中症による死傷災害の発生状況

平成30年5月31日に、厚生労働省から、平成29年の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確報)が公表されました。

(1) 職場における熱中症による死傷者数の推移(平成20~29年)

過去 10 年間の職場での熱中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数(以下、合わせて「死傷者数」といいます。)は、平成22年が656人と最多であり、その後も400~500人台で高止まりの状態にあります。

平成29年の職場での熱中症による死傷者数は544名(平成28年比82人増)、このうち死亡者数は14名(同2人増)で、死傷者数、死亡者数いずれも2割程度増加しています。

 

(2)業種別発生状況(平成 25~29 年)

過去5年間の業種別の熱中症による死傷者数をみると、建設業が最も多く、次いで製造業で多く発生しており、全体の約5割がこれらの業種で発生しています。

平成29年の業種別の死亡者をみると、建設業が最も多く、全体の約6割(8人)が建設業で発生しています。

 

(3)月・時間帯別発生状況(平成25~29年)

過去5年間の月別の熱中症による死傷者数をみると、全体の約9割が7月及び8月に発生しています。

また、時間帯別では、11時台及び14~16時台に多く発生しています。日中の作業終了後に帰宅してから体調が悪化し病院へ搬送されるケースも散見されます。

 

(4)発生状況(平成29年の職場における熱中症による死亡者14人について)

次のような基本的な対策が取られていなかったことが分かるとされています。

・WBGT値(暑さ指数:気温に加え、湿度、風速、輻射(放射)熱を考慮した暑熱環境によるストレスの評価を行う暑さの指数)の測定を行っていなかった(13人)

・計画的な熱への順化期間が設定されていなかった(13人)

・事業者が水分や塩分の準備をしていなかった(4人)

・健康診断を行っていなかった(5人)など

 

3、熱中症の予防に関する数値目標

第13次労働災害防止計画において、「職場での熱中症による死亡者数を2013年から2017年までの5年間と比較して、2018年から2022年までの5年間で5%以上減少させる」との数値目標が設定されています。

具体的な対応策としては、次のことが掲げられています。

・ 日本工業規格(JIS)に適合したWBGT値測定器を普及させるとともに、夏季の屋外作業や高温多湿な屋内作業場については、WBGT値の測定とその結果に基づき、休憩の確保、水分・塩分の補給、クールベストの着用等の必要な措置が取られるよう推進すること。

・ 熱中症予防対策の理解を深めるために、建設業等における先進的な取り組みの紹介や労働者等向けの教育ツールの提供を行うこと。

 

4、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」

厚生労働省では、熱中症予防対策の徹底を図ることを目的として、関係省庁及び関係団体との連携の下、平成29年に続き、平成30年も「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」(期間:5月1日から9月30日まで)を実施しています。

このキャンペーンの目的は、職場における熱中症予防対策の浸透を図るとともに、重篤な災害を防ぐために、事業場におけるWBGT値の把握や緊急時の連絡体制の整備等を特に重点的に実施し、改めて職場における熱中症予防対策の徹底を図ることにあります。

 

 

5、職場でも必要に応じた熱中症予防対策を!

「熱中症」は、高温多湿な環境の中での作業などに起因して発症する病気です。

職場における熱中症といえば建設業というイメージもあるかもしれませんが、製造業、運送業、警備業、商業、清掃・と畜業などでも死傷者が出ています。

熱中症の予防のためにWBGT値を活用するほか、労働衛生教育を行うことも大切です。

 

必ずしも熱中症対策ばかりではないのでしょうけれども、最近では、猛暑日のテレワークを推奨する企業も出てきているようです。

職場において熱中症が起こるリスクは、業種や職場環境によって大きく異なりますが、死傷災害につながることもありますので、必要に応じた対策を検討する機会としてください。

2018年8月1日

「勤務間インターバル制度」をご存じですか?

 

長時間労働の是正に向けた取り組みとして注目されているものの一つに、「勤務間インターバル制度」があります。

今回は、この制度について、概観してみたいと思います。

 

1、「勤務間インターバル制度」とは?

 

「勤務間インターバル制度」とは、実際の終業時刻から始業時刻までの間隔を一定時間以上空ける制度をいいます。

労働者が日々働くにあたり、勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の「休息期間」を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図ろうとするものです。

 

勤務インターバルを導入する方法としては、次のようなものが考えられます。

①勤務終了後、次の始業時刻を繰り下げることで一定時間の休息時間を確保する方法

②ある時刻以降の残業を禁止し、次の始業時刻以前の勤務を認めないこととするなどにより「休息期間」を確保する方法

 

2、勤務インターバル制度の導入状況

 

厚生労働省「平成29年就労条件総合調査 結果の概況」において、平成29年1月1日現在の状況として、次のような結果が示されています。

(1)実際の終業時刻から始業時刻までの間隔が 11 時間以上空いている労働者の状況

1年間を通じて実際の終業時刻から始業時刻までの間隔が11時間以上空いている労働者が「全員」(37.3%)である企業が最も多く、次いで「ほとんど全員」(34.3%)となっており、これらを合わせると、71.6%になります。

一方で、このような労働者が「全くいない」(9.2%)又は「ほとんどいない」(3.5%)である企業割合は12.7%となっています。

 

(2)勤務間インターバル制度の導入状況

勤務間インターバル制度の導入状況別の企業割合は、「導入している」が1.4%、「導入を予定又は検討している」が5.1%、「導入の予定はなく、検討もしていない」が 92.9%となっています。

 

(3)勤務間インターバル制度を導入していない理由

勤務間インターバル制度の「導入の予定はなく、検討もしていない」企業についてその理由をみると、「当該制度を知らなかったため」(40.2%)が最も多く、次いで、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」(38.0%)となっています。

 

3、普及促進施策等

 

(1)時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)

勤務間インターバルの導入に取り組む中小企業事業主を支援するため、助成金が設けられています。

労働時間等の設定の改善を図り、過重労働の防止及び長時間労働の抑制に向け、勤務間インターバルの導入に取り組んだ際に、その実施に要した費用の一部が助成されます。

 

(2)数値目標の設定

過労死等防止対策推進法に基づいて定められる「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の見直しが行われ、その中で、勤務インターバル制度の普及に向けて、次のような数値目標が示されました。

労働者数30人以上の企業のうち、

①(2020年(平成32年)までに)勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を20%未満とする。

②(2020年(平成32年)までに)勤務間インターバル制度(終業時刻から次の始業時刻までの間に一定 時間以上の休息時間を設けることについて就業規則又は労使協定等で定めているものに限る。)を導入している企業割合を10%以上とする。

 

(3)導入の努力義務化

働き方改革法の一環として、労働時間等設定改善法において、勤務インターバル制度の導入について、事業主に努力義務が課せられる予定です(平成31年4月1日施行予定)。

事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととなります。

 

4、まずは適正な労働時間の把握を!

 

働き方改革が進む中、「長時間労働の是正」と、労働者が日々働くにあたり、必ず一定の休息時間を取れるようにするという、勤務インターバル制度の考え方は、表裏の関係にあります。

この制度は、働き方の見直しのための他の取り組みと併せて実施することで一層効果が上がるものと考えられていますが、いずれにしても、この制度を導入するにあたっては、始業時刻と終業時刻を適正に把握する必要があります。

労働者の健康確保やワーク・ライフ・バランスの推進のために、この制度への関心が高まっていますので、労働時間を適正に把握し、適切な労働時間管理をしていく中で、「勤務インターバル制度」も検討してみてください。

2018年7月2日

確定拠出年金法が改正されました!

 

平成29年1月1日から個人型確定拠出年金(愛称:iDeCo)の加入者の範囲が拡大されるなど、確定拠出年金については最近、耳にすることが多くなりました。

さらなる普及促進のため、平成30年5月1日施行の確定拠出年金法等の改正により、確定拠出年金における運用の改善、中小企業向けの対策などが図られました。

 

1、そもそも確定拠出年金とは?

確定拠出年金は、拠出限度額の範囲で拠出された掛金が個人ごとに明確に区分され、掛金とその運用収益との合計額をもとに年金給付額が決定される年金制度です。

給付額が確定している厚生年金基金や確定給付企業年金等とは異なり、将来の給付額が運用の結果により決定される点と、掛金の運用についての指図を個人が自己の責任において行う点に特徴があります。

確定拠出年金には、「企業型年金」と「個人型年金」があります。

(1)企業型年金

企業型年金の実施主体は、企業型年金規約の承認を受けた企業です。

実施企業に勤務する従業員(厚生年金保険の被保険者のうち第1号厚生年金被保険者又は第4号厚生年金被保険者)が、加入することができます。

掛金は、原則として、事業主が拠出しますが、規約に定めた場合は加入者も拠出することができます。

(2)個人型年金

個人型年金の実施主体は、国民年金基金連合会です。

次のとおり、基本的に、20歳以上60歳未満のすべての者が加入することができます。

①国民年金第1号被保険者:自営業者等(農業者年金の被保険者の者、国民年金の保険料を免除されている者を除きます。)

②国民年金第2号被保険者:厚生年金保険の被保険者(公務員や私学共済制度の加入者を含みます。企業型年金加入者においては、企業年金規約において個人型年金への加入が認められている者に限ります。)

③国民年金第3号被保険者:専業主婦(夫)等

掛金は、原則として、加入者自身が拠出します。

 

2、平成30年5月からの改正点

(1)簡易企業型年金の創設(企業型確定拠出年金関係)

簡易企業型年金は、設立条件を一定程度パッケージ化された制度とすることで、中小企業向けにシンプルな制度設計とした企業型年金です。

設立時に必要な書類等を削減して設立手続きを緩和するとともに、制度運営についても負担の少ないものにするなどの措置が講じられています。

簡易型企業年金は、厚生年金適用事業所の事業主であって、実施する企業型年金の企業型年金加入者の資格を有する者の数が100人以下であるものにおいてのみ、実施することができます。

(2)中小事業主掛金納付制度の創設(個人型年金関係)

中小事業主掛金納付制度は、企業年金を実施していない中小企業が、従業員の老後の所得確保に向けた支援を行うことができるよう、個人型年金に加入する従業員の掛金に追加して、事業主が掛金を拠出することができる制度です。

事業主が拠出することができる掛金の額は、その従業員の掛金との合計が個人型年金の拠出限度額の範囲内(月額23,000円相当)とされます。

中小事業主掛金納付制度は、厚生年金適用事業所の事業主であって、使用する第1号厚生年金被保険者が100人以下のものにおいてのみ、実施することができます。

この制度を利用する場合は、個人型年金の実施主体である国民年金基金連合会及び厚生労働大臣(地方厚生(支)局長)に届け出る必要があります。

掛金は、中小事業主掛金と合わせて、事業主を介して国民年金基金連合会に納付します。

(3)その他

次のような改正がなされています。

①確定拠出年金における運用の改善(企業型年金、個人型年金関係)

②企業型年金加入者が資格喪失した場合における説明事項の追加(企業型年金関係)

③継続投資教育の努力義務化

 

3、選択肢の一つとしての確定拠出年金!?

確定拠出年金制度は、国民年金や厚生年金保険の給付と組み合わせることで、より豊かな老後生活を送ることができるよう、自助努力による資産形成方法の一つとして、平成13年10月に導入されました。

掛金拠出時、運用時、給付受取り時に、それぞれ税制上の優遇措置も講じられています。

厚生労働省によれば、平成30年2月末現在、企業型年金に約648万人、個人型年金に約85万人が加入しているそうです。

今回の改正では、確定給付企業年金制度や中小企業退職金共済制度との間での資産移換(ポータビリティ)の拡充などにより、継続的な自助努力を行う環境の整備も図られました。

そうは言っても、「運用」や「投資」などと聞くとハードルが高く感じ、何かきっかけがなければ、なかなか踏み出せないことも実情だろうと思います。

これを機に、まずは少し興味を持つところから始めていくとよいかもしれませんね。

2018年6月6日

年金分野などでもマイナンバーの利用が拡大されています!

 

平成28年1月にマイナンバー(個人番号)の利用が開始されてから、気づけば2年以上が経過し、その利用範囲も少しずつ拡大しています。

年金分野においても、平成30年3月5日施行の国民年金法施行規則、厚生年金法施行規則などの改正により、その利用がさらに拡大されました。

 

1、日本年金機構におけるマイナンバーの利用

 

(1)マイナンバーを活用した窓口における相談・照会対応

日本年金機構では、個人番号による年金相談・照会を受け付けています。

基礎年金番号が分からない場合であっても、マイナンバーカード(個人番号カード)を提示することで、年金に関する相談や年金記録に関する照会を行うことができます。

 

(2)マイナンバーによる各種届出・申請

平成29年1月以降、一部の届書には受給権者本人等の個人番号を記入することとなっていましたが、今後は、これまで基礎年金番号を記入していた届書にも、原則として個人番号を記入することとなり、届出様式も一部、変更されました。

 

これにより、年金関係の手続きの際には、原則として、個人番号を記入することとなりますが、その記入が困難な場合は、引き続き基礎年金番号を用いることができます。

届書に個人番号を記入する場合には、本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)の添付が必要となります。

一方、届書に基礎年金番号を記入する場合には、年金手帳その他の基礎年金番号を確認できるものの添付が必要です。

 

(3)住所変更届及び氏名変更届の省略

日本年金機構においては、住基ネットから個人番号を基に最新の住所情報等を取得し、更新処理を行っています。

そのため、今後は、個人番号と基礎年金番号がひもづいている方については、被保険者の住所変更届及び被保険者・受給権者の氏名変更届を省略できることとなりました。

ちなみに、受給権者の住所変更届については、平成23年7月から省略できることとなっています。

 

(4)死亡届の省略

これまでも、個人番号と基礎年金番号がひもづいている受給権者については、その死亡の日から7日以内に戸籍法の規定による死亡の届出がされた場合には、死亡の届出を省略できることとされていました。

今後は、個人番号と基礎年金番号がひもづいている国民年金の第1号被保険者及び第3号被保険者についても、同様の場合には、死亡の届出を省略できることとなりました。

 

2、マイナンバーの利用に伴う取り扱い

 

(1)健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届について

健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届にも、個人番号を記入することとなります(基礎年金番号の記入は不要ですので、採用時の基礎年金番号の確認も不要となります。)

個人番号を記入した場合には、被保険者住所の記載を省略できますが、住民票上の住所と異なるところ(いわゆる「居所」)に住んでいる被保険者については、別に住所変更届(居所届)が必要です。

 

(2)利用目的の明示と本人確認措置など

健康保険・厚生年金関係の各種届書等において、従業員の個人番号を記入する際には、事業主が、利用目的の明示と本人確認措置を行う必要があります。

①利用目的の明示

個人情報保護法の規定に基づき、事業主が従業員の個人番号を取得するときは、利用目的(年金関係事務において利用すること等)を本人に通知又は公表しなければなりません。

②本人確認措置

本人確認にあたっては、個人番号が正しい番号であることの確認(番号確認)と、個人番号を提出する者が個人番号の正しい持ち主であることの確認(身元(実存)確認)が必要です。

 

なお、国民年金の第3号被保険者(厚生年金被保険者の被扶養配偶者)に関する届出は、厚生年金被保険者の勤務先の事業主を経由して行います。

第3号被保険者が本人の個人番号を記載して届出をする場合には、事業主又はその委託を受けた厚生年金被保険者が、第3号被保険者の本人確認を行う必要があります。

 

3、今後に向けて

 

導入当時はその取扱方法などがかなり話題になったマイナンバーですが、知らぬ間に、その利用範囲は、行政主導で着実に拡大しています。

2020年度から、マイナンバーカードを健康保険証の代わりとして使えるようになるようなことも報道されており、マイナンバーの利用範囲は、ますます拡大していくようです。

情報セキュリティ対策などへの懸念は残りつつも、この流れが止まらないのであれば、せめて個人番号を含めた個人情報の管理については、十分に注意したいものですね。

マイナンバーカードも、あまり普及していないようですが、個人的には、交付申請をして、どの程度使えるものなのかを試してみてもよいかもしれないと最近、少し思っています!

2018年5月1日

障害者の法定雇用率が引き上げられました!

 

障害者の雇用の促進等に関する法律(通称「障害者雇用促進法」)が改正され、平成30年4月1日から、障害者雇用率制度に係る障害者雇用率が引き上げられました。

 

1、障害者雇用率制度とは?

 

障害者雇用率制度とは、常用労働者の数に対する割合(障害者雇用率)を設定し、事業主等に障害者雇用率達成義務を課すものです。

障害者がごく普通に地域で暮らし、地域の一員として共に生活できる「共生社会」実現の理念の下、この制度により、障害者に一般労働者と同じ水準で常用労働者となり得る機会を与えようとしているわけです。

 

これまで、障害者雇用率制度における障害者雇用義務の対象は、身体障害者と知的障害者とされ、精神障害者を雇用した場合には、身体障害者または知的障害者である労働者を雇い入れたものとみなすといった取り扱いがされていました。

今回の改正により、この障害者雇用義務の対象に、精神障障害者が加えられました。

 

2、障害者雇用率の引上げ

 

(1)平成30年4月1日以降の障害者雇用率

障害者雇用義務の対象に精神障害者が加えられたことに伴い、障害者雇用率の算定基礎にも精神障害者が加えられることとなり、障害者雇用率も引上げとなりました。

平成30年4月1日からの障害者雇用率は、2.2%(国・地方公共団体等にあっては2.5%、都道府県等の教育委員会にあっては2.4%)となります。

 

ちなみに、障害者雇用納付金なども、申告対象期間が平成30年4月から平成31年3月までの分からは、引上げ後の障害者雇用率で算定することとなります。

 

(2)対象事業主の範囲の拡大

この障害者雇用率の引上げに伴い、障害者を雇用しなければならない事業主の範囲も、従業員50人以上から45.5人以上に広がりました。

従業員45.5人以上の事業主には、次の義務があります。

①毎年6月1日時点の障害者雇用状況を報告すること

②障害者の雇用の促進と継続を図るための「障害者雇用推進者」を選任するよう努めること

 

3、精神障害者の取り扱い

 

(1)対象障害者の範囲

前述のように、今回の改正により、障害者雇用義務の対象に精神障害者が加えられました。

これにより、雇用義務の対象となる「対象障害者」が、身体障害者、知的障害者又は精神障害者(精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限ります。)となりました。

 

(2)精神障害者である短時間労働者の算定方法の見直し

精神障害者の職場定着を促進するため、法定雇用率制度などにおける精神障害者である短時間労働者(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者)に関する算定方法が見直されました。

具体的には、精神障害者である短時間労働者であって、次の①及び②をともに満たすものについては、1人をもって、0.5人ではなく、1人とみなします。

①新規雇入れから3年以内の者または精神障害者保健福祉手帳の取得から3年以内の者であること

②平成35年3月31日までに、雇い入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること

 

ただし、退職後3年以内に、同じ事業主に再雇用された場合は、特例の対象となりませんので、原則どおり、精神障害者である短時間労働者1人をもって、0.5人と算定します。

また、発達障害により知的障害があると判定されていた者が、その発達障害により精神障害者保健福祉手帳を取得した場合は、判定の日を、精神保健福祉手帳取得の日とみなします。

 

4、障害者雇用義務を果たしていますか?

 

平成29年の障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)によれば、雇用障害者数、実雇用率はともに過去最高を更新し、法定の障害者雇用率を達成している企業の割合も50.0%となっています。

「共生社会」の実現に向けたこのような流れの一方で、未達成企業のうち障害者を1人も雇用していない企業(障害者雇用ゼロ企業)の割合は、58.7%に上っています。

 

障害者の「できること」に目を向け、活躍の場を提供することで、貴重な労働力を確保することができたり、障害者がその能力を発揮することができるよう職場環境を改善することで、他の従業員にとっても安全で働きやすい職場環境を整えることができたりすれば、企業にとっても大きなメリットとなるでしょう。

厚生労働省のホームページなどでは、精神障害者が企業で活躍している事例などが紹介されています。

また、障害者雇用のための各種助成金や職場定着に向けた人的支援など、さまざまな支援制度もありますので、これらを活用することも含めて、まずは1人からでも、障害者の雇用に目を向けてみませんか?

2018年4月3日

無期転換ルールへの対応はお済みですか?

 

有期契約労働者の無期契約化を図り、雇用を安定化させる目的で、平成25年4月1日に改正労働契約法が施行されました。

この施行から5年を経過する平成30年4月から、多くの企業で本格的に無期転換申込権の発生が見込まれています。

 

1、改めて、無期転換ルールとは?

 

労働契約法の改正により、平成25年4月1日以降の有期労働契約期間が同一の使用者との間で更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールです。

 

有期契約労働者(契約期間に定めのある労働者)が、この無期転換の申込みをした場合には、使用者が当該申込みを承諾したものとみなされ、その時点で、次回更新からの無期労働契約が成立します。使用者が、これを断ることはできません。

転換後の無期労働契約の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、別段の定め(労働協約、就業規則、個々の労働契約) がない限り、直前の有期労働契約と同一となります。

労働条件を変える場合は、別途、就業規則の改定などが必要です。

 

2、無期転換ルールへの対応

 

無期転換ルールへの対応にあたっては、中長期的な人事労務管理の観点から、次のような検討のほか、就業規則の整備などの対応が必要となります。

①円滑な導入のためにどのようにして労使双方にとって納得性の高い制度を構築するか。

②無期転換労働者の役割や責任の範囲を、どのように設定するか。

例えば、有期契約労働者の無期労働契約への転換方法としては、雇用期間のみの変更、多様な正社員への転換、正社員への転換が考えられます。

 

なお、無期転換ルールの適用に当たっては、有期雇用特別措置法により、定年後引き続き雇用される有期雇用労働者等については、都道府県労働局長の認定を受けることで、無期転換申込権が発生しないとする特例が設けられています。

この認定を受けるためには、都道府県労働局に対し申請を行う必要があます。

 

3、「いわゆる『期間従業員』の無期転換に関する調査」の結果

 

昨年12月27日に、厚生労働省から、大手自動車メーカー10社に対して行った「いわゆる『期間従業員』の無期転換に関する調査」の結果が公表されました。

次のような結果が示されています。

(1)期間従業員の有期労働契約について、10社中10社が更新上限を設けており、そのうちの7社が、更新上限を2年11か月(又は3年)としている。

(2)期間従業員の再雇用について、10社中7社が、再応募が契約終了から6か月未満の場合には再雇用しない運用としている。そのほかの3社については、再応募が契約終了から6か月未満であっても再雇用している企業が2社、再雇用をしていない企業が1社である。

(3)10社中7社で、期間従業員を正社員転換する仕組みを制度として設けており、ほかの3社中3社では、制度化しているわけではないが、正社員登用を行っている。

 

今回の調査について、厚生労働省は、無期転換ルールに関する企業の対応について外形的に把握したものであり、その限りでは、現時点で直ちに法に照らして問題であると判断できる事例は確認されなかったとしています。

しかし、この無期転換ルールを避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではありません。

また、有期契約の満了前に使用者が更新年限や更新回数の上限などを一方的に設けたとしても、雇止めをすることは許されない場合もありますので、慎重な対応が求められます。

個々の事案における雇止めや就業規則の変更の有効性については、最終的には司法において判断されることとなります。

 

4、人事管理のあり方を見直すきっかけに。

 

現在、多くの企業にとって、有期契約労働者が会社の事業運営に不可欠で、恒常的な労働力である傾向が見られます。

特に長期間雇用されている有期契約労働者は、例えば、仮に「1年契約」で働いていたとしても、ほぼ毎年「自動的に」更新を繰り返しているだけといえます。

有期契約労働者については、雇止めの不安の解消や処遇の改善も課題となっています。

 

有期契約労働者が無期に転換することで、企業にとっては、①意欲と能力のある労働力を安定的に確保しやすくなり、また、②長期的な人材活用戦略を立てやすくなるといったメリットが期待されます。

同時に、労働者にとっても、安定的かつ意欲的に働き、長期的なキャリア形成を図ることが可能になります。

 

有期契約労働者などの企業内でのキャリアアップなどを促進するため、正社員化、人材育成、処遇改善などの取り組みを実施した事業主に対する助成制度(キャリアアップ助成金)なども設けられています。

ぜひ無期転換制度への対応を積極的に行い、人事管理の仕組みを見直す機会の一つとしてくださいね。

2018年3月2日

特別な休暇制度を考えてみませんか?

 

働き方・休み方改革を進めるための支援策の一つに、特別な休暇制度の普及促進が掲げられていますが、ピンと来ないのが実情ではないでしょうか。

今回は、「特別な休暇制度」について、少しご紹介したいと思います。

 

1、特別な休暇制度とは?

特別な休暇制度とは、特に配慮を必要とする労働者に付与される休暇制度のことで、休暇の目的や取得形態を労使による話し合いにおいて任意で設定できる法定外休暇を指します。

特に配慮を必要とする労働者としては、「労働時間等見直しガイドライン」(労働時間等設定改善指針・平成20年厚生労働省告示第108号)に、次のものが例示されています。

①特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者

②子の養育又は家族の介護を行う労働者

③妊娠中及び出産後の女性労働者

④公民権の行使又は公の職務の執行をする労働者

⑤単身赴任者

⑥自発的な職業能力開発を図る労働者

⑦地域活動・ボランティア等を行う労働者

⑧その他特に配慮を必要とする労働者

 

2、病気療養のための休暇制度(病気休暇)

近年、長期にわたる治療等が必要な疾病やメンタルヘルス上の問題を抱えながら、職場復帰を目指して治療を受ける労働者や治療を受けながら就労する労働者の数が増加しています。

このような労働者をサポートするための制度としては、病気休暇制度をはじめ、次のような制度が考えられます。

(1)時間単位・半日単位の年次有給休暇

治療・通院のために時間単位や半日単位で取得できる休暇制度です。

時間単位の年次有給休暇については、労働基準法に基づき、労使協定を締結することによって、年に5日を限度に取得できるようになります。

(2)失効年休積立制度

失効した年次有給休暇を積み立てて、病気等で長期療養する場合に使えるようにする制度です。

(3)病気休暇制度

私傷病の療養のために、年次有給休暇とは別に利用することができる休暇制度です。

取得要件や期間は、労使の協議あるいは休暇を与える使用者が決定することができます。

(4)短時間勤務制度

疾病治療のために、一定の期間、所定労働時間を短縮する短時間勤務制度を利用するものです。

ちなみに、事業者は、労働安全衛生法に基づき、健康診断の結果を踏まえた医師等の意見や面接指導の結果を踏まえた医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少その他の労働時間等に係る措置を適切に講じなければなりません。

 

3、犯罪被害者の被害回復のための休暇

犯罪行為により被害を受けた被害者とそのご家族又はご遺族(犯罪被害者等)は、犯罪による生命、身体、財産上の直接的な被害だけではなく、さまざまな二次被害に直面します。

二次被害には、①事件に遭ったことによる精神的ショックや身体の不調、②医療費の負担や失職・転職などによる経済的困窮、③捜査や裁判の過程における精神的・時間的負担、④周囲の人々の無責任なうわさ話やマスコミの取材・報道による精神的被害などがあります。

このような被害を軽減・回復するためにも、犯罪被害者等が仕事を続けられることは重要な意味を持っています。

 

犯罪被害者の被害回復のための休暇とは、犯罪被害者等に対して、被害回復のために付与される休暇です。

例えば、犯罪被害による精神的ショックや身体の不調からの回復を目的として1週間の休暇を付与することや、治療のための通院や警察での手続き、裁判への出廷等のために利用できる休暇を付与することなどが考えられます。

また、必ずしも特別な休暇制度として設けなくても、犯罪被害者等となった従業員は休暇の取得が可能であることを周知することにより、従業員に安心感を与えることができます。

 

4、特別な休暇制度の導入・活用を!

例えば、病気休暇制度があれば、社員は、病気やケガなどの場合に一定の安心を得ることができますし、企業にとっても、これを人材の安定的な確保や仕事の質や効率の向上につなげることができるかもしれません。

一方で、平成29年就労条件総合調査(厚生労働省)によれば、平成29年1月1日現在、病気休暇制度がある企業割合は30%程度となっています。

 

特別な休暇制度には、「病気休暇」や「犯罪被害者の被害回復のための休暇」のほか、「ファミリーサポート休暇」「リフレッシュ休暇」「ボランティア休暇」「裁判員休暇」「自己啓発休暇」などが考えられています。

うまく活用すると、社員のモチベーションも上がり、意外な効果を発揮するかもしれません。

労使で十分に話し合って、社内のニーズに応じた特別な休暇制度を検討してみてはいかがでしょうか。

職業安定法が改正されました!

 

平成30年1月1日施行の職業安定法や省令・指針の改正により、求人情報等の適正化などを図るため、労働者の募集を行う際の新たな明示義務の追加などが行われました。

いずれもそれほど大きな改正ではありませんが、求人を行う際の参考にしてくださいね。

 

1、労働条件の明示が必要なタイミング

求人者は、ハローワーク等へ求人申込みをする際やホームページ等で労働者の募集を行う場合は、 労働契約締結までの間、次のタイミングで、労働条件を明示することが必要です。

今回の改正では、求職者等が、労働契約の締結の前に、当該契約の中に、職業紹介・募集広告で示された労働条件と異なる内容等が含まれていないかどうかを確認することができるようにするために、この②のタイミングでの明示が新たに義務づけられました。

①ハローワーク等への求人申込み、自社HPでの募集、求人広告の掲載等を行う際

:求人票や募集要項等において、労働条件を明示しなければなりません。

②労働条件に変更があった場合

:当初明示した労働条件を変更した場合は、変更内容について明示しなければなりません。

③労働契約締結時

:労働基準法に基づき、労働条件通知書等により労働条件を通知しなければなりません。

 

2、最低限明示しなければならない労働条件等

求人者は、労働者の募集や求人申込みの際に、少なくとも次の事項を、書面の交付によって明示しなければなりません。求職者が希望する場合には、電子メールによることもできます。

このうちの③⑧⑨の事項は、今回の改正により、書面の交付等により明示しなければならない事項に追加されたものです。

①業務内容、②契約期間、③試用期間、④就業場所、

⑤就業時間・休憩時間・休日・時間外労働、⑥賃金、⑦加入保険、⑧募集者の氏名又は名称

⑨労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨(労働者を派遣労働者として雇用しようとする場合に限ります。)

 

なお、今回の改正により、⑤の就業時間等に関する事項については、裁量労働制を採用している場合は、その旨を(例えば、「企画業務型裁量労働制により、○時間働いたものとみなされます。」などと)明示しなければならないこととなりました。

また、⑥の賃金に関する事項については、いわゆる固定残業代を採用する場合は、一定の事項を(例えば、「ア、基本給××円(イの手当を除く額) イ、□□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給) ウ、○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給」などと)明示しなければならないこととなりました。

 

3、労働条件に変更があった場合の変更内容の明示

(1)労働条件の変更に関する明示が必要となる場合

新たに義務づけられた労働条件の変更に関する明示は、次のような場合に必要となります。

なお、以下の「当初の明示」とは、職業紹介や募集時に明示された労働条件のことです。

①当初の明示と異なる内容の労働条件を提示する場合(例えば、当初は「基本給30万円/月」であったものを「基本給28万円/月」とする場合)

②当初の明示の範囲内で特定された労働条件を提示する場合(例えば、当初は「基本給25万円~30万円/月 」であったものを「基本給28万円/月」とする場合)

③当初の明示で明示していた労働条件を削除する場合(例えば、当初「基本給25万円/月、営業手当3万円/月」であったものを「基本給25万円/月」とする場合)

④当初の明示で明示していなかった労働条件を新たに提示する場合(例えば、当初「基本給25万円/月」であったものを「基本給25万円/月、営業手当3万円/月」とする場合)

 

(2)労働条件の変更に関する明示(変更明示)に当たっての留意事項

労働者が変更内容を認識したうえで、労働契約を締結するかどうか考える時間が確保されるよう、労働条件等が確定した後、可能な限り速やかに、変更明示をしなければなりません。

また、変更明示を受けた求職者から、変更した理由について質問をされた場合には、適切に 説明を行うことが必要です。

なお、当初明示した労働条件の変更を行った場合には、継続して募集中の求人票や募集要項 等についても修正が必要となることがありますので、その内容を検証したうえで、必要に 応じ修正等を行ってください。

 

4、その他の改正点

(1)虚偽の求人申込みに対する罰則

虚偽の条件を提示して、公共職業安定所または職業紹介を行う者に求人の申込みを行った者に対して、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が適用されることとなりました。

求人者について、勧告(従わない場合の公表)など指導監督の規定も整備されています。

 

(2)職業紹介事業者の情報提供義務

厚生労働省の運営する「人材サービス総合サイト」において、①就職者の数、②就職者のうち、6か月以内に離職した者の数、③手数料に関する事項(手数料表、返戻金制度等)等の情報を掲載することが、職業紹介事業者に義務づけられました。

職業紹介事業のサービスが多様化する中、求職者と求人者が適切な職業紹介事業者を選択することができるようにするための措置です。

2018年1月5日

そういえば、ストレスチェック?!

 

平成27年12月1日にストレスチェック制度が導入されてから、丸2年が経過しました。

皆さんの事業場では、ストレスチェックを実施していますか?

 

1、ストレスチェック制度とは?

ストレスチェック制度は、ストレスチェック(心理的な負担の程度を把握するための検査)とその結果に基づく面接指導などを実施するものです。

 

この制度では、①定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気づきを促し、個々の労働者のストレスを低減させるとともに、②検査結果を集団ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を評価して、職場環境の改善につなげることで、 ストレスの要因そのものを低減するよう努めることを事業者に求めています。

さらに、その中で、③ストレスの高い者を早期に発見し、医師による面接指導につなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としています。

 

2、ストレスチェック制度の実施状況

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに1回、定期に、ストレスチェックを実施し、その結果を所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません。

この報告が取りまとめられ、今年7月26日に、次のようなストレスチェック制度の平成 29 年6月末現在における実施状況が初めて公表されました。

 

(1)ストレスチェック制度の実施状況

ストレスチェックの実施が義務づけられた事業場のうち、ストレスチェック制度を実施した事業所(報告書の提出があった事業場)は82.9%でした。

事業場規模別にみると、50~99人では78.9%、1,000人以上では99.5%と、事業場の規模が大きくなるほど実施した事業場の割合が高くなっています。

 

(2)ストレスチェックの受検状況

ストレスチェックを実施した事業場の労働者のうち、ストレスチェックを受けた労働者の割合は78.0%でした。

ストレスチェックに関して、労働者に受検は義務づけられていませんが、この制度の趣旨からは、すべての労働者がストレスチェックを受検することが望ましいものとされています。

 

(3)ストレスチェック実施者の選任状況

ストレスチェック実施者は、医師、保健師、一定の研修を受けた看護師・精神保健福祉士から選任する必要がありますが、58.8%の事業場で、事業場内の産業医等がストレスチェック実施者として関与しています。

このストレスチェック実施者には、ストレスチェックの調査票の選定や調査票に基づくストレスの程度の評価方法、高ストレス者の選定基準の決定について、事業者に対して専門的な見地から意見を述べるとともに、ストレスチェックの結果に基づき、当該労働者が医師による面接指導を受ける必要があるか否かを確認するなどの役割があります。

 

(4)医師による面接指導の実施状況

ストレスチェックを受けた労働者のうち、医師による面接指導を受けた労働者の割合は0.6%でした。

一方で、ストレスチェックを実施した事業場のうち、32.7%の事業場で、医師による面接指導が実施されました。このうちの79.1%の事業場で、事業場選任の産業医が面接指導を担当しています。

事業者は、ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定された者であって、医師による面接指導を受ける必要があるとストレスチェック実施者が認めたものから申出があったときは、医師による面接指導を実施しなければなりません。

 

(5)集団分析の実施状況

ストレスチェックを実施した事業場のうち、78.3%の事業場が集団分析を実施しています。

集団分析とは、ストレスチェックの結果を職場や部署単位で集計・分析し、職場ごとのストレスの状況を把握することです。

集団分析の結果を、業務内容や労働時間など他の情報と併せて評価し、職場環境改善に取り組むことが事業者の努力義務となっています。

 

3、職場環境の改善を!

ストレスの状況は、なかなか自分でも分からないものです。

ストレスによって、身体や精神などに思わぬ反応が現れることもありますね。

ストレスチェック制度の実施において最も大切なことは、ストレスチェックをきっかけに、労働者一人ひとりが自らのストレスの状況に気づき、セルフケア等の対処をすることです。

一方で、集団分析をすると、高ストレス者が多い部署などが明らかになります。

事業者としては、この集団分析の結果を、長時間労働の改善や職場内のコミュニケーションのあり方などを含めた職場環境の見直しや働きやすい職場づくりに役立てたいところです。

メンタルヘルス対策への企業への取り組み事例なども提供されるようになってきていますし、企業の取り組みに対する助成なども行われていますので、ストレスチェック制度を十分に活用して、職場環境のさらなる改善に取り組んでみませんか?

2017年12月1日

年次有給休暇、取得していますか?

 

働き方改革として、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進が強く求められています。

そこで、今回は、年次有給休暇に少し焦点を当ててみたいと思います。

 

1、年次有給休暇の取得状況

厚生労働省「就労条件総合調査」により、年次有給休暇の状況をみると、取得率(全取得日数÷全付与日数×100)は、平成12年以降5割を下回る水準で推移しており、平成27年は48.7%でした。

平成27年7月24日に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」においては、平成32 年までに年次有給休暇の取得率を70%以上とすることが目標として掲げられていますが、目標達成にはまだ程遠い状況にあります。

 

2、そもそも年次有給休暇とは?

年次有給休暇は、労働基準法で定められた労働者の権利の一つで、所定の休日以外に仕事を休んでも賃金を払ってもらうことができる休暇です。

①6か月間継続して雇われていて、②全労働日の8割以上を出勤した労働者には、10日間の年次有給休暇が付与されます。

勤続年数が増えていくと、8割以上の出勤の条件を満たしている限り、1年ごとに取れる休暇日数は増えていきます(ただし、20日が上限です。)。

 

派遣社員やパートタイム労働者など正社員以外の働き方をしている労働者でも、前記の①6か月間の継続勤務、②全労働日の8割以上の出勤に加え、③週5日以上の勤務という3つの要件を満たせば、正社員と同じだけの年次有給休暇が付与されます。

週4日以下の勤務で前記③の要件を満たしていない労働者でも、週の所定労働時間が30時間以上であれば、正社員と同じだけの年次有給休暇が付与されます。

また、週の所定労働時間が4日以下で、週の所定労働時間が30時間未満の労働者には、その所定労働日数に応じた日数の年次有給休暇が付与されます。

 

年次有給休暇は、原則として、休養のためでもレジャーのためでも利用目的を問われることなく、取得することができます。

しかし、会社の正常な運営を妨げることになるときに限っては、使用者が別の時季に休暇を取るように休暇日を変更させることができます。

使用者は、有給休暇を取得した労働者に対して、不利益な取扱いをしてはいけません。

 

3、年次有給休暇取得促進のために

(1)年次有給休暇を取得しやすい環境の整備

年次有給休暇の取得率が低い要因の一つとして、周囲に迷惑がかかること、後で多忙になること、職場の雰囲気が取得しづらいこと等を理由に、多くの労働者がその取得にためらいを感じていることが指摘されています。

そこで、「労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)」では、事業主に、年次有給休暇の完全取得を目指して、経営者の主導の下、取得の呼びかけ等による取得しやすい雰囲気づくりや、労使の年次有給休暇に対する意識の改革を図ることを求めています。

 

(2)年次有給休暇の計画的付与制度の活用

年次有給休暇の取得率を向上させる取り組みの一つに、「計画的付与制度」があります。

この計画的付与制度は、付与日数のうち、5日を除いた残りの日数については、労使協定を結べば、計画的に年次有給休暇取得日を割り振ることができる制度です。

 

(3)「プラスワン休暇」の実施

土日・祝日に年次有給休暇を組み合わせて、連休を実現する取り組みが、「プラスワン休暇」です。

働き方や休み方を変えるきっかけとするために現在、その実施が奨励されています。

 

(4)「労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)」の改正

仕事と生活の調和や、労働者が転職により不利にならないようにする観点から、前掲のガイドラインが改正され、平成29年10月1日から適用されています。

この改正により、事業主が講ずべき措置として、次のものが加えられました。

①雇入れ後初めて年次有給休暇を付与するまでの継続勤務期間(6か月間)を短縮することや、年次有給休暇の最大付与日数に達するまでの継続勤務期間(6年6か月)を短縮すること等について、事業場の実情を踏まえ検討すること。

②地域の実情に応じ、労働者が子どもの学校休業日や地域のイベント等に合わせて年次有給休暇を取得できるよう配慮すること。

 

4、年次有給休暇の有効に活用を!

まさかいまだに「うちの会社に年次有給休暇なんてない!」「年次有給休暇なんて取れるわけがない!」などと決めつけていませんか?

年次有給休暇の取得は、心身の疲労回復などのために大切なことです。

また、年次有給休暇を取得しやすい環境は、仕事に対する意識やモチベーションを高め、仕事の生産性を向上させ、企業イメージの向上や優秀な人材の確保につながるなど、企業と労働者の双方にメリットがあります。

年次有給休暇を活用した働きやすく、休みやすい職場環境づくりを考えてみてくださいね。

2017年11月1日

育児・介護休業法が改正されました!

 

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(いわゆる「育児・介護休業法」)について、平成29年10月1日から、次のような改正が行われました。

保育所などに入所できず労働者が退職を余儀なくされる事態を防ぐとともに、育児をしながら働く労働者が育児休業等を取得しやすい職場環境づくりを促進することが目的です。

 

1、育児休業期間の延長~最長2歳まで育児休業の再延長が可能に。

育児休業とは、子を養育するためにする休業をいいます。

原則として1歳に満たない子を養育する労働者が育児休業をすることができますが、子が1歳に達する時点で保育所に入れない場合などには、子が1歳6か月に達するまで育児休業期間を延長することができます。

 

今回の改正により、さらに子が1歳6か月に達する時点で、次のいずれにも該当する場合には、子が1歳6か月に達する日の翌日から2歳に達するまでの期間について、事業主に申し出ることにより、育児休業期間を再延長することができるようになりました。

①育児休業に係る子が1歳6か月に達する日において、労働者本人または配偶者が育児休業をしている場合

②保育所に入所できない等、1歳6か月を超えても休業が特に必要と認められる場合

 

この2歳までの休業については、子の1歳6か月到達時点でさらに休業が必要な場合に限って、申出が可能となり、原則として子が1歳6か月に達する日の翌日が育児休業開始予定日となります。

また、育児休業期間が再延長された場合には、雇用保険の育児休業給付金の給付期間も、最長2歳までとなります。

 

2、育児休業等制度の個別周知

~子供が生まれる予定の方などに育児休業等の制度などをお知らせ。

事業主は、育児休業および介護休業に関して、あらかじめ、次に掲げる事項を定めるとともに、これを労働者に周知させるための措置を講ずるよう努めなければなりません。

①労働者の育児休業および介護休業中における待遇に関する事項

②育児休業および介護休業後における賃金、配置その他の労働条件に関する事項

③これらのほか、厚生労働省令で定める事項

 

今回の改正により、これに加えて、事業主は、労働者やその配偶者が妊娠・出産したことを知ったとき、または対象家族を介護していることを知ったときに、個別に関連する制度を周知するための措置も講ずるよう努めなければならないこととなりました。

 

この措置は、労働者のプライバシーを保護する観点から、労働者が自発的に妊娠・出産または介護の事実を知らせることを前提としたものである必要があります。

そのためには、労働者が自発的に知らせやすい職場環境が重要であり、相談窓口を設置する等の育児休業等に関するハラスメントの防止措置を事業主が講じている必要があります。

 

また、労働者に両立支援制度を周知する際には、労働者が計画的に育児休業を取得できるよう、併せて、①育児・介護休業法5条2項の規定による育児休業の再取得の特例(パパ休暇)、②パパ・ママ育休プラス、③その他の両立支援制度を周知することが望ましいものとされています。

 

3、育児目的休暇の新設~育児目的休暇の導入を促進。

事業主は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者について、労働者の区分に応じて定める制度または措置(育児休業に関する制度、所定外労働の制限に関する制度、短時間勤務制度または始業時刻変更等の措置)に準じて、必要な措置を講ずるよう努めなければなりません。

 

今回の改正により、これに加えて、事業主は、育児に関する目的で利用できる休暇制度を設けるよう努めなければならないこととなりました。

 

「育児に関する目的で利用できる休暇制度」とは、いわゆる配偶者出産休暇や、入園式・卒園式等の行事参加も含めた育児にも利用できる多目的休暇などが考えられますが、いわゆる失効年次有給休暇の積立による休暇制度の一環として「育児に関する目的で利用できる休暇」を措置することも、これに含まれます。

 

4、働きやすい職場環境の整備を!

ここのところ、育児・介護休業法の改正が続き、法整備が進んでいますが、「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」という回答が一定数あるのも現実です。

また、男性の育児休業の取得率がなかなか伸びない一方で、配偶者の妊娠・出産に際して男性が年次有給休暇制度など育児休業制度以外の休暇制度を多く利用している実態もあるようです。

このような現状を踏まえて、今回の改正が行われたわけですが、これを実効性のあるものとするためには、それぞれの職場での環境整備が不可欠です。

子育てや介護など家庭の状況から時間的制約を抱えている時期の労働者が仕事と家庭を両立していくことができるよう、職場での支援をいま一歩、進めてみませんか?

2017年10月2日

新たに年金を受け取ることができる方が増えました!

 

平成29年8月1日施行の国民年金法等の改正により、老齢基礎年金等を受け取るために必要な期間(資格期間)が、25年から10年に短縮されました。

納めた年金保険料をなるべく年金の受給につなげ、無年金者を減少させることが目的です。

 

1、老齢基礎年金を受けるためには?

(1)老齢基礎年金の支給要件

老齢基礎年金は、資格期間を満たした者が65歳に達したときに、支給されます。

この場合の「資格期間」とは、次の期間を合計した期間のことです。

①国民年金の保険料を納めた期間や免除された期間

②サラリーマンの期間(船員保険を含む厚生年金保険や共済組合等の加入期間)

③年金制度に加入していなくても資格期間に加えることができる期間(「カラ期間」と呼ばれる合算対象期間)

 

(2)改正の内容

今回の改正により、これまで25年とされていた資格期間が、10年に短縮されました。

例えば、保険料納付済等の期間が15年しかなく資格期間を満たしていなかった方も、今後は老齢基礎年金の支給を受けることができるようになりました。

 

(3)老齢基礎年金を受けるための手続き

実際に老齢基礎年金の支給を受けるためには、年金請求書に必要事項を記入のうえ、住民票などの書類と併せて、日本年金機構(年金事務所等)に提出しなければなりません。

平成29年8月1日時点ですでに65歳以上の方で、今回の改正により資格期間を満たすこととなった方(保険料納付済等の期間が10年以上25年未満の方)には、平成29年7月までに、日本年金機構から「年金請求書(短縮用)」が送付されているはずですので、まだ手続きをされていない方は、請求の手続きをしてください。

保険料納付済等の期間が10年以上の方が、平成29年8月1日後に65歳以上になった場合には、その時点で、請求の手続きをします。

 

2、受け取ることができる年金額は?

老齢基礎年金の額は、納付した期間に応じて決まります。

40年間保険料を納付された方が、満額(月額:約65,000円)を受け取ることができます。

したがって、10年間の納付では、受け取る年金額は、概ねその4分の1になります。

 

3、今からら保険料を納めて年金額を増やす?

(1)任意加入制度

希望される方は、60歳から65歳までの5年間、国民年金保険料を納めることで、65歳から受け取る老齢基礎年金の額を増やすことができます。

また、資格期間が10年に満たない方は、最長70歳まで国民年金に任意加入することで資格期間が増え、年金を受け取ることができるようになります。

 

この任意加入制度を利用することができるのは、次の①~④のすべてに該当する方です。

①日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の方(年金の資格期間を満たしていない場合は70歳未満の方)

②老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていない方

③20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満の方

④現在、厚生年金保険に加入していない方

 

(2)後納制度(平成30年9月まで)

過去5年以内に国民年金保険料の納め忘れがある場合には、申し込んで、保険料を納めることにより、年金を受け取ることができるようになったり、年金額が増えたりします。

 

この後納制度を利用することができるのは、次の①または②のいずれかに該当する方です。

①5年以内に保険料(任意加入中の保険料を含みます。)を納め忘れた期間がある方

②5年以内に未加入の期間がある方(任意加入の対象となる期間は該当しません。)

ただし、60歳以上で老齢基礎年金を受け取っている方は申し込みをすることができません。

 

(3)特定期間該当届(保険料を納付できる期間は平成30年3月まで)

例えば、会社員の夫が退職したときや、妻の年収が増えて夫の健康保険の被扶養者から外れたときなどには、国民年金の3号から1号への切り替えが必要ですが、過去に2年以上切り替えが遅れたことがある方は、その遅れた期間の記録が保険料未納期間になっています。

「特定期間該当届」の手続きをすることで、年金を受け取ることができない事態を防止することできるほか、最大で10年分の保険料を納め、受け取る年金額を増やすことができます。

 

4、年金記録の確認を!

今回の改正により、約40万人が、初めて老齢基礎年金の受給権を得たようです。

一方で、持ち主が確認できていない年金記録が、いまだに約2,000万件残っているそうですから、この中にご自身の記録があった場合には、それを反映することで、年金を受け取れるようになったりすることがあるかもしれません。

普段は気に留めることもないでしょうけれども、「ねんきん定期便」などがお手元に届いたときには、ご自身の年金記録を確認してみてくださいね。

2017年9月1日