精神障害に関する労災請求件数が過去最多に~過労死等の労災補償状況より

 

先日、厚生労働省より、令和4年度「過労死等の労災補償状況」が公表されました。

これによれば、精神障害に関する労災請求件数と支給決定件数が、前年度に続き過去最多を更新したとのことです。

 

1、「過労死等の労災補償状況」について

 

厚生労働省は、

過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、

労災請求件数や、「業務上疾病」と認定し労災保険給付を決定した支給決定件数などを、平成14年以降年1回、

取りまとめて公表しています。

 

「過労死等」とは、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは

業務における強い心理負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは

心臓疾患若しくは精神障害をいう」と定義されています(過労死等防止対策推進法2条)。

また、今回公表された支給決定件数は、令和4年度以前に請求があったものを含めて、

令和4年度中に「業務上」と認定した件数です。

 

2、精神障害に関する事案の労災補償状況(令和4年度)

 

(1)請求件数は2,683件で、前年度比337件の増加となり、2年連続で過去最多となっています。

うち未遂を含む自殺の件数は、前年度比12件増の183 件です。

 

(2)支給決定件数は710件で、前年度比81件の増加となり、4年連続で過去最多となっています。

うち未遂を含む自殺の件数は、前年度比12件減の67件です。

 

(3)業種別(大分類)の傾向

請求件数は、最も多いのが「医療,福祉」(624件)であり、次いで「製造業」(392件)、

「卸売業,小売業」(383件)などとなっています。

支給決定件数も、最も多いのが「医療,福祉」(164件)であり、次いで「製造業」(104件)、

「卸売業,小売業」(100件)などとなっています。

 

(4)職種別(大分類)の傾向

請求件数は、最も多いのが「専門的・技術的職業従事者」(699件)であり、次いで「事務従事者」(566件)、

「サービス職業従事者」(373件)などとなっています。

支給決定件数も、最も多いのが「専門的・技術的職業従事者」(175件)であり、次いで「事務従事者」(109件)、

「サービス職業従事者」(105件)などとなっています。

 

(5)年齢別の傾向

請求件数は、最も多いのが「40~49歳」(779件)であり、次いで「30~39歳」(600件)、

「50~59歳」(584件)の順となっています。

支給決定件数は、最も多いのが「40~49歳」(213件)であり、次いで「20~29歳」(183件)、

「30~39歳」(169件)の順となっています。

 

(6)時間外労働時間別(1か月平均)の傾向

支給決定のあった710件について、心理的負荷の評価期間における1か月平均の時間外労働時間数をみると、

「20時間未満」が87件で最も多く、次いで「100時間以上~120時間未満」が45件となっています。

 

(7)出来事別の傾向

「出来事」とは、精神障害の発病に関与したと考えられる事象の心理的負荷の強度を評価するために、

認定基準において、一定の事象を類型化したもののことです。

 

支給決定のあった710件について、業務による負荷につながった出来事をみると、

最も多いのが「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(147件)であり、

次いで「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」(89件)、

「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(78件)などとなっています。

また、自殺未遂を含む自殺(支給決定のあった67件)について見ると、

最も多いのが「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(16件)であり、

次いで「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(12件)などとなっています。

 

3、その他の状況(令和4年度)

 

(1)脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況

請求件数は803件で、前年度比50件の増加(3年ぶりの増加)、

うち死亡件数は前年度比45件増の218件となっています。

支給決定件数は194件で、前年度比22件の増加(6年ぶりの増加)、

うち死亡件数は前年度比3件減の54件となっています。

 

(2)裁量労働制対象者に関する労災補償状況

裁量労働制対象者に関する脳・心臓疾患の支給決定件数は3件で、いずれも専門業務型裁量労働制対象者でした。

また、精神障害の支給決定件数は8件で、いずれも専門業務型裁量労働制対象者でした。

 

4、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」について

近年の社会情勢の変化等を踏まえ、精神障害事案の審査をより適切・迅速に行うため認定基準全般について

検討が行われ、これを取りまとめた報告書が別途、公表されています。

この報告書では、

①業務による心理的負荷評価表の見直し、②精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し、

③医学意見の収集方法を効率化などについて、検討が行われたことが示されています。

この報告書を受け、今後、精神障害の労災認定基準の改正が行われる予定です。

2023年8月2日