賃金不払いが疑われる事業場に対する監督指導結果について

 

先日、厚生労働省から、令和4年に賃金不払いが疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した

監督指導の結果について、その取りまとめが公表されました。

これによると、労働基準監督署が取り扱った賃金不払い事案のうち、令和4年中に、

労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い、解決されたものは、約2万の事業場で、

支払総額は約79億円に上っています。

 

1、集計内容の変更について

 

従来は、労働基準監督署が監督指導を行った結果、支払額が1企業当たり100万円以上の割増賃金不払い事案のみが

集計の対象となっていましたが、今回からは、それ以外の事案を含めた賃金不払い事案全体が

集計の対象とされています。

これに伴う、前回の取りまとめからの変更点は、次のとおりです。

集計期間:年度単位(令和3年4月から令和4年3月)→年単位(令和4年1月から令和4年12月)

集計対象となる賃金:割増賃金のみ→定期賃金(退職金を含む。)、割増賃金、休業手当

集計対象となる事案:1事案当たり100万円以上支払ったもののみ→1事案当たり1円以上支払ったもの

 

2、賃金の支払いに関する労働基準法上の定め

 

今回の取りまとめにおいて、集計対象となった賃金に関しては、労働基準法上、次のような基準が定められています。

 

(1)賃金(労働基準法第24条)

賃金は、原則として、①通貨で、②直接労働者に、③全額を、④毎月1回以上、

⑤一定の期日を定めて支払わなければなりません。

なお、退職金についても、支給条件が労働協約、就業規則、労働契約等により明確に定められ、

労働者が権利として請求することができる場合には、賃金に該当し、これを支給しない場合には、

前記③に抵触することとなります。

 

(2)割増賃金(労働基準法第37条)

時間外労働、休日労働、深夜労働については、割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金は、

1時間当たりの賃金に割増賃金率を乗じることにより計算します。

時間外労働(法定労働時間を超えて労働させた場合)の割増賃金率は、2割5分以上の率です。

ただし、1か月に60時間を超える時間外労働の割増賃金率は5割以上の率となります。

休日労働(法定休日に労働させた場合)の割増賃金率は、3割5分以上の率です。

深夜労働(原則として午後10時~午前5時に労働させた場合)の割増賃金率は、2割5分以上の率です。

 

(3)休業手当(労働基準法第26条)

会社側の都合(使用者の責に帰すべき事由)により、労働者を休ませた場合には、平均賃金の6割以上の手当を

支払わなければなりません。

 

3、監督指導結果について

 

(1)監督指導状況

①件数:20,531 件、このうち指導により支払われたものは19,708件(96.0%)

②対象労働者数:179,643 人、このうち指導により支払われものは175,893人(98.0%)

③金額:121 億2,316 万円、このうち指導により支払われたものは79 億4,597万円(65.5%)

※1事案における最大支払金額は2.7億円

 

(2)業種別の監督指導状況(割合は、いずれも賃金不払い事案全体に占める割合)

①件数

商業(4,476件・22%)が最も多く、次いで、製造業(4,168件・20%)、保健衛生業(2,773件・14%)、

建設業(2,398件・12%)、接客娯楽業(2,224件・11%)、運輸交通業(1,115件・5%)等となっています。

②対象労働者数

商業(41,907人・23%)が最も多く、次いで、製造業(36,661人・20%)、保健衛生業(30,889人・17%)、

建設業(12,350人・7%)、接客娯楽業(8,416人・5%)、運輸交通業(6,595人・4%)等となっています。

③金額

製造業(37.2億円・31%)が最も多く、保健衛生業(16.2億円・13%)、商業(15.7億円・13%)、

建設業(13.1億円・11%)、運輸交通業(4.1億円・3%)、接客娯楽業(3.9億円・3%)等となっています。

 

(3)その他

以上のような結果と併せて、監督指導による是正事例及び送検事例が公表されています。

監督指導による是正事例としては、「タイムカード等がなく、労働時間が適正に把握されていない

(労働時間の適正把握の阻害)事例や、「一定の時刻以降の残業時間に対する残業代が支払われない

(労働時間記録と労働実態の乖離)事例などについて、指導の内容及び企業が実施した解決策が示されています。

送検事例としては、月20時間を超える時間外割増賃金を支払わなかった疑いで送検された事例、

時間外割増賃金を支払わず、監督官に虚偽の陳述をした疑いで送検された事例が示されています。

2023年9月1日