1、副業・兼業の現状
多様な働き方が模索される中、副業・兼業を希望する労働者も増加傾向にあるようですが、労働者の副業・兼業を認めている企業はまだ多くはありません。
裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、①労務提供上の支障となる場合、②企業秘密が漏洩する場合、③企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、④競業により企業の利益を害する場合と考えられる旨を示しています。
また、厚生労働省が平成30年1月に改定したモデル就業規則においては、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」としています。
政府も副業・兼業の普及促進を図っていますが、一方では、副業・兼業により労働者の長時間労働につながることも懸念されるため、副業・兼業の場合における労働時間管理や健康管理等について、ガイドラインを示しています。
以下では、このガイドラインの概要を、かいつまんで取り上げます。
2、企業に求められる対応
(1)基本的な考え方
副業・兼業を進めるに当たっては、労働者と企業の双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と労働者との間で十分にコミュニケーションをとることが重要です。
副業・兼業を認める場合には、就業規則において、原則として労働者は副業・兼業を行うことができること、例外的に、①安全配慮義務、②秘密保持義務、③競業避止義務、④誠実義務に支障がある場合には、副業・兼業を禁止又は制限できることとしておくことが考えられます。
(2)労働時間管理について
労働者が事業主を異にする複数の事業場で労働する場合には、労働基準法38条1項に基づき、労働時間を通算して管理することが必要です。
①労働時間の通算が必要となる場合
労働者が事業主を異にする複数の事業場において、「労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合には、労働時間が通算されます。
この場合には、法定労働時間、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の適用にあたっては、労働時間を通算することとなります。
一方、事業主、委任、請負など労働時間規制が適用されない場合には、その時間は通算されません。
②副業・兼業の確認
使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認します。副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うためには、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましいものとされています。
③労働時間の通算
副業・兼業を行う労働者を使用するすべての使用者は、労働時間を通算して管理しなければなりません。労働時間の通算は、自社の労働時間と、労働者からの申告等により把握した他社の労働時間を通算することによって行います。
④時間外労働の割増賃金の取扱い
副業・兼業の開始前に、自社の所定労働時間と他社の所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分は後から契約した会社の時間外労働となります。
副業・兼業の開始後に、所定労働時間の通算に加えて、自社の所定外労働時間と他社の所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分が時間外労働となります。
使用者は、これらによって時間外労働となる部分のうち、自社で労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。
なお、労働時間管理は、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、労働基準法が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)により行うことができます。
(3)健康管理
使用者は、労働安全衛生法に基づき、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等を実施しなければなりません。
また、健康確保の観点からも、他の事業場における労働時間と通算して適用される労働基準法の時間外労働の上限規制を遵守すること等が求められます。
3、労働者に求められる対応
労働者は、自社の副業・兼業に関するルールを確認し、そのルールに照らして、業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業を選択する必要があります。
また、労働者は、副業・兼業による過労によって健康を害したり、業務に支障を来したりすることがないよう、自ら業務量や進捗状況、時間や健康状態を管理しなければなりません。