今後、人手不足が進行するとともに、健康寿命が延伸し、中長期的には現役世代の人口の急速な減少が
見込まれる中で、特に高齢者や女性の就業が進み、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり、
多様な形で働くようになることが見込まれています。
このような社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、
現在、段階的に、国民年金法及び厚生年金保険法などの改正が行われています。
令和4年4月1日からは、①在職中の年金受給の在り方の見直し、②受給開始時期の選択肢の拡大等に
関する部分が施行されます。
1、年金制度に関する主な改正の概要(令和4年4月1日施行分)
(1)在職中の年金受給の在り方の見直し(厚生年金保険法)
①高齢期の就労継続を早期に年金額に反映するため、在職中の老齢厚生年金の受給権者(65歳以上)の年金額を
毎年、定時に改定する仕組みが導入されます。
②60歳から64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度について、
支給停止とならない範囲が拡大されます。
(2)受給開始時期の選択肢の拡大(国民年金法、厚生年金保険法等)
現在60歳から70歳の間となっている年金の受給開始時期の選択肢が、60歳から75歳の間に拡大されます。
2、在職中の年金受給の在り方の見直し
(1)在職定時改定の導入
在職定時改定は、65歳以上の在職中の老齢厚生年金の受給権者について、年金額を毎年10月に改定し、
それまでに納めた保険料を年金額に反映する仕組みです。
これまでは、退職等により厚生年金保険の被保険者の資格を喪失するまでは、
老齢厚生年金の額は改定されませんでしたが、在職定時改定の導入により、就労を継続したことの効果が、
退職を待つことなく、早期に年金額に反映されることとなります。
具体的には、老齢厚生年金の受給権者が毎年9月1日(基準日)において被保険者である場合
(基準日に被保険者の資格を取得した場合を除く。)には、基準日の属する月前(8月まで)の
被保険者であった期間をその計算の基礎として、基準日の属する月の翌月(10月)から、
老齢厚生年金の額が改定されます。
また、基準日が被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの間に到来し、
かつ、当該被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの期間が
1か月以内である場合(退職時改定の対象とならない場合)にも、同様に、老齢厚生年金の額が改定されます。
(2)在職老齢年金制度の見直し
在職老齢年金制度は、就労し、賃金と年金の合計額が一定以上になる60歳以上の老齢厚生年金の受給権者を
対象として、老齢厚生年金の全部又は一部の支給を停止する仕組みです。
今回の改正により、60~64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度について、
年金の支給が停止される基準が支給停止調整開始額(令和3年度価額:28万円)から支給停止調整額
(令和3年度及び4年度価額:47万円)に緩和されます。
これにより、令和4年度以降は、65歳以上に支給される老齢厚生年金と同様に、総報酬月額相当額(賃金)と
基本月額(年金月額)の合計額が支給停止調整額を超える場合に、その超える額の2分の1に相当する部分の
支給が停止されることとなります(賃金と年金月額の合計額が28万円から47万円の方については、
老齢厚生年金の支給が停止されなくなります。)。
3、老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給開始時期の選択肢の拡大
(1)受給開始時期の選択
老齢基礎年金及び老齢厚生年金は、原則として、65歳から受け取ることができますが、希望すれば、
65歳より早く受け取り始める(支給を繰り上げる)ことや、65歳より遅く受け取り始める
(支給を繰り下げる)ことができます。
支給を繰り上げた場合には一定の減額率で減額された年金を、支給を繰り下げた場合には一定の増額率で
増額された年金を、それぞれ生涯を通じて受け取ることができます。
(2)支給繰下げに関する上限年齢の引上げ
今回の改正により、65歳より遅く受け取り始める(支給を繰り下げる)場合の上限年齢が、70歳から75歳に
引き上げられます。増額率は、これまでと同様、1か月当たり0.7%ですから、最大で84%となります。
なお、この上限年齢の引上げの対象となるのは、令和4年4月1日以降に70歳に到達する方
(昭和27年4月2日以降に生まれた方)です。
(3)支給繰上げに関する減額率の引下げ
今回の改正により、65歳より早く受け取り始める(支給を繰り上げる)場合の減額率が、0.5%から0.4%に
引き下げられます。支給繰下げの請求をするこができるのは、60歳以上65歳未満の方ですので、
減額率は、最大で24%となります。
なお、この減額率の引下げの対象となるのは、令和4年4月1日以降に60歳に到達する方
(昭和37年4月2日以後生まれの方)です。昭和37年4月1日以前生まれの方については、
これまでの減額率(1か月当たり0.5%、最大30%)が適用されます。