先日、厚生労働省より「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」が公表されました。
個別労働紛争解決制度と、その施行状況についてご紹介します。
1、「個別労働紛争解決制度」とは?
個別労働紛争解決制度は、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るための制度です。
紛争解決の方法としては、次の三つがあります。
(1)総合労働相談
都道府県労働局、各労働基準監督署内、駅近隣の建物など380か所(平成31年4月1日現在)に、あらゆる労働問題に関する相談にワンストップで対応するための総合労働相談コーナーが設置され、専門の相談員が対応しています。
個別労働紛争の未然防止及び自主的な解決の促進のため、労働者又は事業主に対し、情報の提供、相談その他の援助を行います。
(2)都道府県労働局長による助言・指導
民事上の個別労働紛争について、都道府県労働局長が、紛争当事者に対して解決の方向を示すことにより、紛争当事者の自主的な解決を促進する制度です。
助言は、当事者の話し合いを促進するよう口頭又は文書で行われます。
指導は、当事者のいずれかに問題がある場合に問題点を指摘し、解決の方向性が文書で示されます。
(3)紛争調整委員会によるあっせん
都道府県労働局に設置されている紛争調整委員会のあっせん委員(弁護士や大学教授など労働問題の専門家)が紛争当事者の間に入って話し合いを促進することにより、紛争の解決を図る制度です。
2、「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」の概要
(1)総合労働相談件数、助言・指導の申出件数、あっせん申請の件数は、いずれも前年度より増加しています。
①総合労働相談件数は、111万7,983件(前年度比1.2%増)で、11年連続で100万件を超え、高止まりしています。
このうち、民事上の個別労働紛争相談件数は、26万6,535件(同5.3%増)です。
「民事上の個別労働紛争」とは、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(労働基準法等の違反に係るものを除く)をいいます。
②助言・指導申出件数は、9,835件(同7.1%増)です。
③あっせん申請件数は、5,201件(同3.6%増)です。
(2)相談内容別では、民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数のすべてで、「いじめ・嫌がらせ」が過去最高となっています。
①民事上の個別労働紛争の相談件数では、「いじめ・嫌がらせ」が82,797件(前年度比14.9%増)と最も多く、次いで、「自己都合退職」が41,258件(同5.9%増)、「解雇」が32,614件(同2.0%減)、「労働条件の引下げ」 が27,082件(同4.8%増)となっています。
②助言・指導の申出では、「いじめ・嫌がらせ」が2,599件(同15.6%増)と最も多く、次いで、「自己都合退職」が965件(同11.7%増)、「解雇」が936件(同5.5%減)、「労働条件の引下げ」が825件(同6.5%増)となっています。
③あっせんの申請では、「いじめ・嫌がらせ」が1,808件(同18.2%増)と最も多く、次いで、「解雇」が1,112件(同5.8%減)、「雇止め」が448件(同17.8%減)、「退職勧奨」が360件(同15.4%増)、「労働条件の引下げ」が338件(同4.8%減)となっています。
3、あっせん手続きの流れ
あっせんの手続きは、次のような流れで行われます。
①あっせんの申請をしようとする者は、あっせん申請書を当該あっせんに係る紛争当事者である労働者に係る事業場の所在地を管轄する都道府県労働局の長に提出します。
②都道府県労働局長は、個別労働紛争の解決のために必要があると認めるときは、都道県労働局に設置されている紛争調整委員会にあっせんを行わせます。
③あっせんの期日を定めて、紛争当事者に開始通知がなされ、あっせんへの参加・不参加の意思確認が行われます。
④紛争当事者の双方があっせん案を受諾した場合は、合意成立となります。
紛争当事者の双方又は一方が参加しない場合、あっせん案を受諾しない場合、あっせんの打切りを申し出た場合には、打ち切りとなります。
ちなみに、あっせん手続きの終了件数に占める合意成立件数の割合は、40%弱で推移しています。
4、トラブルの早期解決を!
個別労働紛争解決制度は、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき設けられたものですが、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争は、できれば未然に防止したいものです。
また、同法では、このような紛争が生じたときは、紛争当事者に、早期に、かつ、誠意をもって、自主的な解決を図るように努めることも求めています。
たとえば、職場で「いじめ・嫌がらせ」の事案などが発生した場合にも、トラブルが小さいうちに職場内で解決できることが望ましいといえます。
そのような際に必要なことがあれば、私たち社会保険労務士にも相談してくださいね。