全ての世代で広く安心を支えていく「全世代対応型の社会保障制度」を構築するため、
健康保険法等の改正が行われ、その一部が令和4年1月1日から施行されました。
また、産科医療補償制度の改正に伴い、同日より、出産育児一時金の額等が見直されました。
1、傷病手当金の支給期間の通算化
がん治療のために入退院を繰り返すなど、長期間にわたって療養のため休暇を取りながら
働くケースが存在します。このため、治療と仕事の両立の観点から、より柔軟な所得保障が
できるよう、傷病手当金の支給期間が通算化されました。
(1)傷病手当金の支給期間
傷病手当金の支給期間は、従来、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、
その支給を始めた日から起算して1年6か月を超えないものとされていましたが、
今回の改正により、その支給を始めた日から通算して1年6か月間とされました。
これにより、支給期間中に途中で就労するなどして、傷病手当金が支給されない期間が
ある場合には、支給開始日から起算して1年6か月を超えても、繰り越して支給されるように
なりました。つまり、同一のケガや病気に関しては、最大で1年6か月分、傷病手当金の支給
受けることができるようになったわけです。
なお、傷病手当金の額は、1日につき、原則として、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の
直近の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に
相当する金額です。
(2)改正の対象となる傷病手当金
令和3年12月31日時点で、支給開始日から起算して1年6か月を経過していない傷病手当金に
ついて、支給期間が通算化されます。つまり、令和2年7月2日以降に支給が開始された
傷病手当金が対象です。
なお、資格喪失後の傷病手当金の継続給付については、従来どおりです。被保険者として
受けることができるはずであった期間において、継続して同一の保険者から給付を受けることが
できますが、「継続」が要件となっていることから、一時的に労務可能となった場合には、
治癒しているか否かを問わず、同一の疾病等により再び労務不能となっても、傷病手当金は
支給されません。
2、任意継続被保険者制度の見直し
(1)任意継続被保険者の任意の資格喪失
任意継続被保険者制度は、健康保険の被保険者が退職した後も選択によって、引き続き最大2年間、
退職前に加入していた健康保険の被保険者になることができる制度です。
任意継続被保険者の任意の資格喪失は、これまで認められていませんでしたが、
被保険者の生活実態に応じた加入期間の短縮化を支援する観点から、今回の改正により、
これが認められることとなりました。
任意継続被保険者が、任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を保険者に申し出た場合には、
その申出が受理された日の属する月の翌月1日に任意継続被保険者の資格を喪失します。
この任意の資格喪失の申出は、原則として、取り消すことができません。
なお、保険料の前納を行った任意継続被保険者についても、任意の資格喪失が可能です。
資格を喪失した場合には、前納した保険料のうち未経過期間に係るものは還付されます。
(2)健康保険組合における任意継続被保険者の保険料の算定基礎
任意継続被保険者の保険料の算定基礎(標準報酬月額)は、原則として「資格喪失時の標準報酬月額」
又は「任意継続被保険者が属する保険者の管掌する全被保険者の平均の標準報酬月額」の
いずれか少ない額とされています。
健康保険組合においては、実状に応じて柔軟な制度設計が可能となるよう、今回の改正により、
これらに加え、規約で定めることにより、「資格喪失時の標準報酬月額」又は
「当該健康保険組合における全被保険者の平均標準報酬月額を超え、資格喪失時の
標準報酬月額未満の範囲内において規約で定める額」を当該健康保険組合の任意継続被保険者の
保険料算定基礎とすることが可能となりました。
この範囲内であれば、標準報酬月額を多段階で設定するなど、健康保険組合の裁量により
設定することも可能とされています。
3、産科医療補償制度の改正に伴う出産育児一時金の額等の見直し
令和4年1月1日以後の出産に係る出産育児一時金及び家族出産育児一時金の支給額が、
従来の40万4,000円から40万8,000円に引き上げられました。
ただし、これは、産科医療補償制度の掛金が1万6,000円から1万2000円に引き下げられたことに
伴う見直しですので、産科医療補償制度の対象となる出産の場合には、従来と同様に、1児につき、
掛金を加算した42万円が支給されます。
なお、産科医療補償制度は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺の子とその家族の経済的負担を
補償する制度であり、出生した子が「補償対象基準」「除外基準」「重症度基準」の全てを
満たす場合に補償対象となります。
このうちの「補償対象基準」が、従来は、「在胎週数32週以上かつ出生体重1,400グラム以上で
あること」又は「在胎週数28週以上かつ低酸素状況を示す所定の要件に該当すること」でしたが、
令和4年1月1日以降は、「在胎週数28週以上であること」のみとなりました。
「除外基準」(先天性や新生児期の要因によらない脳性麻痺であること)及び「重症度基準」
(身体障害者障害程度等級1級又は2級相当の脳性麻痺であること)に変更はありません。